剣も魔術も使えぬ勇者

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第3章「魔法大会予選 ‐エルクの秘められた力‐」

第9話「勇者ごっこ」

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 翌日。
 朝から皆で学校へ登校している。
 僕、アリア、サラ、リン、フルフルさんにイルナさんだ。

 シオンさんは昨日のフルフルさんと戦った時のキズが思ったよりも深かったらしく、治療院で診てもらってから来るそうだ。
 平然な顔をして、その後も試合をしていただけに、ちょっと心配だ。

 いつもの大通りを横切る、祭りの喧騒に興味が引かれるが、立ち止まって見ていたら遅刻をしてしまう。
 僕らはお互いがお互いに声をかけて、足が止まらないように通り抜けていく。心なしか注目されている気がするけど。
 道行く人は多分フルフルさんを見ているのだろう。昨日の試合は凄かったし。


 ☆ ☆ ☆


 学園に着くとフルフルさんを見かけた生徒たちがざわつき始めた。
 周囲の目は完全にフルフルさんに向いている。
 
「あ、あの、昨日の試合見てました。その、凄く感動しました!」

 一人の女生徒が、意を決して彼女に話しかけたのを皮切りに、次々と人が寄って来る。
 質問攻めにあうフルフルさん。その隣で満足そうに胸を張るイルナさん。
 ちょっと居心地悪いし、彼女に話しかけたい人達の邪魔になるから少し離れようかな。
 アリア達を連れて人混みを分けて出ていこうとしたところで、一人の生徒の興味がこちらにも向いたようだ。
  
「そういえば二人も予選に出るんだよね?」

 その一言で、アリア達も注目の的になった。
 ここ最近は、学園長とジャイルズ先生以外の学園関係者で予選通過者が居なかったらしく、そこへ流星のように現れたシオンさん達は今や学園の話題の中心にまでなっている。
 そして二人の結果を見て、次に期待されたのがアリアとサラだ。
 皆が彼女達に応援と期待の言葉をかけていく。

 僕としては予選突破なんて出来なくてもいいから、ケガには気を付けて欲しいところだ。
 正直A評価以上の人達はバケモノ揃いだったし

  
 ☆ ☆ ☆
 

 魔法大会期間は、参加する生徒教員に配慮して授業は午前中だけになっている。
 というか僕らの学年の場合、卒業が決まっていたらもう自由登校だから来なくても問題は無い。
 しかし卒業が決まってもほとんどの生徒が登校してくる。卒業まで出来る限り学び、卒業後の進路を少しでも良くするために。
 
 卒業後時に優秀な成績を収めていれば魔法ギルドへの入会が許可されたり、実力に応じて魔導士ウィザード大魔導士ハイウィザードの称号を授与してもらえたりする。
 成績次第では卒業後の進路として学園の教員や研究者、国や都市の仕官魔術師になれるため、皆必死だ。
 
 僕らの場合は今更頑張っても特に変わるわけじゃないけど、冒険者として役立つ知識や魔法を今の内に出来るだけ覚えて、ついでに学園生活を楽しんでおきたいという感じだ。
 だから学園生活を楽しむためのお弁当を作ってきた。皆でお弁当を囲んで食べる、凄く学生らしい!
 今日はシオンさん達の分も作って来てある。勿論前日にイルナさんにその事を伝えてある。

 午前中までしか授業が無いから、食堂をわざわざ利用する生徒は少ない。なので机の取り合いになる心配もいらない。
 学園の中にある学生用の食堂にある机の上にお弁当を並べて行く。

 相変わらずアリアが凄い勢いで食べるのを、サラとリンが結託して取られないようにしていたのだが、ここで第三勢力が現れた。シオンさんだ。

 彼が手を構えた瞬間には、既に料理は彼の手の中にある。
 僕に話しかけたりしながらも弁当に視線を向けることなく次々と取っていく。この動きは『瞬戟』の応用だろうか? だとしたら恐ろしいくらい技能の無駄使いだ。
 ケガが酷くて治療院に行ったのに、そんな動きをしていたら傷が開くんじゃないか?

「シオンさん、ケガは大丈夫なのですか?」

「あぁ、激しく動いたりしなければ2次予選までには治るそうだ」

 そう言いながらも、次々と料理を『瞬戟』で掴んでいく。きっと本人にとってはこの位は激しいうちに入らないのだろう。

「あー、それ私が取ろうとしてたのに」

「私も狙ってた」

「リンのお魚!」

「それ私のお野菜よね?」

「エルクの料理は美味いからな。仕方がない」

 目を細め、満足そうにフッと笑いながら次々と料理を口にする彼に、途中でフルフルさん達が連合となり、最終的にはシオンさんに襲い掛かろうとするのを止めたり、騒がしくて大変だけど、楽しい昼食だった。

 ちなみに今シオンさんは調子に乗り過ぎた結果、イルナさんの説教を受けている。

「まったく、食糧難でもあるまいし。いい年して恥ずかしくないのか?」

 シオンさんに対して言ったその言葉は、サラ達の心にも刺さっっている。
 約一名、無表情で「関係ありません」と言いたげな子もいるけど。キミが一番の原因だからね?


 ☆ ☆ ☆


「シオンこの後、暇?」

 イルナさんから解放されたシオンさんに、アリアがお誘いをしている。
 何のお誘いだ!? まさか、昨日の試合を見て実はアリアも彼のファンになってしまったのだろうか?
 ……そんなわけないか、アリアだし。いやそれはちょっと言い過ぎだね。
 アリアが男に興味持つわけないか。これもちょっと言い過ぎな気がする。
 アリアは食べ物にしか興味が無い! うん、これだな。

 まぁそんなくだらない事を考える位にちょっと、いやかなり動揺している。

「いや、イルナ様と用事があるが、どうかしたか?」

「『瞬戟』を教えて欲しい。でも用事があるなら仕方がない」

 なるほど、そういう事か。
 昨日の試合を見て、今の自分では勝てない相手ばかりと判断したのだろう。
 少しでも強くなるために技を教えてもらうためであって、別に変なお誘いというわけじゃないか。

「別に行って来ても構わぬぞ」

「しかし」

「今日の予定は近所のお子様たちと勇者ごっこじゃ。それならシオンの代わりにエルクを連れて行けば良いだけじゃ、アーッハッハッハッハ」

 普段彼女達は何をしているんだろう? と思っていたけど。もしかして毎日近所の子供たち相手に勇者ごっこを?
 そういえば卒業試験の依頼以外を受けてるところも見た事無いや。

 そうだな。僕はこの後、特に予定は決まっていない。

「うん、良いよ」

 僕が行くことで、彼女が修行できるなら喜んで行こう。
 彼女の役に立てる数少ない機会だし。

「あ、あの私も出来ればフルフルさんに色々教えてもらいたいのがあるんだけど」

 おずおずと言いにくそうに、サラが可愛い上目遣いをしている。
 そんな彼女を見て、イルナさんは腕を組みチラっと僕らを見渡す。

「ふむ、構わんぞ。ではフルフルの代わりにリンよ、ついてまいれ」

 指名されて、一瞬凄く嫌そうな顔が見えた。

「……むぅ、わかったです」

 しばらくの間腕を組み、葛藤していた様子だったけど、パーティの為と割り切ったのだろう。リンがしぶしぶOKを出してくれた。

「正直子供みたいに見られるのは嫌です」

 見た目が見た目なので、よく子供と間違われるからな。それを結構気にしているようだ。
 アリアとシオンさん。
 サラとフルフルさんがそれぞれ食堂を出ていった後に、僕らはイルナさんの後をついて街へと歩き出した。


 ☆ ☆ ☆


「ハッハッハッハッハ。我が名はリン、魔王様が四天王の一人です!」

 街の南東にある公園、というよりも空き地なのだろう。特に整備された様子もないちょっと広い土地だ。
 簡易な手作りの遊戯がいくつか置いてあるが、作りの甘さを見ると子供たちが勝手に作っておいたものかもしれない。

 30センチ程高くなってる地面――余分な土を一カ所に集めたであろう場所――で高笑いをするリン。

「出たな魔王の配下! 退治してやる!」

 それに対峙する3人の少年と1人の少女。その後ろにはイルナさんが不敵な笑みを浮かべながら腕を組んでいる。

「僕は力の戦士ゲルハルト、いくぞー」

 ゲルハルト、かつて勇者アンリと共に魔王討伐を果たしたパーティの一人。
 子供が勇者ごっこをする時にアンリの次に人気なんだよね、力こそ正義って感じでわかりやすいし。

 ゲルハルトと名乗った少年が木の枝を片手に襲い掛かるが、リンはくるりとバック宙をしながら避け、距離を取る。

「我は弓と魔法の名手ピエロ、くらえー」

 ピエロ、同じくアンリと共に魔王討伐を果たしたパーティの一人。
 弓と魔法が得意なエルフ族で本名は不明。いつもピエロのような仮面をかぶっているムードメーカー、ひょうきんな子は基本この役をさせられる。

 ピエロと名乗る少年は弓も魔法も無いので、両手に持った木の枝を投げつけるが、リンは踊るようにくるくると回りながら避けて、そのまま回りながら近くの木の枝までジャンプした。高さ2メートル以上はあるんじゃないだろうか? 

「ここは私が、神の巫女リリア」

 リリア、アンリの旅立ちから魔王討伐まで共にいた幼馴染の女の子で、魔王を討伐するもアンリと共に命を落とす悲劇のヒロインだ。
 彼女の心情を書き綴ったとされる唄や恋物語は1000年たった今でも人気が高い。

 少女はリンがいる木の前で、目を瞑り両手を握り。そしてゆっくり瞼を開けるとニッコリとほほ笑んだ。
 ゲルハルトとピエロには効果抜群だ、彼女にメロメロになっている。って味方魅了したらダメじゃん!?

「僕の出番だな! チェイサーピノ」

 ピノって珍しい役を好んでやる子だな。特に能力が無くていつも悪人を見つけては勇者アンリに泣きついて退治してもらってるだけで、本人が何かしたという伝承も無く、悪口で「やーい、お前は無能のピノだー」とか言ったりするのに使われるくらいなのに。

 でも少年の目はやる気に満ちている。嫌々やらされている感じがしない。
 木の上に居るリンを睨むと、そのままイルナさんの所へ走っていった。まぁそういう役なんだけどさ。
 イルナさんの横に立つ彼は誇らしげな顔をして、リンを指さす。

「あのお姉ちゃん、白色で紐のついたパンツだった」

 凄い事を、ドヤ顔で叫んだ。

「腰の部分に紐で結んだパン、ンンッ!」

 リンは木の上から一足飛びで少年の元まで詰め寄り、後ろから口を抑えている。
 今日のリンは、前にサラと買いに行ったパンツを履いているのか。
 そしてそれをあの少年は見たと言う事か! 僕はまだ履いた所見ていないのに。

 前にリンがお風呂上がりに下着に着替えて僕に見せてこようとした時、凄い勢いでサラに目つぶしされて見れなかったリンの下着姿を!

 リンのパンツの事を叫ぶ少年の口を必死に抑えるリン。
 そこに「ポスン」と、リンの頭へイルナさんの手刀が入った。

「あっ……」

「アーッハッハッハッハ、四天王のリン打ち取ったわ」

「「「やったー」」」

 勝利を喜ぶ少年たち。そんな彼らを少女は「頑張ったね!」と言って頭を撫でていく。
 彼らはその少女の事が好きなのだろう、顔を真っ赤にしている。
 二人の少年は頭を撫でてもらったのに対し、ピノ役の子は真顔で「気持ち悪い」と言われてたけど。哀れ。

「あんな風に叫ばれると流石にリンも恥ずかしいです。別に子供の遊びでやった事だから全然気にしてないですが」

 頬をぷくーと膨らませている彼女の頭を撫でてあげる。
 気にしていないというのはパンツの事を叫ばれた事か、子供の遊びで負けた事かは追及しないでおこう。
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