剣も魔術も使えぬ勇者

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第2章「魔法都市ヴェル」

第4話「再出発」

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 とりあえずの所は全員無事だった。次に確認することは積み荷と馬車だ。
 幸い馬はそれほど遠くないところに居たので、すぐに連れて戻ってこれた。

 積み荷は半分近くがダメになっている。酒類の中身はこぼれ、衣類系はボロボロになりほぼ全滅していた。
 馬車自体は倒れたものの、走るには問題ないと思う。ほろが所々破れてしまっているが。

 これ全部弁償しろって言われるのかな?
 流石にドラゴンが襲ってくるなんて、どう考えても想定外だ。
 しかし僕らの受けた仕事は護衛だ、もし「ちゃんと護衛してた?」と言われたら答えはNOだ。だって護衛対象の彼女達とははぐれてしまったわけだし。

 う~ん、考えるのはやめよう、まずは魔法都市ヴェルに着くことが優先だ。着いてから考えよう。
 そもそも、弁償しろと言われそうだから逃げた場合、状況はもっと悪くなるだけだし。

 そうだ! ドラゴンの素材を売れば多少は弁償の費用になるかもしれない!
 いくらで売れるかわからないけど、さっき落とした頭とか剥製が趣味の人に売ればソコソコになるんじゃないか?


 問題は、ドラゴンにトドメを刺したのは彼らだ。素材の権利は彼らにあると言えなくもない。
 もちろん僕らもそれなりに貢献したはずだけど、ここは交渉してみようか?
 だけど金額が多い場合、それで揉めて最悪殺される可能性も有る。ドラゴンをあんなに簡単に仕留めた彼らと対立した場合、勝てる気がしない。

「う~ん、う~ん」

「どうした?」

 僕が悩んでるのを見て、白髪の青年が心配そうに声をかけて来てくれた。
 肩を叩かれて、一瞬ビックリしながら飛び跳ねてしまう、心が見透かされた気がしたからだ。実際はそんなことないだろうけど。

「えっと、ですね……その、素材の分け前の、分配をどうしようかと思いましてですね」 

 両手を合わせてスリスリしながら、ごますりのポーズを取ってみる。
 僕は今、凄く情けない顔で笑っているんだろうなぁ。
 
「あぁ、安心しろ。お前たちの分の肉も、ちゃんと用意してやる」

「いえ、そうじゃなくてですね。ほら、皮とか鱗とか頭とか色々あるじゃないですか」

「妾が所望するのはドラゴンの肉じゃ、それ以外はいらん! 好きに持っていけ」

 え? マジで?
 ドラゴンなんて滅多に狩られる物じゃないと思ったんだけど、とりあえず切り落とした首と、綺麗に残ってる鱗を剥がして、皮もカーペットのように丸めて馬車に積み込もうかな。
 
 ところがこの首は重い、凄く重い。
 顔だけで僕の体位あるし、当たり前っちゃ当たり前なんだけど。

「手伝おう」

 僕が必死に持ち上げようとしてると、白髪の青年がひょいと持ち上げて代わりに運んでくれた。

 ドラゴンの頭、鱗が数枚、綺麗に残ってる部分の皮が数枚と、右手の爪を2個を馬車に詰め込む。残りは破損が酷すぎて持って行っても無駄だと判断してそのままにしてある。
 問題はこれが売れるかどうかだ。そういえばドラゴンって討伐報酬貰う為の部位ってどこだったっけ? 頭を見せればいけるかな? 


 ☆ ☆ ☆


 最初に目を覚ましたのは、サラだった。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 彼女の悲鳴が響き渡る。何があったのだろうか、慌てて馬車まで走っていく。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 続けてアリアとリンの悲鳴まで聞こえてきた。
 クソ、もしかして素材を運ぶのに夢中で、馬車の中にモンスターが入り込んだのに気づかなかったか?
 ゴブリンとかだったら最悪だ。いくら彼女たちが強いと言っても、寝ている間は無防備なのだから。
 
「大丈夫ですか?」

 息を切らし、馬車の中を覗き込む。
 彼女たちは、僕が馬車の中に置いた『ドラゴンの頭』を見てパニックに陥っていた。しまった、布か何かで隠しておくべきだった。


 ☆ ☆ ☆


『僕は寝ている女の子達の目の前に、ドラゴンの頭を置いて驚かせたバカ勇者です』

 パニックになった彼女たちを宥め、「ごめん、置いたままだった」と軽く笑ってみたのだが、目に涙を浮かべたサラの往復ビンタが大量に炸裂。
 アリアは無表情だがかなり怒っているのか、一切助けに入ってこない。
 リンも頬のあたりを凄くピクピクさせていた。

 そして僕は近くにあった手ごろな石の上に正座させられ、反省文を手に持つことを命じられている。

 今の僕に発言権は一切ない。足がプルプルしてきて崩したいが、目の前で仁王立ちをして僕を睨み付けるサラの目が怖くて、必死に姿勢を正している。

 後ろではリンが、僕が父から貰った鉄の剣で頭をバシバシ叩いている。返しの刃がほぼないので斬れる事は無いが鈍器としては素晴らしい性能だ。どれだけ素晴らしい性能か彼女に叩かれるたびに体で分からされる。

 隣では、アリアが鞘で僕の足の裏をつついてる。無表情でツンツンと。
 やめて! お願い! 足を崩したいけど、崩した瞬間に、サラが火竜の如く怒りだすのが目に見えてるからお願いやめて!

 色々と落ち着いてきた所でアリアが気絶をしてから何があったかを話した。リンが一人でドラゴンを引き付けてくれたこと、サラが風の超級魔法『ロード・オブ・ヴァーミリオン』を放った事。

 そしてその後に、僕らは気絶し、気絶から覚めた僕の前にドラゴンがまだ生きていたこと。
 殺される寸前の所で彼女たちに助けられた事、そして今、僕が正座をしながら説明するのがそろそろ限界なので、もう足を崩していいですか? と言う事。

「そんな事があったのね、でも無詠唱で特級魔法って、聞いたことないわ」

「それならこんな事してないで、お礼を言いに行くです」

 彼女たちは、僕が貸したフライパンでドラゴンの肉を焼き、その味を堪能している最中だった。
 ドラゴンの肉の匂いってすごい香ばしい、彼女達はまだ何もつけずにただ焼いてるだけなはずなのに、香辛料がかかったような食欲をそそられる匂いが漂ってくる。
 いかん、アリアじゃないが、匂いを嗅ぐだけでヨダレが垂れてきそうだ。

「助けて頂き、感謝いたします」

 アリアがヨダレを垂らし、肉を凝視しながらお礼を言う。礼儀も何もあったものじゃない。

「よい、妾達にも非があるのじゃ。それよりも共に食卓を囲もうぞ」

 白髪の青年が焼いた肉を皿に乗せて、アリアに手渡す。
 その肉にかぶりついた瞬間に、アリアがくわっと目を見開いた。そんなにおいしいのだろうか?

 お礼や自己紹介といきたいところだけど、彼女達とアリアが食事に夢中になっているので、後回しにしよう。
 僕らも輪に入り、一緒にドラゴンの肉を食べた。

 うわっ、何このお肉、凄く美味しい。
 ドラゴンなんて、超重量モンスターだから肉は硬いと思っていたのだけど、恐ろしく柔らかい。
 噛むと同時に肉が弾ける! 弾けた肉から滴り出る肉汁がたまらない!
 飲み込むのが勿体ない位、噛めば噛む程に、僕の口の中で肉汁が弾けるのだ!


 ☆ ☆ ☆


 食事を終えたのだが、少し変な空気になった。
 お互いがお互いをチラチラ見合って。一応状況は全員わかっているのだが、ちゃんと自己紹介をしていなかったので、どう話すかタイミングがわからなくなったのだ。
 こういう状況で仕切るのも、きっと勇者の仕事、僕の出番だ。

「それでは改めまして、助けていただきありがとうございました。僕の名はエルクで職業は勇者です」

 続いてサラ、アリア、リンの順にお礼と自己紹介をしていく。

「フルフルよ。事情があってイルナ様の護衛をしているわ」

「シオンだ。同じく事情があって、イルナ様の護衛をしながら旅をしている」

「妾はイルナじゃ、ワケあって旅の途中である。所でそなたたちは一体どこへ向かっている途中だったのじゃ?」

 見た目は幼いが、貫禄のある喋り方だ。もしかしてリンみたいに見た目と年齢が違う子なのかな?
 そういえばさっきも頭を撫でただけで、フルフルさんが「殺しますか?」と言っていたし。

「魔法大会があるらしくて、魔法都市ヴェルまで護衛の依頼で向かってる最中だったのですが……」

 散乱した荷物をチラッと見る、イルナさん達も察してくれたのか「あー、すまない」と軽く謝ってきた。

「弁償を申し出たい所なのだが、すまない、手持ちの金銭は少ないから足りないと思うが」

 フルフルさんがそう言って、お金の入った袋を手渡そうとして来るが、流石にそれは受け取れない。
 命を救って貰ってお金まで貰ってしまったら、立つ瀬が無い。

「ところで魔法大会と言うのは、どんなものなのじゃ?」

「お祭りみたいに騒いでる、って聞いた事がある」

「それは本当か?」

「リンはサラと昔一緒に行ったことがあるです、連日お祭り騒ぎだったです」

 リンの話をイルナさんは目を輝かせて聞いている。
 変わったお店の話をするたびに「なんじゃそれは!?」と大げさに驚き、そして腕を組み、しばしの沈黙の後、彼女は大きく頷いた。

「よし、決めたぞ、フルフル、シオン。エルク達が安全に魔法都市ヴェルまで行けるように、妾達が護衛をしてやろうぞ」

「「はっ、わかりました」」

 それなら一緒の馬車に乗っていくのかな?
 乗っていくのは構わないんだけど、一つ気になる事が。正直、これを言うのは気が引けるんだけどなぁ。

「あの、ところで、魔法都市ヴェルって、魔族が入ってきても大丈夫なんでしょうか?」

 僕の言葉にイルナさん達の表情が固まる。やばい、地雷踏んだか?

「な、何故に妾達が魔族と分かったのじゃ?」

 本気で気づいてないのだろうか?
 僕は自分の額に指をトントンとやる。

「こやつ、今妾をバカにしおったのか!?」

「どうしますか? 殺しますか?」

「やってしまえ!」

「違います! 額の宝石の事を言ってるんです!」

「額の宝石……あっ、確かに」

 危うく殺されるところだった。今の勢いは定番のジョークという奴じゃないだろ、絶対に。

「しかし、妾の額には宝石は無いぞ?」

「えっ、キミも魔族なの?」

「えっ?」

 額に宝石が無いけど、イルナも魔族だったのか。
 入場に関しては、「魔族の参加者も居るから、多分大丈夫なんじゃないの?」とサラが言っていた。

 とりあえず魔法都市ヴェルに向かおう、話は道中でいくらでも出来るのだし。
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