剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

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第2章「魔法都市ヴェル」

第3話「出会い」

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 意識が飛んでいた。 どれだけ飛んでいたのだろうか? 一瞬? それとも相当時間が経っているのか?
 確か、風の超級魔法『ロード・オブ・ヴァーミリオン』はちゃんと発動してたはず。

 目はチカチカするし、耳鳴りも酷い。
 どうなったか確認が出来ない。


 少しづつ、視界が晴れていく、耳鳴りはまだ消えないが。
 視界が開けた先には、ドラゴンがまだ立っていた……


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 大きな咆哮を上げる、よく見ると翼はあらぬ方向へ折れ曲がり、体中のいたる所がキズだらけで鱗は剥がれ落ち、酷い個所になると肉が抉れている。
 左足が無くなっており、四つん這いの姿勢になっていた。

 それでもまだ動いている、何という生命力なんだ。 
 離れた所ではアリアとリンが重なり合って倒れており、動かないところを見ると生きているのかどうかも怪しい。

 ズシンズシンと、こちらへ一歩づつ向かってくる、僕の腕の中にいる少女、サラもまだ気を失っている、もうダメだ。

 大きく口を開き、こちらに走って来るドラゴン。僕はサラを強く抱きしめ、目を瞑った。もう打つ手は何もない。


 ドスン、と大きな音が聞こえた。
 そっと目を開けると、目の前には巨大な氷の壁がそびえ立っていた。
 その壁にぶち当たったのだろう、ドラゴンが壁にベチャっと張り付いている。
 一体何が起きたのだろうか?


「どうしますか? 殺しますか?」

 気が付けば、僕の前には3人の人影が立っていた。
 物騒な言葉を使う女性は、アリアよりも少し高い身長で、ウェーブがかかった赤髪、額にはブルーサファイヤの宝石が埋め込まれている。
 真っ黒なボディコンシャスのワンピース、太もも辺りから大きなスリットの入った変わった服装だ。

 隣で、リンよりもちょっとだけ身長が高い程度の少女が、腕を組んでふんぞり返っていた。
 その姿を見て僕は一瞬、ギョっとなった。
 見る者を圧倒するような絢爛豪華な鎧を身に纏っているのだ。真っ赤なマントまでつけて、まるでおとぎ話に出てくる勇者か何かだ。
 綺麗な金色の髪をサイドテールにして、パッチリした目が幼い印象を与える。

「うむ、やってしまえ」

「仰せの通りに」

 赤髪の女性が無詠唱で、水の中級魔法アイスウォールを唱えていく。
 ドラゴンの周りに、次々と氷の壁を発生させて四方を囲み、一瞬のうちに閉じ込めた。
 閉じ込められたドラゴンは、ドスン、ドスンと暴れまわり、氷の壁を破壊しようと試みている。
 暴れるたびにケガをした箇所から血を噴き出し、氷の壁が朱く染まっていく。

「偉大なる水神エーギル、力を迎え入れる事を許したまえ! ストームガスト」

 氷の壁の中で、突風が吹き荒れる。氷の壁の隙間からは風が吹き荒れ、氷の塊が飛散している。
 氷の壁同士の隙間から出てきた氷の塊のようなものが、近くに立っていた木に当たり、そのまま木を貫通して飛んで行った。凄い威力だ。

 というか、嘘だろ? ストームガストといえば水の特級魔法だ。
 それをほぼ詠唱無しで発動させるなんてあり得ない。一体彼女は何者なんだ?

 パァアアアアンと音を立てて、氷の壁が崩れていく。
 氷の壁で覆われていた中の空気が外に漏れ、突風とともに、身も凍るような寒さに襲われる。

 中に居たドラゴンは、身も凍るような寒さどころか、体中のいたる所が凍り付いている。
 翼はもげ、体中に穴が空いている、だがまだ生きていた。この瞬間までは。

 次の瞬間には、首がゴトリと落ち、遅れてその巨体がドシンと音を立てて倒れた。 

 横たわるドラゴンの前に、男が立っていた。
 ゆうに2メートルはあるであろう長身。その長身に合わせるかのような大きな剣を携えていた。

 倒したドラゴンには目もくれずに、彼はアリアとリンの元へ歩いていく。額には、物騒な言葉を使う女性と同じく、ブルーサフィヤの宝石が埋め込まれているのが見えた。

 短く切り揃えた白髪の彼は、アリアとリンを担ぎ、僕の前に優しく降ろした。
 目の前で降ろされた彼女たちを見ると、胸元が大きく上下している、呼吸をしている証拠だ。良かった生きていたんだ。

 正直、今の状況はサッパリわからない。
 わからないが、僕がやるべきことはわかる。

「助けていただき、ありがとうございました」

 そう、お礼を言う事だ。
 得体が知れなくて怖いと言うのはあるけど、命を助けてもらってお礼も言わないで怖がるのは失礼だ。
 せめてお礼を言ってから怖がろう。

「いや、すまない、あのドラゴンは我々の責任だ」

「えっ?」


 ☆ ☆ ☆


 話を聞く限りでは、どうやらドラゴンを倒そうとしたらしいのだが、そのドラゴンが途中で逃げ出してしまい、逃げ出したドラゴンとたまたま僕らが遭遇した、と言う事らしい。

 とは言え、怒るつもりは一切ない。彼らがドラゴンを倒し損ねて逃げられたと言っても、故意にやったわけじゃない、それは仕方のない事だ。
 アリア、サラ、リンを見る。ケガはしているが誰一人死んではいな。死にそうにはなったが死ななかった、そして僕らを助けてくれたのだ。だったら感謝をすれども、怒る事なんてない。

「ところで、どうして火竜と戦っていたんですか? 何かの依頼でしょうか?」

「火竜の肉は大変美味なると聞いてな、妾も食してみたいと思って、こやつらに捕らえるように命じたのじゃが……その、すまぬ」

 今度は少女が僕に謝ってきた。食べてみたいから捕らえようとしたか……先にこの子の話を聞いていたら、僕もちょっと怒っていたかもしれない。
 でも怒らないと決めたばかりだし、申し訳ないと思っているのか頭を下げているんだ。うん、許そう。

「それでも命を助けていただいた事には変わりありません。ありがとうございました」

 そうお礼を言って、頭を下げている少女の頭を撫でる。

「どうしますか? 殺しますか?」

 なんで!? いや、つい無意識的に、リンにやってるのと同じ要領で頭を撫でてしまった。けど流石に殺すは物騒すぎやしませんか?

「よい、許そう」

「はっ、それでは殺します」

「違う! 『よい』は『やらなくてよい』の『よい』じゃ」

「はっ、わかりました」

 一瞬背筋が凍った、頭を撫でたので死刑とか笑えない冗談だ。
 苦笑いを浮かべて「ははっ、どうもです」と言うので精いっぱいだ。


 それを白髪の青年は少しは口角を上げ、微笑ましい物を見るような目で見ていた。 

「今のは定番のジョークと言う物らしい。皆キミと同じように笑うから、相当おもしろいんだろうな


 なるほど、今のは定番のジョークですか。ってバカか!
 それはウケてるんじゃなくて、苦笑いだから……
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