剣も魔術も使えぬ勇者

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第4章「ヴェル魔法大会」

第5話「グレン」

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 こうして僕らは無事(?)ゴブリン討伐を終えて、冒険者ギルドまで戻って来た。
 戻って来た僕らを見て、ランベルトさんは腹を抱えて爆笑していた。正しくは化粧によりバケモノと化した、僕とヨルクさんを見てだが。
 一応途中で化粧を落とそうとしたけど、「ギルドで依頼を完了するまでは、そのままです」とリンに面白がって言われた。散々リンでふざけた後だから、抗議をしたくても怖くて出来ずそのままだ。
 ふん、笑いたい奴には笑わせれば良い。そうやって恥ずかしがるから余計に恥ずかしく思うだけだ、きっと。
 僕とヨルクさんで、討伐証明部位のゴブリンの耳を受付のお姉さんに渡す。思い切り目をそらして肩をプルプル震えさせて、笑いを堪えているのがわかる。
 ダメだ、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。

 誰かが「おいおい、新人冒険者に女の子二人のパーティが居るぜ。誰か誘ってやれよ」なんてふざけて言うだけで、ギルド内は爆笑が巻き起こる。
 受付のお姉さんは顔を赤くして、完全に下を向いてしまっている。
 どうしてこうなった!? 原因は僕か。ベリト君を女装させるだけで終わっておけば良かったんだ。調子に乗り過ぎた。
 ランベルトさん達と一緒の席に座り、リンはニヤニヤと僕らを見ている。あれ、ローズさんとエリーさんとベリトちゃんの3人足りない?

「ローズ達なら、ベリトの服を買いに行くと言ってたです」

 お、おう。完全に着せ替え人形にされるやつだ。
 ヨルクさんと一旦ギルドの外に出て、建物の横に防火用水として置かれている桶で顔を洗わせてもらった。顔に何かが張り付いてる感覚が取れてサッパリした気分だ。
 女性という物はいつもあんなのを付けて生活しているのか、大変だな。そういえばこの前サラとデートした時にサラも薄くだけど化粧していたっけ。
 
「おやおや、可愛いお嬢さんが2人減ってるぞ?」

 プークスクスといった感じで笑いながら、ランベルトさんはまだそのネタを引っ張っている。

「帰りましょうか」
 
 席を立つ僕とヨルクさんの袖を掴んで「冗談だよ冗談。謝るから、この通り、な?」と言って、掴んだ手を離し、両手を合わせて頭を下げている。
 ちょっとブツブツと言いながら不貞腐れた振りをしながら席に着く。隣ではヨルクさんが大きなため息をついている。彼は色々と気苦労が多いんだから、あまりイジメるのも可哀想だと思う。今回の原因は僕だけどね。
 ランベルトさんのパーティの人も苦笑気味だ。

 さてと、ランベルトさんも真面目な表情をしてくれているから、変な空気を作る前に報告会だ。
 まず、エリーさん。彼女は斥候としては優秀だ。
 『気配察知』という能力で敵を事前に察知出来るおかげで先手を取られる心配が無い。むしろこちらが先んじていけるくらいだ。
 これに関してはリンも「エリーはリンと同じ位出来てたです」と言ってくれた。ランベルトさんはそれを聞いて「ほう」と言いながら、上機嫌に顎鬚を擦っている。
 モンスターの群れを見つけた際に、彼女が他にも近くにモンスターが潜んでいないかわかるのは大きい。
 弱いモンスターの周りをうろうろして、それを狩りに来た駆け出し冒険者を襲うモンスターと言うのも存在するからだ。

 弓の腕前も100発100中、とまではいかないものの、狙った位置に飛んでいくので遠距離からの先制攻撃にも役立つ。
 グレンがモンスターの群れに突っ走っていった際に、彼女が遠距離からモンスターの数を減らせればパーティ全体の負担も減るだろう。
 彼女がちゃんと機能すれば、グレン愚連隊は相当バランス良く立ち回れるようになると思う。
 別にグレン愚連隊じゃなくても、彼女の能力を考えるとどこでもやっていけると思うけど。

 問題があるとすれば、彼女の男性恐怖症だ。
 せっかくの能力も、怖がっていて上手く伝えられなければ意味が無い。
 女性のいるパーティというのは基本少ない、冒険者に男性が多いから。
 多分どこのパーティに居ても、彼女は同じようにビクビクして、”役立たず”に成り下がってしまうだろう。
 本当にどうしようもない時は、サラと相談して僕らのパーティに入ってもらうというのもあるけど。

「彼女の男性恐怖症を、ある程度ですが何とかする方法が出来ました」

「もしかして、女装したら会話できるとか言うオチじゃねぇよな?」

「いえ、その通りですよ」

 ズルッと、ランベルトさんがその場で滑った。
 頬をポリポリ掻きながら「まぁ、それで良いなら良いんだけどよ」と言っている。何だか申し訳なさそうな顔をしているけど、なんでだろう?

「その、お前らのさっきの化粧も、エリーと会話するためだったのか。茶化しちまってわりぃな」

 それは僕がリンでふざけすぎたのが原因だけど。まいいや、この際黙っておこう。

「ところで、ベリトの奴。それで変な趣味に目覚めたりしてないよな?」

 それについてはノーコメントで。
 ヨルクさんは腕を組んで首を傾げている。小声でブツブツとベリト君が女装すれば解決するけど、幼馴染が変な趣味に目覚めてしまったらどうしようかという感じの内容だ。本当に色々と苦労させられるな彼は。
 
「そういえば。グレンが何かと僕を睨んだり、あれこれと絡んだりして来るのですが」

 初対面の時から、何故かグレンは僕に対して態度が悪い。
 彼に何かした覚えはないので、流石にここまでされる理由がわからない。今はヨルクさんもいるし気になって聞いてみた。
 リンも興味があるのか、ヨルクさんの方を向いてる。
 それに対してヨルクさんは押し黙って僕を見ている。表情からは何を考えているか伺う事は出来ない。
 だが押し黙っているという事は何かを知っている。そして彼の中で話すべきか話さないべきか悩んでるのだろう。

「あいつは、焦ってるからだよ」

 口を開いたのは、ランベルトさんだった。 
 そんな彼を見て、ヨルクさんは深いため息をつく。一旦イスに座りなおし姿勢を正して、真っ直ぐな瞳で僕を見てくる。

「実は僕らは、元々幼馴染の5人パーティだったんだ」

 静かに過去を語り出す。
 グレン愚連隊、そのメンバーは剣士グレン、聖職者ヨルク、魔術師ベリトの他に、副リーダーの戦士バートン、勇者ベンジャーという同年代の男の子5人組にパーティだったそうだ。

 彼らは村を出てから、必死に冒険者をやっていた。
 当時からグレンは文句は多かったが、今ほど酷い物ではなく、小言レベルだった。
 時折副リーダーのバートンと衝突をする事もあったが、二日もすれば仲直りする程度の物だった。

 時間が経つにつれて衝突することは増えていった。仲直りするタイミングも遅れていく。
 冒険者として上手く行かない歯がゆさが、グレンを苛立たせ、それを宥めるバートンに対して辛く当たるようになっていた。
 始めはバートンの意見も聞いていたグレンだが、段々耳を傾けなくなり、1年後に耐えかねたバートンとベンジャーはグレン愚連隊から抜けていった。
 彼らが抜けた後もギルドで顔を合わせれば多少は会話もしたし、グレンがお節介のような小言で「お前のパーティはこうしたら良い、ああしたら良い」なんてバートンに語っていたそうだ。
 それからしばらくして、グレンもバートンもEランクに上がったが、その数か月後に、バートンは更にランクを上げてDランクになった。

 元々副リーダーをしていたバートンは、パーティ全体の意見を聞いてまとめるのが上手い人物だったそうだ。問題があるとすれば少々消極的な事だ。だからグレンとは相性が良かった。
 バートンはあえて癖の強い人間を集めた。実力はあるが癖の強さゆえに周りと溶け込めないような人間を。
 自分が消極的になったとしても一癖も二癖もある仲間が積極的に行動してくれる。仲間をまとめるのが上手い彼の意見に従った結果、バートンさん率いるパーティはすぐにDランクに駆けあがった。異例と言って良いほどの速さで。
 バートンが街を去る際に「お前らも頑張れよ」と激励の言葉を残していった。それがグレンにとっては屈辱的だったのだろう。お前の意見は間違っていると否定されたと思ったのだろう。

「なるほどね」

 グレンにもそんな過去があったのか。

「あれ、でもそれで僕が恨まれるの関係なくないですか?」

「あぁ、バートンって奴は実力で言えばグレンよりも下だ。お前もバートンも実力が無いのにリーダーやってて、仲間の力で成り上がったと思って気に食わないんだろ」 

 そういえば魔法大会で「俺だってまともなパーティメンバーが居れば」とか叫んでたっけ。

「1年ちょっとでEに上がったのは冒険者としちゃ早い方だ。それで鼻を伸ばしていたらバートンやお前らにぽっきりおられて悔しいんだろうな」

「それはグレンがアホなだけです」

 辛辣な言葉を投げかけるリンに対して、ランベルトさんもヨルクさんも苦笑している。リンの言う通りアホではあるけど、ちょっと同情もしてしまう。

「でも、グレンさんはエルク君の事気にかけているんですよ。前に組んだ時に『腕はあまり良くないが、意見をまとめてくれて、俺の隣で戦ってくれる。頼もしい奴だな』って言ってましたから。本当はパーティにエルク君が欲しいから、わざとあんな事を言ってたんだと思いますよ」

 そんな態度をとるから余計に来なくなるんじゃないかな? と言いたいところだけど、グレンにもグレンなりにプライドと言うのもあるのだろう。
 それに僕がバートンさんとダブって見えるから、なおさら素直になれないのかもしれない。 


 ☆ ☆ ☆


 その後しばらくしてグレン達も帰って来た。
 グレンは「楽勝だったぜ、な?」とご満悦だったが、他のメンバーはやや疲れ気味の表情だ。グレンの特攻につき合わされて散々な目にあったのだろう。
 機嫌が良いうちに、グレンにエリーさんの扱い方を説明しておいた。
 あれこれ言ってもあまり聞いてくれそうにないので、「エリーさんはベリト君に任せて、どうしても伝えたい事があったらベリト君越しで伝えるように」とだけ伝えておいた。どこまで守ってくれるかはわからないけど。

 説明が終わったタイミングでベリト君達が帰って来た、いやベリトちゃんか。
 白いレースのブラウスに丈の短いスカートを穿かされて、スラリと伸びる足からガーターベルトが見えている。青いローブをマントの様に羽織ってどこからどう見ても美少女だ。困ったくらいに美少女になってしまっている。
 もしかして、そのスカートの下はもしかして女物の下着を穿いているのだろうか?

 髪型も整えてもらったのか、伸ばしっぱなしだった前髪は目が見えるかどうかのぱっつんにされており、おどおどしたしぐさが似合ってるのが地味に嫌だ。本当にあのブサイクだったベリト君か疑うレベルだ。

 そして一番気になる点は胸だ、何故か胸がある。割と大き目な。
 もしかして、彼は本当は女の子だったのだろうか?

「あの……その胸は……」

「エルク君はやっぱり女の子の胸ばかり見てるんだね」

 ローズさんが下品な笑いをしている。違うそうじゃない、なんで彼に胸があるかだ。

「大丈夫、これはエリリンの希望で詰め物をしただけだから。こっちの方が落ち着くって言うからね」

 エリリン、あぁエリーさんの事か、つまりあれはエリーさんの趣味か。それなら問題ないな。いや問題だらけだろ!?
 というかエリーさんが恍惚の表情でベリト君を見てるし。大丈夫だろうか?
 そんなベリトちゃんの姿を見たグレンは白目を向きながら飲み物をこぼしているし、ヨルクさんは何か顔を赤らめている。
 何というか、色々ゴメンナサイ。

 後日、朝起きるとリンが巨乳になっていた。ドヤ顔のリンに「そのままのリンが、一番可愛いよ」と言って頭を撫でて詰め物をやめさせた。
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