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連載
206話 フナールの要塞攻略
しおりを挟むゲコタが要塞に侵入して、内部から門を兼ねた跳ね橋を吊り上げるロープを切る。この作戦を成功させるために僕たちは動きだした。
まずは要塞にいる魔物の動きを観察しないと。
待ち伏せを警戒しつつローズを先頭に従魔の住処から外に出る。ダンジョンに建つ要塞を囲む草原には、魔物の気配ひとつなく、フナールたちは、要塞の城壁の上から弓を手に僕たちをただ見つめていた。ダンジョンのルールなのかは分からないけど、魔物たちは要塞の外には出れないのかもしれない……あくまで予想だけど。
この部屋のクリア条件は何だろう?要塞の中の魔物を全部殺す、それともボスに当たる魔物を倒せば終わりかな、あるいは旗のようなもの、要塞の象徴を壊すとか……どれだろう。
僕たちが、昨日この場所に入るのに潜った巨大な扉も消えていた。この区画を攻略しない限り、外に出ることも先に進むことも出来ない仕組みなんだろう。
最低でもアリツィオ大樹海の中級ダンジョン級の難易度があると考えて、挑んだ方が良さそうだ。
昨日、フナールたちの投石で怪我をしなかったレッサースパルトイたちが、普段より大きな盾を構えて横一列に並ぶ。
これは目隠しだ。隠れながら僕たちは穴を掘る。日が暮れるまで掘れるだけの穴を掘った。この草原の草丈は僕の膝下くらいまである。恐らく城壁の上からでも穴を見つけるのは困難だろう。
確認したいのは、草原に変化があった場合でも魔物は要塞の外に出ないのか、意志を持つこのダンジョンの主ダンジョンさんが、この穴を埋めるかどうかだ。
翌日、穴の確認に従魔の住処から外に出てみたが、ダンジョンに掘った穴は塞がることなく残っていた。昨晩も偵察の意味を込めて従魔の住処から外に出て草原を散歩してみたが、要塞から魔物は出て来なかった。
ヘリアンサスの妖精のレモンが、目くらましの『サンドストーム』の魔法を使うのに合わせて、僕らは沢山掘った穴のひとつに身を隠し、そこから従魔の住処に入った。
魔物が持つ『暗視能力』の技能は侮れない。昨晩、外に出た際、城壁の見張りに立つフナールの中には、月も星も無い、暗闇の中で草原を歩く僕らを認識していた者もいた。
その対策がこの穴だ。穴の中から従魔の住処に出入りするれば、要塞の魔物たちは僕らが外に出たことすら気付かないはずだ。
夜半の刻、従魔の住処から掘った穴に移動する……一度に複数人で出たため穴の中で押し合いになった。
「モーソンとテリアとボロニーズは、後で呼ぶから……中に戻って」
「ぎゅーぎゅーたのし」
「ルフト、顔が潰れるー」
楽しそうなボロニーズと、必死の形相をするモーソン、一旦従魔の住処に戻りメンバーを選び再度穴の中へ、体の小さな二匹のスプリガンのナナホシとハナホシが、そっと穴から顔を出して要塞を見る。月明かりひとつない暗闇のなか、数百メートル先から、草原の中にいる身長十センチにも満たないナナホシテントウとアオハナムグリの妖精の姿を見つけるのは不可能だろう。
「ナナホシ、ハナホシ、どう……何か変化はある?」
(んー、昨日の夜と変わらないと思うぞ、ただ、ちょっと距離があるからなー、ハナホシは何か見えるか?)
(えと……城壁の上に立つ見張りの数は昨日と変わっていません。おかしなところはないと思います)
僕が小声で囁いたのに合わせて、ナナホシとハナホシも声のボリュームを落とした。念話だからいつも通りでいいと思うんだけど、準備が出来たのだろうカエルの妖精のゲコタが僕の前に来た。
(でわ主ドン、わしは行ってくるゲコ、成功したらゲコタに感謝するゲコよ)
「うん、感謝する!でも……無理はダメだよ。危ないと思ったらすぐ戻って来てもいいんだからね」
(了解ゲコ、わしは無理が嫌いゲコ)
ゲコタはそう言うと『背景同化』で姿を隠し、一人闇夜に消えていった。
ゲコタが万が一見張りに見つかった場合、要塞が騒がしくなるはずだ。ナナホシとハナホシが交代で穴から顔を出し要塞に変化が無いか見張り続けた。ただ待つだけというのは、いつにも増して時間が長く感じる。
僕らが潜む穴は、それほど大きくはない。中には見張りをする二匹以外に僕とシルバーウルフのドングリと、ホワイトスライムのホワイトさんしかいない。気を紛らす意味も込めてハーブ入りのクッキーを齧りながら、その時を待つ。
(ルフト、敵が動いた!)
ナナホシが叫んだ直後、警報代わりの銅鑼が激しく叩かれた。ゲコタが敵に見つかった……急いで従魔の住処を開く。
「ヨルイチ、ヨルニ、ヨルサンはゲコタを探しに向かって、でも姿を見せるのは禁止だよ。物理無効だからといっても無敵じゃないんだ。相手に魔法使いがいたらそこで終わりだ。ゲコタを見つけたらヨルイチ、ヨルニはそのままゲコタに張りついて、ヨルサンは報告に戻るんだ」
ヨルイチ、ヨルニ、ヨルサンの三匹は、ウィルオーウィスプが出入りする。異界の門が開いた泉の近くで開けた召喚の壺から現れた魔物だ。夜人から影人という魔物に進化しており、彼らは影や暗闇の中を自由に行き来することが出来る。力は弱いが『物理無効』の特性を持つ異質な魔物。ヨルイチたちは影の中から黒い霧のような体を起こすと、コクリと頭を振り穴の外へと出ていった。
「グリーンさんとナファローネはアルジェントに乗って、城壁の上の兵士を威嚇して。あまり近付かずに敵を混乱させるだけでいいから」
グリーンスライムの弓の使い手であるグリーンさんと、元Aランクの冒険者にしてミイラからデスアーマーに進化したナファローネが長弓を手に矢筒を背負うと、銀色の空飛ぶサメの魔物アルジェントに乗って浮かび上がる。
すぐにでもゲコタを助けに向かいたいけど、ここで焦ったら他のみんなにも危険が生じる。いまはゲコタの無事を確認しないと、ナナホシが召喚した十体のイリュージョンゴブリンアーチャーも城壁へと向かった。
それほど時間が経たないうちにヨルサンが戻って来た。ホワイトさんが愛用の黒板を取り出して通訳に入る。『ゲコタさんは、敵に見つかり要塞の中を逃げ回っていたようですが、今は隠れ場所を見つけて無事です』消して新しい文字を書く『跳ね橋を吊り上げるロープには、溶ける泡を付けたので、じきに門も開くはずです』と、良かったゲコタは無事逃げ切ったみたいだ。だからといって、要塞の中にいる限り見つかる可能性はあるだろう。
僕らもすぐに動かないと。
「僕らも前に出るよ、門が開き次第、ローズとブランデルホルストとラガンとチグサとネダハは要塞に突入、城壁上の弓や遠距離武器を使うフナールを片付けてほしい、矢を無効化したら僕らも突入するよ」
(あのお父様、サクラも連れっていっていいでしょうか?サクラの蔓は矢が刺さってもすぐに再生します。きっと役に立ちますわ)
「矢が刺さっても痛くはないの?」
(はい、蔓にほとんど痛覚は無いそうです。蚊に刺されるのと変わらないって言ってますわ」
「分かった、サクラも突撃部隊に同行して」
僕の言葉にサクラは、魔石の入った女性の生首と瓜二つの顔を見せると、返事をするように緑色の髪を振り乱しながら口元を歪める。
サクラは『植物ダンジョン』と呼ばれるダンジョンのボスで、ローズにボコボコにされた挙句僕の新しい魔法『従魔の従者』によってローズに下った。
従魔の従者は――従魔に負けた魔物……もしくは戦意を失った魔物、または初めから同行を希望する生物に対して、従魔の家臣として仲間に引き入れる魔法である。
サクラはデーモンソーンと呼ばれる魔物で、無限に再生する白い花と荊の蔓に包まれており、その中心部には、核となる魔石が、緑色の髪をした美少女の生首にしか見えない物の中にある。眼球がくり抜かれたと見える部分には、血液にしか見えない赤い樹液が常に流れ続けている。唇は自由に動くみたいで、そこで感情を表現するから、余計に怖い。
デスアーマーのラガンは元緑のゴブリン王で、チグサとネダハは共にラガンの元側近のゴブリンジェネラルから作られた不死の魔物だ。
ヨルサンの報告通り、門は大きな音を響かせながら落下した。門の落下と同時に大量の砂煙が舞上がる。ローズを先頭に六匹の従魔が門を抜けて要塞に入り込もうと走るが、門が開いた瞬間、要塞内にいた魔物たちも僕らのいる草原へと飛び出して来た
フナールたちは、要塞に籠城するとばかり思っていたため、これは予想外だ。
要塞前の草原が一気に混戦になる。グリーンさんとナファローネだろう、上空から寸分の狂いなく矢がフナールの頭へと突き刺さる。暗闇での戦闘だ。僕らは、同士討ちを避けるために一塊となり防御に徹した。フナールへの突撃は、インスタントゴーレムやイリュージョンモンスターたち仮初の魔物に任せる。
時折戦場で起こる炎の嵐や吹雪は、フローラルとレモンの二人の魔法だ。僕らはその場で固まり、ローズやブランデルホルストたちが城壁の敵を一掃するのを待った。
ゲコタは無事だろうか、そのことだけが頭をよぎる。その時、一度ゲコタに元に向かったはずのヨルサンが戻ってきた。ヨルサンは慌てるようにホワイトさんの前で激しく体を動かす。ホワイトさんも動揺しているのか、いつもより乱雑に黒板に文字を書き殴る。『主様、ゲコタさんが危険です』……。
※お久しぶりです。ぼっちテイマーをお読みくださり本当にありがとうございます。一日一話更新を目標にした時期もあるのですが、何度も逃げ出してしまいました。これからは、週に一話程度の更新を目標に最終回を目指したいと思います。
前回の流れ的に戦い多めの話となりましたが、今後は戦いよりも日常や従魔の成長を中心に描いていこうと思っております。
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