剣も魔術も使えぬ勇者

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第3章「魔法大会予選 ‐エルクの秘められた力‐」

第19話「酔っぱらい」

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 グレン達が去った後、一人テーブルに座り周りを眺めていた。
 ネガティブな事を考え込まないようにしようとすると、余計に考えてしまうのは悪い癖だ。
 
「さっきの子、感じ悪いね」

 コップを片手に、僕の後ろにはローズさんが立っていた。
 眉毛をへの字にして何か困っているようだ。いや、困っているわけではない。
 元からそういう顔なのだ。笑っているのに眉毛のせいで苦笑しているように見えてしまう。

「隣、良いかな?」

「どうぞ」

 正直、助かる。
 今アリアやサラのテーブルに行っても、余計に気にしてしまうだけだ。
 
「さっきの話、聞いちゃったんだけどさ」

「うん」

「確かにサラさん達は凄いと思うけど、私はエルク君も凄いと思うよ」

 そんな事無いよ。言いかけた言葉を飲み込む。
 自己否定をしているから、ネガティブになってしまうんだ。
 褒められたら喜ぶ事を覚えるです、なんて前にリンに言われてたっけな。

「前に卒業試験でキラーベアに襲われた時あったでしょ? あの時皆悲鳴を上げて逃げ回ったりして、私も腰が抜けて動けなくなったのに、エルク君は落ち着いて仲間を信じてたでしょ?」

 キラーベアか、色々あって正直思い出したくない記憶ではあるけど。

「キラーヘッドの時だって、危険を顧みずにファイヤウォールの中に飛び込んだりして。その、凄くカッコ良かったよ?」

「そ、そう? ありがとう」

 つい「えへへ」と笑みがこぼれてしまう。何というか、こうやって面と向かって言われると照れるな。
 あの後リン達からはボロクソの様に叱咤を貰い、褒められたりすることは無かったから、今更でも褒められると嬉しい。

 そっか、あの時の僕カッコ良かったか。
 村人がピンクのハート型フリフリエプロンを着て、高速で走っていく姿を思い浮かべた。
 あれ? 僕カッコイイか?
 
「それでね、あの時のエルク君を見て思ったの。私も冒険者になろうかなって」

 冒険者か。彼女ならやっていけるだろうな。
 魔法学園を卒業出来る程の人材だ、きっとどこのパーティからも引っ張りだこだろうな。
 聞き耳を立てていたのか、冒険者の人達は早速彼女をチラチラ見ているし。

 そんな彼女は、人差し指同士をツンツンしながら、上目づかいで僕を見ている。
 困った感じのへの字眉毛と、子供っぽい可愛らしさが相まって、そのしぐさに保護欲を掻き立てられる。
 こんな妹がいたら大切にするんだろうな、きっと。

「あのね、それでエルク君に聞きたい事があってね」

 うんうん、何でも聞いて!
 僕がわかる事なら何でも答えるよ、さぁさぁ。

「冒険者のお話を聞かせてもらいたいんだけど、良いかな?」

「良いよ、と言っても僕の話は失敗談ばかりになるんだけどね」

 家を出ていくように言われて冒険者になり。
 彼女達と初めてのゴブリン討伐。
 ジーンさん達の勇者イジメの一件。
 護衛依頼を受けて、ヴェルに行く途中でドラゴンと遭遇。
 そして、卒業試験の護衛依頼。

 一つ一つの話を聞くたびに、彼女は頷いたり、笑ったり、時には悲しそうに、僕の話を楽しそうに聞いてくれた。
 目をキラキラ輝かせて、話に合わせて表情がコロコロ変わる。そんな態度が語る側として嬉しい。

「そうだ。それなら今度、ゴブリン討伐にでも一緒に行きますか?」

 ゴブリン程度なら、もう一対一で負ける事は無い。
 それでもリンに護衛として一緒に来てもらおうかな、彼女なら大会参加予定も無いし来てくれるはず。

「うん、行きたい!」

「お、俺も一緒に行きたい」

 さっきから近くをうろうろしていたピーター君だったが、ゴブリン討伐に行くと聞いた瞬間に話に割って入ってきた。
 冒険者志望だから話が気になったけど、中々会話に入ってこれなかったという事か。
 もしかしたら、他にも同じような学生がいるかもしれない。 

「それなら、他にも希望者が居るかもしれないし、明日皆に聞いてみようか」

「うん」

 ローズさんはちょっと落ち込んでるように見えるけど、眉毛のせいでそう見えるだけかな?
 逆にピーター君はテンションが上がってるようだけど。

「あっ、もう遅いから、私はそろそろ帰るね」

「お、俺も帰るから、途中まで送るよ」

「いらない」

「あ、はい」

 かなりの時間が経過したのだろう、最初の頃は座る場所が無い位だったのが空席も目立つようになってきた。
 ローズさん達は帰ったし、僕の気も大分落ち着いた。
 アリア達の所に戻るか。


 ☆ ☆ ☆


「あ、エルクれす。どこいってたれす?」

 何が面白いのか「キャハハハ」と笑いながら、ケーラさんの膝の上に座ってチビチビとコップに入ったお酒を飲んでいる。
 呂律が回ってない様子だ。

「リン、酔ってますか?」

「酔ってないれすよー」

 酔っぱらいは皆そう言うよね。
 父も酔ってる時に限って「酔ってませーん」とか言うし。
 ケーラさんはこの状況で、完全に悦に浸っている。
 酔ったリンが何か話すたびに「なるほどなるほど」と言いながら、コップに飲んだ分を注いで。
 隣では、イルナちゃんが机に突っ伏して、寝てしまっている。
 シオンさんは、その寝顔を温かい目で見ている。

「ヒック」

 しかし、酔っているようだ。大丈夫だろうか?
 少し席を外した間に、中々の惨状になっていた。
 そんな状況でも冷静沈着な、無表情のアリアを見る。
 もしかしたら彼女がストッパーとなってくれたおかげで、この程度で済んでいるのかもしれない。

「ヒック」

 前言撤回、彼女も酔っぱらいのようだ。
 全員が楽しんで酔っているんだ、シラフの僕が居ては逆に盛り下がってしまう。そうだろう? きっとそうさ!
 よし、サラのテーブルに移動しよう。
 僕は逃げ出した。

「待つれす」

 しかし、回り込まれてしまった。
 いや、回り込まれてはいないんだけどね。
 アリアに服を掴まれて、逃げられないことには変わりないけどさ。

「エルク、話があるれす。そこに座るれす」

 リンが指さす『そこ』それはアリアの膝の上だ。

「そこって、アリアが座ってるんだけど」

「いーいーかーらーすわるれす」

 えー? と助けを求めるつもりでアリアを見てみたのだが、そのまま引っ張られてアリアの膝の上に座らされた。
 両手でガチっと、抱きかかえるように捕らえられて逃げ出せないようにされた。

 後ろから抱きかかえられ、ドキドキするが、普通逆じゃない?
 僕の対面には目が座ったリンがお酒をチビチビ飲みながら、『むぅ』と言った感じで僕を睨んでいる。

「エルク、サラやアリアとデートしたれすね」

「はい、しましたが」

「なんで、リンとはしないれすか!」

 ドンと音を立て、テーブルに勢いよくコップを置く。
 そこそこ大きい音を立てたが、誰も気にしていないようだ。と言うかどこも酔っぱらいだらけでドンチャン騒ぎをしている。

「なんでって言われても」

「リンが子供っぽいかられすか? 見た目が子供だかられすか?」

 そう言って、駄々をこねた子供の様に手足をバタバタさせている。
 ダメだ、完全に手に負えない状態になっている。
 しかし逃げ出そうにも、アリアに抱きかかえられ逃げ出せない。

「今からデートするれす」

「今からって、もう遅いよ? 今度にしよう?」

「だめれす、エルクが『はい』と言わないなら、リンにも考えがあるれす」

 彼女は胸を張り、ニヤリと悪人のような笑みを浮かべた。

「泣きながらサラに『エルクにイジメられた』と言ってやるれす」

 やめろ、それはマジでヤバイ!
 その場合、僕は一切の言い訳をする暇すら与えられないだろう。
 ならば僕はリンに従う他ない。

「わかりました」

 実際、リンとだけデートしてないと言うのは事実だし。
 僕なんかで良ければ、いくらでもデートをしよう。
 可愛い女の子とデートを断る理由なんて無いしね。酔ってなければだけど。

「でも、この時間からデートするにしても」

「さっきケーラから、デートの道具を貰ったれす」

 そう言ってリンが自慢げに取り出したのは、リードのついた首輪だった。
 ごめん、意味が分からないよ。

 リンは嬉々として首輪を自分に付けようとするが、酔いが回っており上手く付けれない様子だ。
 それを見かねたケーラさんが付けてあげている。傍から見ると微笑ましい獣人姉妹に見えなくはないな。

「やっぱり少女には首輪よね」

 恍惚の表情で、心の声をそのまま口にしているケーラさん。
 本当にこの人大丈夫なのだろうか? 色んな意味で。
 そしてリードを手渡されたが、僕にどうしろというのだ。

「デートれす、エルクはどこに行きたいれすか?」

 そうだね。とりあえず店の外には行きたくないかな。
 このまま外に出て衛兵や自警団に見られでもしたら、僕は屈強な男たちと牢屋でデートするハメになるからね。

「それじゃあ、サラのテーブルまでデートしましょうか」

「はいれす」

 抱きかかえていたアリアは、その手を緩めて僕を解放してくれた。
 そしてイスから降りた僕の服の背中を、アリアは摘んでいた。

「アリア?」

「私もデート……ヒック」

「あ、はい」 

 女の子に首輪をつけて、リードを持ち。
 他の女の子に僕の服の背中を摘ませる。
 僕の人生で、これ以上狂ったデートはこの先もう無いだろう。多分。


 ☆ ☆ ☆


 サラの元に着くと、サラがギョっとした表情で僕を見ている。

「何してるの?」

 普段の彼女なら烈火の如く怒りだし、僕が言い分けする前に手が出ると思うけど。意外にも冷静だった。
 状況があまりに特殊すぎて、怒るという事すら出てこなかったのかもしれない。
 そして僕は、彼女のその問いかけに対して答えを持っていない。

 だってリンに首輪付けて、リードを片手に「リンとデートだぜ!」なんて言った日には、僕が女の子にされてしまう可能性がある。
 状況を説明しろと言われても無理なのだ。
 フルフルさんやジャイルズ先生、ジル先生も「何してるんだコイツ?」という目で見ているし。

「デートれす」

「デート……ヒック」

 えっへんと胸を張りながら、ドヤ顔でデートと言い張るリンと、僕の服を摘みながらデートと言ってしゃっくりを続けるアリアを見て、察してくれたのだろう。
 もしかしたら、単に呆れているだけなのかもしれないけど。

「ごめん、もう遅いし、私達は帰りますね」

 残った人達に挨拶をして、僕らは店を後にした。

「リン。デートの帰りってのは、男の人にお姫様抱っこされないとダメなのよ」

 サラの気が利いたウソにより、リードをひいて夜道を歩く危険は回避できた。
 リンをお姫様抱っこする際に、酔ったアリアまで僕の腕に乗ろうとして大変だったけど。

 最初はお姫様抱っこにはしゃいでたリンだが、お酒が回ったのか、それとも普段の寝る時間だからか、すぐにすやすやと寝息を立てて今は大人しく寝てくれている。
 
「サラはお酒飲まなかったの?」

「ええ、新しい魔法の技術が出来そうだったから、そっちの話で夢中になっていたのよ。次の予選までには覚えたいからね」

 4人でずっと紙に色々書いてたのはそれか。
 彼女はまだまだ強くなるようだ。
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