剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

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第2章「魔法都市ヴェル」

第5話「魔法都市ヴェル」

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 さて、どうしたものか。
 僕は今、ピンチな状況に置かれている。

 馬車の中では僕の右側にリン、その隣にサラ、左側にはアリアが座っている。
 問題は対面にフルフルさんとイルナさんが座っていることだ。

 御者はシオンさんがやってくれている。アリアはドラゴンと戦った際に手首を捻挫ねんざしていた。
 ポーションと治療魔法をかけておけばすぐに治るが、一応大事を取るために、シオンさんが代わりを申し出てくれたのだ。

 馬車は速度に合わせ、ガタガタと揺れる。そう揺れるのだ。
 目の前で、フルフルさんの”アレ”が縦横無尽に揺れ動くのだ!
 当然僕だって男だ。気にならないわけがない。

 体にピッタリフィットする服だから、余計に揺れ動く”それ”に目を奪われそうになる。
 戦闘中は必死だったから気づかなかったが、フルフルさんのは相当デカイ!
 何がか、はあえて言わないよ。
 
 アリアも結構大きい方だ。しかしフルフルさんのは、それを遥かに超えている。
 右にポヨン、左にポヨン、上下にポヨンポヨン。だめだ、また目が奪われていた。

 本当はこのまま見ていたい。見ていたいけど、ガン見しているのがばれたら、今後の僕の立場が一気に危うくなる。 
 結果、僕はずっと俯いたままだ。

「エルク、体調でも悪いのですか?」

 リンが僕を心配して声をかけてくれた。体調が悪いんじゃない、むしろ良すぎてダメなんだ。
 フルフルさんの”それ”をリンと見比べる。落ち着きを与えてくれるリン、君は僕のオアシスだ。
 
 僕は今までで一番の笑顔で、リンの頭を撫でる。直後リンの顔が般若のようになっていた。
 そして僕はまた、俯くことにした。


 ☆ ☆ ☆


「ほほう、あれが魔法都市ヴェルか」

 あれから3日後。僕らは順調に魔法都市ヴェルへ到着した。
 道中、特に大きな問題は起きなかった。うん、何もなかった。


 ――魔法都市ヴェル――
 円状の塀は街を覆い、人々はモンスターの脅威にさらされることのない生活を送り。
 塀は建物が増えるごとに増改築が行われ、円状の塀は所々いびつな形になっている場所も存在する。
 魔法で発展した都市ゆえに、魔法関連の店や施設が数多くあり、街を歩けば魔法と無関係の場所は無いだろう。
 
 街の中央に1カ所と、それを囲むように4カ所、合計5つのコロシアムが用意されている。
 ここが魔法都市ヴェル名物、魔法大会の会場だ。
 いたる所でパレードが行われ、ただの通りには所狭しと露店が並んでいる。まさにお祭り状態である。

 門が見える所まで来たが、何やら騒がしいな。
 冒険者や兵士さんが沢山集まっている。そこに見たことある顔が、護衛対象の針子さん達だ。
 彼女たちは兵士さんや冒険者に必死に訴えているみたいで、それを周りの人達が必死に宥めている。

 多分これ、ドラゴン退治の討伐隊かな?
 だとしたら早めに教えに行かないと、入れ違いになってしまう。
 彼らが出発する前に門までたどり着き、彼女たちに生還を報告。

「……生きてたんですね」

 針子さん達は僕らが生きて戻ってきてくれたことを、涙ながらに喜んでくれた。
 その瞬間、歓声が沸いた。
 
 人垣をかき分け、馬に乗った兵士さんが僕らに近づいてくる。
 
「感動の再会の所、水を差すようですまない。我々はこれから確認された火竜を討伐に向かう、なので今どの辺にいるか分かる限りで良いから情報が欲しい」

「それならもう倒したわよ」

 サラが馬車の中にある、火竜の頭を指さす。
 静寂が辺りを包む。

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 一瞬遅れて、その場にいた誰もが、ポカーンとした顔で声を上げた。

 
 ☆ ☆ ☆


 馬に乗った兵士さんに、そのまま門を抜けて、冒険者ギルドまで行くように指示された。ちなみに門に集まっていた人たちも一緒にだ。
 馬車は依頼人が後で冒険者ギルドまで取りに向かうので、そのまま冒険者ギルドまで乗って行ける。
 もし馬車を降りて行くように指示されていたら、ドラゴンの素材を持って歩くのは厳しいから助かる。

 門を抜ける際に、シオンさんとフルフルさんの顔を見て、兵士さんは一瞬怪訝な顔をしたが、イルナさんの恰好を見て頷きながらフッと笑っていた。多分旅芸人か何かと勘違いしたのだろうな。

 街はお祭りムードで人通りが多い、そんな中パレードのように冒険者を引き連れて歩く一台の馬車。当然注目の的だ。
 アリアは相変わらずだったが、サラはキョロキョロとして落ち着かない様子だ。リンは注目が集まるのが嫌なのか僕の隣にピッタリくっついて小さくなっている。
 
「ハッハッハッハッハ」

 何が楽しいのか、イルナさんは御者をしているシオンさんの隣で、腕を組み立ち上がり大声で笑っている。
 フルフルさんは、イルナさんが転ばないように、すました顔でそっと腰を支えている。


 ☆ ☆ ☆


 やがて、魔法都市ヴェルの中央にあるコロシアム、その隣にある冒険者ギルドに着いた。
 冒険者ギルドの中に酒場もあり、入り口側が酒場で、奥が冒険者ギルドになっている。

「話をつけてくる、そこで少々待ってて頂きたい」

 兵士さんが馬から降り、冒険者ギルドの中へ入って行った。
 とりあえず馬車から降りよう。降りる際にシオンが一人一人手を引いている、その光景を針子さん達や周りに居た女性が熱い視線で見ている。
 僕がシオンに手を引かれたときには、何故か「キャー」と声が上がっていた。
 
 それからしばらくすると「入れ」と声をかけられたので、僕らは火竜の素材を持って中に入った。
 先ほどの兵士さんの隣には、オールバックの白髪で、年齢は50代くらいだろうが衰えを感じさせない男性が立っていた。
 顔を見てギョっとする。彼の鼻の上あたりに横向きに、左目辺りから頬にかけて縦に大きな十字傷があるのだ。
 それ以外にも顔や首のいたる所にキズがある。数々の死線を潜り抜けた戦士の顔だ。

 中央のテーブルに素材を置くように言われ、とりあえず首と鱗と爪を置く。皮は広げると長いのでテーブルの横に丸めて置いてある。

「俺がここのギルドのマスター、ゼクスだ」

 出来る限り優しく語りかけようとしているのがわかるが、それでも怖い。
 そして向こうも自分が怖いという自覚はあるのだろう、一瞬リンやサラと目が合った際に、ビクっとされては視線を宙にさまよわせて、頬をポリポリとかいている。 

「お前達の護衛の依頼だが、ちゃんと成功扱いになってるから安心してくれ。積み荷や馬車の弁償についても気にしなくていい、と言うか火竜に襲われてまで護衛対象を守ったんだ。もしこれで連中が文句付けてくるなら、俺が直接殴りこみに行ってやるから安心しな」

 僕らを安心させようとして、笑顔を見せているのだが、それはどうみても極悪人のような笑顔だ。
 リンとサラ、それにイルナさんもその笑顔にビビってビクついている。それに気づいたゼクスさんはまた視線を斜め上にさまよわせている。
 もしかしたらこの人、凄く良い人なのかもしれない。

「それと、今回の火竜はギルドの緊急討伐依頼にしたんだが、その火竜がもう倒された後だったとなるから……」

 その討伐対象を、既に僕らが倒しちゃっているのが問題なのか。
 この場合、受注した人たちの扱いはどうなるんだろう?
 失敗扱いとかになった場合、その恨みを買うのは僕たちになるから出来れば穏便に済ましてほしいところだけど。

「まず受注した冒険者。お前らに参加報酬はちゃんと支払うから、後で窓口に受け取りに来い」

 「おおー!」と歓声が上がった、周りは満足そうな顔をしている。多分参加報酬自体もそこそこの額なのだろう、これなら変に恨みを買う心配もないはずだ。

「そんでもって、倒してくれたお前さん達への討伐報酬なんだが、これは無しだ。依頼を受けてないパーティに討伐報酬を出すことが出来ないのがルールでな、すまない」

「僕は元々報酬は期待してなかったから、気にしてませんけど」

「リンも弁償する必要が無くなっただけで十分です」

「そうね、私も別にいいわ」

「そう言って貰えると助かるぜ」

 ちなみにアリア達は、気づけば隣のテーブルで注文して食事をしている。自由すぎる気もするが、まぁいいや。
 普段はこんなでも、いざと言うときには真っ先に前に出て、誰よりも早く動く頼もしい仲間なんだから。
 もしかしたら僕らを信頼してるから、これだけ自由にやってるのかも。いや、流石にそれは考えすぎかもしれないけどね。

「素材はギルドで買い取っても良いし、他の商店に持って行っても構わない。鱗や皮は装備にも使えるから、武器屋に持ち込んで加工してもらうのも悪くないかもな」

 使い道がなさそうな爪と頭部はギルドで買い取ってもらって、鱗と皮だけ持ち帰ることにした。加工してもらえる武器屋を教えてもらったので、アリア達と食事を済ましたら行ってみるか。
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