剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

文字の大きさ
85 / 157
第4章「ヴェル魔法大会」

第22話「卒業」

しおりを挟む
 魔法都市ヴェル。この街の中央にあり名物ともいえる中央コロシアム、その隣に設立されている冒険者ギルド。
 冒険者ギルド内にある酒場は繁盛していた。大勢来ることを見越していたのか冒険者ギルドの前には大量に机とイスが並べられており。冒険者ギルドから見渡すが先が見えない位だ。そしてそれだけある席のほとんどは埋まっている。
 流石にこれだけの量を冒険者ギルドにある酒場では賄いきれないため、近隣の酒場が出張し酒樽や簡易的な台所などを持ち込み所狭しと並べられている。他にも先ほどの出店とかもあるようだ。
 辺りは真っ暗だというのに、近所迷惑この上ないほどの喧騒に包まれている。
 魔法大会が終わった後、徐々に静けさを取り戻した街が、又お祭りのような騒がしさを取り戻していた。

「卒業生諸君、卒業おめでとう。長く語るのは朝やったので以下省略じゃ、乾杯」

 ヴァレミー校長の乾杯の音頭で、僕らは手に持ったグラスを掲げ「乾杯」と叫ぶと、お互いがグラスをカンカンと合わせて祝い合った。
 冒険者ギルドから少し離れた席で教員と学生は集まっていた。魔法都市ヴェルにある冒険者ギルドのマスターゼクスさんに「冒険者ギルドの中でも良いんだぞ?」と言われたけど、人数が多すぎる事と冒険者と学生お互いが快く思っていない人も少なくない為、変な問題が起きないように僕らは少し離れた席を選んだ。
 学生を気に食わないといった様子で睨む冒険者にはゼクスさんが、冒険者を気に食わないといった様子で睨む学生にはヴァレミー校長が睨みを利かせている。勿論仲良くしている冒険者と学生もいっぱいいるが、完全に歩み寄るにはまだ時間がかかりそうだ。

「エルクよ。少し良いか?」

 乾杯の後、ヴァレミー校長がジャイルズ先生とジル先生を引き連れ、僕の元へやってきた。
 
「あっ、はい大丈夫ですよ」

 アリア、サラ、リン、イルナちゃん、フルフルさん、シオンさん、それにスクール君やローズさん達と丁度乾杯し終わって、お互い一口飲んだ後だ。もしかしたら僕らが一旦乾杯をし終わるのを見届けてから、話しかけてくれたのかもしれない。
 
「エルク、それに皆もこのたびは卒業おめでとう」

「ありがとうございます」

 僕らが頭を下げようとするのを、ヴァレミー校長が「良い良い」と言って手の平を前に出して制止する。
 そして僕らをぐるりと見渡し、穏やかな笑みでうんうんと頷く。

「エルク、短い間であったが学園生活はどうじゃった?」

「最高の学園生活を送れたと思っています」

「そうか……」

 少し悲しそうな笑みで、アゴヒゲを擦り。
 ジャイルズ先生とジル先生は言葉に詰まっているといった様子だ。何かおかしい事を言ってしまったのだろうか?

「卒業式でキミがした演説の件でな」

 あぁ。やっぱりまずかったか。
 謝ろうとする前に、ヴァレミー校長が先に口を開いた。

「イジメの件を許してくれとは言わぬ、せめて謝らせて欲しい。本当にすまなかった」

 そっちの話か。

「いえ……そんな……」

 大丈夫です、気にしてません。そう言おうとしたけど、その言葉が言えなかった。僕にとってその言葉意味は思ったよりも軽くなかったから。
 だから曖昧な返事をするのが精いっぱいだった。

「それと恥ずかしい話じゃが、あの教員をすぐにクビにしたりすることは出来ない事を許してほしい。『魔術師至上主義』の思想はいまだに根強い。どうにかするためとはに『魔術師至上主義者だから』と言って追い出せば、生徒からも教員からも反発を招いて学園内で派閥争いが起きる可能性もある。それに」

 凄く申し訳なさそうに僕に話をするヴァレミー校長の言葉が、「おっふ!」という声と共にいきなり途切れた。ゼクスさんが笑顔で両手を握り人差し指を立て、ヴァレミー校長にお尻に向けて突き立てたのだ。いわゆるカンチョーだ。
 その場で四つん這いになり、お尻を擦るヴァレミー校長を見てカカカと言った感じで笑っている。

「なぁエルク、学園楽しかったか?」

「はい」

「ヴァレミーの事は、恨んでいるか?」

「いえ、正直感謝しているくらいです」

「ならそれで良いじゃねぇか。だいたいヴァレミー、お前はバカの癖に考え込むからダメなんだよ。バーカバーカ」

 肩をバシバシ叩きながら、バーカバーカとなおも続けるゼクスさんの顔面めがけてヴァレミー校長の鉄拳が飛ぶ。そのまま子供のような言い争いをし始めて取っ組み合いの喧嘩を始めた。
 二人ともいい年してなんだから、もうちょっと大人な喧嘩の仕方をした方が良い気がするけど。もしかしたらゼクスさんなりにヴァレミー校長の事を励まそうとしているのかもしれない。
 その後ジャイルズ先生とジル先生とも少し話してから、二人はゼクスさんとヴァレミー校長の喧嘩を止めに行った。
 ジル先生には「屋上でキミと仲直りした事を、サラ君達が知ってると思って話しかけたら氷漬けにされたよ」と言われ、笑いながらおでこを指先でグリグリとされた。そういえば魔法大会の予選の後に祝勝会でサラと同じテーブル囲んでいたけど、僕と仲直りした事サラ達が知っていると思っていたのか。別に屋上の件は仲直りではない気がするけど。 
 先生達が去った後に、シオンさんが僕の所へやってきた。

「エルク。今までの事感謝する。そしてこれからもよろしく頼む」 

 そう言って片膝を着こうとする彼の肩をフルフルさんが掴み、笑顔で首を横に振る。それを見て「あぁ、そうだな」と言って頷き、僕に手を差し伸べてきた。

「そんな感謝だなんて……こちらこそ、これからもよろしくお願いします」

「いや、お前には随分と世話になっている。あの日、素材の売り上げを折半してもらえなかったら、俺達の資金ではその日のうちに尽きて、この街を出ていただろう。お前が無理にでも受け取らせてくれたおかげで俺達はこの街に留まって色々と経験が出来たんだ。だから礼を言わせてくれ」

 交わした手を強く握りしめ、目を細め満足そうに笑っている。正直僕の方が助けてもらってばかりだ。
 火竜の時、キラーヘッドの時、そして今日の卒業式の時。『混沌』の修行や、アリアの『瞬戟』の修行にだって付き合って貰った。
 それなのに感謝だなんて。むしろ僕が彼に感謝しなくちゃいけない立場だ。

「そんな事」

 そんな事ないですよと言おうとした僕に、イルナちゃんが聖剣で頭をバシバシと叩いてきた。というかそれまだ持ってたの!?

「エルクよ。周りを見てみるが良い」

 周りを見ろって言われても、見渡す限り酔っぱらいだらけだ。冒険者も学生も街の人も皆楽しくお酒を飲んで酔っ払っている。

「皆仲良くやっておるじゃろ? 関係が最悪だったはずの冒険者と学生までもが。それはお主が変えた事じゃ。お主がシオンに金を受け取らせ、助けに行かなくても良いような連中を助け、それが今に繋がった。偶然ではあるがそれでもお主の行いの結果じゃ、少しは胸を張れ」

 そう言って「やれやれ、まったくこやつは」と言って肩を落とすイルナちゃん。「エルクはネガネガもさっさと卒業するです」というリンの言葉に皆がクスクスと笑っていた。これでもかなり前向きな自信があるのに傷つくな、なんて口に出したら「ほらね」と言ってまた笑われそうなのであえて黙っておいた。


 ☆ ☆ ☆


「よぅ、卒業おめでとう」

 イルナちゃん達が離れたのを見て、今度はランベルトさんとそのパーティがやってきた。
 ランベルトさんのパーティと僕らはそれぞれグラスを合わせる。シオンさんや学園を除いたら多分僕が一番お世話になった人達だ。
 卒業試験失敗の時の違約金カンパを提案してくれたり、魔法大会の参加者の情報、学生の冒険者体験の為のパーティ斡旋。他にも底辺冒険者と呼ばれる人達の面倒を見たりしていて、何かと人の世話をしたがる人だ。
 
「わざわざありがとうございます」

「いやいや、おめぇさんには世話になったしな。お礼もかねて挨拶しとかねぇとなと思ってな」

 アリア達の視線が僕に向けられる。わかってる、わかってるよ。
 ここで僕が「そんな事無いですよ」と言ったら「又エルクがネガネガしてる」とか言おうとしてるんだろ?
 ここはイルナちゃんに言われた通り、胸を張ってみるかな。

「いえいえ、僕もランベルトさん達には色々とお世話になっていますし。まだ返し足りないくらいですよ」

「おおう、ボウズが言うようになったじゃねぇか」

 そう言って愉快そうに僕の背中をバンバンと叩く。
 僕の対応に少し満足そうな顔をしているサラに、ランベルトさんのパーティの杖を持った男女が話しかけている。見た感じ魔術師か聖職者だろう。何かを聞かれたサラは、そこにアリアを呼んでアリアに話させている。攻撃魔術ではなく治療魔術や補助魔術の事を聞かれたのだろうか?
 そうだ、ランベルトさんに伝えておきたい事があったんだ。

「そういえば前に言い忘れていたのですが、グレンですけど。彼が僕に対して突っかかるような態度の理由はバートンさんは関係なくて、サラが好きだったかららしいですよ」

「おまっ、何でそんな面白そうな話言い忘れるんだよ。詳しく利かせろ、おまえが返し足りないと思ってる分はそれでチャラにしてやるから」

 無理矢理席に座らされると僕のグラスに溢れる程お酒を注がれた。それを飲んで知ってる事を全部吐けと言わんばかりに。
 話していて思ったけど、好きになった女の子のために彼なりに頑張っていたんだよな。なのに大会でその好きな女の子にコテンパンにされたのか、そう思うと少し可哀想だ。
 グレンの話でゲラゲラ笑うランベルトさん。話を一通り聞いて「じゃあ、他の奴らも面倒見てくるからそろそろ移動しとくわ」と言って他のテーブルに移って行った。


 ☆ ☆ ☆


 夜は更けていく、しかしこのどんちゃん騒ぎはまだまだ静まる様子はない。
 周辺の酒場の酒も飲み尽くしたのか、馬車を使って少し離れた店からお酒を取り寄せているようだ。 
 
「エルク達との出会い? 私達がエルクと初めて会った時、エルクとサラはドラゴンの前で抱き合っていたわ」

「ちょっと! フルフル何言ってるのよ!」

「愛の超級魔法。ロード・ラブ・ヴァーミリオン!」

「シオンさんまで何言ってるんですか!」

「大体あってるです」

「うん」

 この日、朝まで皆と飲み交わし騒いだ。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...