剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

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第2章「魔法都市ヴェル」

第8話「卒業試験」

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「アリア、そっちに行ったです」

「わかった」

 キラーファングがアリアに向かって走り出す。
 アリアは盾をどっしりと構え、飛びかかってきたキラーファングに向かって、盾に隠れるようにしながら突進をする。

 ぶつかり合った反動で、お互いが後ろに吹き飛ぶ。
 もう一度盾を構えなおすアリアに対し、キラーファングは姿勢を低くしてチャンスを伺うが、「キャウン」と可愛い鳴き声を上げてその場に倒れ暴れ出す。
 
 吹き飛んだキラーファングに、リンが音もなく近づき後ろ脚を2本とも切り落としたからだ。
 ヒットアンドアウェイ。両方の後ろ脚を切り落としたリンがすぐさま下がると、スクール君達の詠唱が始まった。


 ☆ ☆ ☆


 あの後、僕等はスクール君の案内で武器屋に向かい、アリア用の盾を購入した。 
 前の盾は、火竜と戦った際の火球と薙ぎ払いで使い物にならなくなり、その場で捨てて行った。

 ドラゴンの皮と鱗を使った盾をオーダーメイドしてもらったが、大型の盾で作るには鱗が足りず、皮だけを貼るなら、別に普通の鉄の盾と大差がないと言う事だ。
 大差がない上にお金がかかるなら、「出来合いの盾で良い」と言うアリア提案で、適当に盾を物色していた。

 鱗と皮を使った盾は僕が使う事になった。丸いラウンドシールドの上にドラゴンの皮を貼り、その上に鱗を固定した簡易の物だ。
 見た目は鱗に取っ手を付けただけに見えなくもないが、殆どの属性に対して耐性があり、鱗と皮は生半可な攻撃は完全に防げる耐久性がある。

 火竜の皮で鎧も作れるらしいが、鎧を作らなくても僕の持っているエプロンの方が性能が上だから買い替える必要はないと言われたのが地味にショックだ。エプロンのが性能高いって……。

 余った皮と鱗はそのまま買い取ってもらった。盾の代金を差し引いても5ゴールドのお釣りが来たので、2ゴールド50シルバを山分けした。
 盾に使った素材分の代金も渡そうとしたのだけど、断られたので代わりにその日はシオンさん達はごちそうをした。

 
 ☆ ☆ ☆


 翌日。スクール君と依頼の日取りを話合い、お互い特に予定が無いので、そのまま次の日で決まった。
 あくる翌朝。現地集合と言う事で、魔法都市ヴェルの北側にある森の前に着いた。

 卒業試験に挑む班は、スクール君を含め5人、スクール君以外は全員女の子だ。
 何となくスクール君と距離が近い。いわゆるハーレム状態だな。

 引率の教師は、見覚えのある初老の男性。確か座学で「魔法は生まれ持った素質よりも、使い手のセンスが重要だ」と力説してた教師だ。
 いつもスーツ姿で、右目には片眼鏡をかけており、白髪交じりのオールバックが僕の通っていたころと何一つ変わっていない。

 実力はあるらしいのだが、才能とどこまで高位の魔法が使えるかを重要視している学園なので、彼は生徒からも教員からもあまり良く思われていない。

「釜戸に火を付けるのに超級魔法を打つバカは居ない。家庭用魔法で十分だ。大切な事は最善を選ぶことだ」と最初の授業で先生が言った言葉は今でも覚えている。
 名前は確か、ジャイルズ先生だったはずだ。
 挨拶をそこそこに、僕らはキラーファングを探しに森に入って行った。


 ☆ ☆ ☆


 リンの索敵能力は高く、かなり離れた所に居てもモンスターを見つけてくれる。
 と言っても、見つけられるが見分けられるわけではない。音のする方向へ行ってみて違うモンスターでしたと言う事もある。

 そして1匹目のキラーファングが見つかった。
 リンが遠回りをして、キラーファングを反対側から追い込み、こちらに向かってきた所をアリアが止めると言う作戦だ。
 リンがナイフを投合して、キラーファングの顔をかすめる。

「アリア、そっちに行ったです」

「わかった」

 連携は完璧だった。しかしリンが動けなくしたキラーファングのトドメを刺すだけでもOKなのだろうか?
 不安になって聞いてみたがOKらしい。
 「功を焦って、味方に被害を出すような魔法の打ち方をしていない」との事。


 ☆ ☆ ☆


 5匹目のキラーファングを倒したところで、ひらけた場所についた。丁度いい時間だし、僕はお昼休憩を提案した。
 アリア達はともかく、スクール君達は疲れが出て来たのだろう。僕の提案に喜んで乗ってくれた。

 お昼休憩と言えば、勇者の仕事! そう、お昼ごはんだ!
 今日のお昼は大量のサンドウィッチ。卵にサラダに鳥の照り焼きに様々な種類を用意してある。

 と言うのも、久しぶりにパンを切り分けれる事で、サラが張り切った。そして張り切り過ぎた。
 朝から大量の切り分けられたパンを見て頭を抱えそうになったが、リンに伝言をお願いして、スクール君達にお昼ご飯はこちらで用意することを伝えた。
 それでもまだ多かったので、同じように卒業試験の依頼に向かうシオンさん達にも渡してある。


「すごい、普通のサンドウィッチなのに何か味が違っててすごくおいしい」

「この照り焼き少し焼きが多くて香ばしいから私の好み」

「そう言えばエルク君は、寮時代に皆に料理を作ってくれてたよね。その頃よりもうんと腕を上げたんだね、凄くおいしいよ」

 スクール君達がしきりに僕の料理を褒めてくれるのが少し誇らしい。
 隣ではサラがドヤ顔をしているから、後でパンを綺麗に切り分けれた事を褒めてあげよう。褒めた後に作り過ぎたことを叱るけど。

「魔法は台所から生まれたとも言われている。このタマゴサンドにしてもそうだ。普通にヴェルで売っている卵だが、ゆで卵にして切るときに出来るだけ均等にしている。それが普通のタマゴサンドとは違う素晴らしい味を出している。この味は立派な魔法だよ、エルク君」

 穏やかな顔で、先生は僕を褒めてくれた。

「キミは当時から優秀だった。魔法の適性は低いと言われていたが、努力を怠る事無く、出来ない事をいろいろ工夫して何とかしようとする姿勢は、他の子にも見習わせたかった」

「えっ、僕の事を覚えているんですか?」

「もちろんさ、『水の初級魔法コールドボルトと、風の上級魔法サンダーストームを合わせれば、疑似的なストームガストを生み出せないでしょうか?』なんて言ってきた生徒はキミくらいだ」

「今思えば恥ずかしい思い出です。僕は家庭用魔法も使えなかったのですから」

「使えるかどうかは問題じゃない、その姿勢が素晴らしいのだよ。キミは胸を張っても良い」

 少し涙が出そうになった。落ちこぼれの僕なんかを目にかけてくれて居たんだ。
 イジメられていて周りを見る余裕が無かったけど、もし当時の僕がそれに気づいて、頼って居たら……いや、やめよう。
 そのおかげで、僕は今最高の仲間たちと冒険者をしているんだ。

「その照り焼き、リンのです」

「もぐもぐ、早い者勝ち」

「何ちゃっかり2つも取ってるのよ! それは私の分よ!」

「もぐもぐ、所詮この世は弱肉強食」

 隣でいつもの争奪戦をしている最高の仲間たちを見る。うん、見なかったことにしよう。
 スクール君達はちょっと引きつった笑顔で、先生は目を細めて暖かい目で彼女たちを見ていた。


 ☆ ☆ ☆


 卒業試験のキラーファング狩りは、その後も何も問題なく終わった。
 戦闘に関しては、勇者の僕に出番が無いのは当然ながら、魔術師が引率の教員含めて6人もいるせいで、サラは完全にすることが無く暇そうだった。

 試験は見事合格し、スクール君達から何度もお礼を言われた。
 
「凄く簡単な依頼だったです」

「うん、そうだね」

「僕は何もしてなかったけどね」

「アンタは荷物持ちとお昼を用意してたじゃない。私なんて本当に何もしてないわよ」

「でもサラの魔法見て、皆驚いてたね」

「ま、まぁね」

 何もすることなくそわそわしてた彼女に、先生が「君はどんな魔法が得意なのかね?」と気を使って声をかけてくれたのだ。
 火事になる恐れを考慮して、火以外の上級魔法を無詠唱で打つサラを見て。皆驚いていた。

 本来5年通って上級魔法が1つか2つ覚えれば十分優秀なレベルなのだ。それを無詠唱でやってのけるのだから驚くのも無理はない。
 スクール君達のリアクションを見て、改めて彼女の凄さを思い知った。

「毎日卒業試験の依頼を受けても良いと思う」

「リンも賛成です」

「そうね。報酬も悪くないから、私も賛成よ」

「うん。それじゃあ明日も依頼があったら受けようか」

 この時、正直浮かれていた。
 他の依頼者も同じような感じなのか、それをスクール君達に聞いておくべきだった。 僕は後になってそう後悔した。
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