剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

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第5章「エルフの里」

第4話「遭難」

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 エルフの里に向けて出発してから3日目。僕らは森で迷子になっていた。
 遭難ですか? そうなんです。なんちゃって、わっはっはっは。
 そんな馬鹿な事を言って笑っている状況では無いけど、笑わないといけない。何故かって?

「地図とか読むのはリンが得意だったよね」

 そう言って僕らはリンに地図を見てもらい、先導を頼んだ。
 今思えば、あの時一瞬リンが困った顔をしている事を疑問に思っておくべきだった。
 リンの先導で歩き始めて2日目の事だった。リンが急に泣き出したのだ。
 どうやら森を歩いた事なんて殆どないが、僕らの期待の眼差しに負けて「任せるです」と大見栄を張ったものの、結局道がわからなくなってしまったようだ。
 
 リンは大体の事は何でも出来る、それ故に僕らはリンに頼りすぎた。結果断りづらい雰囲気を出してしまった僕らにも責任はあるから、今回の件でリンを責める事は出来ない。
 今のリンに先導をお願いするのは心苦しい。かと言ってアリアかサラに先導をさせると喧嘩になるのが目に見えている。
 なので今は僕が地図を手に薄暗い森の中を先導をして歩いている、黙っているとリンがシクシク泣き出すため、出来る限り僕らは明るく努めた。
 一応地図を見ながら歩いているけど、正直ここがどこかわからない時点で地図の意味が無い。 
 『混沌』を使い、強化された身体能力を使いその場でジャンプしてみたが見渡す限りの森だった。相当奥まで来てしまったようだ。

 結局3日目も迷子のままだった。
 夜になり、辺りはもう真っ暗闇だ。この状態で森を歩くのは危険なので、僕らは火を灯し野営の準備を始める。さて、僕は今日の夕飯の準備だ。
 まずは腰に掛けた剣ファイヤブランドを引き抜き、火の家庭用魔法を発動させ、焚火を用意した。

「サラ。悪いんだけど鍋に水をお願い出来るかな」

「別に良いわよ」

 そう言ってサラは無詠唱で水の家庭用魔法で指先から水を出してくれる。もし焚火が無かったら、サラが指から大量出血してるように見えるかもしれないな、なんてどうでも良い事を考えてその光景を見ていた。
 鍋の半分くらいまで水を溜めて「これ位で良い?」と言うサラにお礼を言って料理の準備を始める。僕が食材を取り出し始めたら3人がソワソワし始めた。
 サラは料理をしてみたいといった所だろう。まぁ今日は簡単な物を作る予定だし一緒にやるのも悪くないか。

「サラ。ついでに料理も手伝って欲しいんだけど良いかな?」

「勿論良いわ」

 野菜を適当な食べやすいサイズに切ってもらうようにお願いして、僕は干し肉を鍋の中に入れていく。
 サラが野菜を切り終わったタイミングで干し肉を取り出す。良い感じにふやけているのでこちらも食べやすいサイズに切ってもらい、後は野菜と一緒に炒めてもらう。

「炒めるって、どれくらいやれば良い物なの?」

「ん~、適当に色がついて良い匂いがして来るぐらいで良いよ」

「適当って……まぁコイツで美味しくなったタイミングがわかるから、何とかなるか」

 先ほどからソワソワしているアリアの首根っこを掴み、サラが隣に座らせた。
 食事時になると餌をねだる犬の如くソワソワし始めるアリア。彼女も料理の腕は少し前のサラと同レベルだが、美味しくなったタイミングだけは正確にわかるので、サラが炒め物を作る際にアリアを隣に置くことが多い。
 ソワソワしているアリアが、料理に顔を近づけだしたらその料理が美味しく出来たタイミングらしい。ただし美味しい料理が出来る代償として、いくつかつまみ食いをされてしまうけど。
 僕は先ほど干し肉をふやかした鍋に豆を投入した。作っているのは豆スープだけど干し肉をふやかす際に良い感じにダシが取れているので、普通の豆スープとは一味も二味も違う。

「あ、あの……リンも何か手伝うです」 

 正直リンに手伝って貰う事がもう無いんだよな。でも今のリンは自責の念にかられていて、今にも泣きだしそうだから何か仕事を与えてやりたい。
 一応辺りを警戒してモンスターに襲われないようにしてもらってはいるけど、リンが言うにはそれは無意識でも出来てしまうそうだし。う~ん。

「そうだ。リンひとつお願いして良いかな?」

 僕の「お願い」という言葉に「はい、わかったです」と笑顔で即答するリン。まだお願いの内容を言ってないんだけど。

「実は荷物を持って歩いたせいで、肩が凝っちゃってね」

 ちなみに一番荷物となっているのは『魔力式簡易シャワー』だ。食料や消耗品と違って無くなる事が無いので、この荷物だけは減る事は無い。

「わかったです。じゃあ明日はリンが荷物持ちをするです」

「いやいや、リンに荷物持ちはさせられないよ。モンスターと戦闘になった時邪魔になるし」

「……はいです」

 しょんぼりした様子で返事をするリン。今はヘッドドレスを被っていないので、彼女の耳がしょんぼりと垂れ下がっていくのが見える。

「だから代わりに、豆スープを煮込んでいる間、肩たたきをお願いしたいんだけど良いかな?」

「はいです」

 しょんぼりと垂れ下がった耳をピンと立てて、元気よくトントンと僕の肩を叩き始めるリン。昔父に肩たたきをしてあげたら幸せそうな顔でお礼を言われたけど、今ならその気持ちがわかるような気がした。
 自分にも将来子供が出来てこんな風にしてもらえたらな。とか、もし家に帰ったら父の肩たたきをしてあげようと思った。

「リン。エルクの肩たたきが終わったら次は私お願いしても良い?」

「私も」

「はいです!」

 少しだけリンも元気を取り戻したし、これで後はどこかの道か人里に出られれば良いけど。
 最初の2日間と比べて、今日はモンスターとの遭遇が極端に減っていた。この辺にモンスターが少ないと言う事は、誰かが定期的に駆除している可能性がある。
 それはつまり、近くに人が住んでいる可能性があると言う事にもなる。
 ただ彼女達にこの情報はあえて教えていない。もし違った場合、希望は一気に絶望へと変わるからだ。
 中途半端な希望は持たせない方が良いだろう。


 ☆ ☆ ☆


 そして4日目。
 森の木々の間から見える太陽が昇りきり。時刻はそろそろお昼になろうかという時だった。

「あれは……!」

 森の中にある、詰め所のような建物を発見した。
 もしかしたら誰かいるかもしれない。僕らはその建物に向かって走り出した。
 近くで見るとその建物は、全体的に石造りで経年劣化によるものか、思った以上にボロボロだ。でも元々ガッチリした作りなのだろう、ボロボロになってはいるけど住むには十分問題ないレベルだと思う。
 そしてボロボロになっている割には苔や蔦が生えていないのを見ると、誰かが住んでいる可能性は高い。

「すみません。誰か居ませんか?」

 建物の中まで聞こえるように、大きい声で呼んでみると、中からドタドタと足音が聞こえてくる。
 これで助かる。僕らは顔を見合わせて笑った。そして次の瞬間、笑顔が消えた。

「今呼んだのはキミ達か?」

 ドアを開けて出て来たのは、リザードマンタイプの魔族だった。
 緑色の肌にトカゲのような頭。皮の軽鎧を着こんでいるが、硬そうな鱗に覆われた皮膚はそんなものが無くても生半可な攻撃ではビクともしないだろう。
 シオンさん達と違い、完全に僕らとは見た目が違う魔族。ドアを開けて出て来た彼(彼女?)が僕らを見て何を思ったのか、表情の変化が分からないから伺い知ることが出来ない。
 
「ほほう。こやつらが今度の生贄か。クックックック」

 生贄!?
 奥からもう一人、同じリザードマンタイプの魔族が姿を現した。
 先ほどのリザードマンと違い、こちらはいかにも高級そうな漆黒のマントをなびかせている。彼らのボスだろうか?
 僕らを値踏みするような目で見ては、舌先をチョロチョロだしている。
 ジャイルズ先生から聞かされた歴史を考えれば、彼ら(彼女?)は人族を恨んでいてもおかしくない。だから襲い掛かられたなら応戦せざる得ない。
 だけどまずは話合いだ。争いを避けられるならそれに越したことはない。一度振り返り、彼女達が武器に手をかけようとしているのを見て、僕は右手の掌を出して「待った」をかける。
 そして向き直した僕の目に映っていたのは、漆黒のマントをなびかせていたリザードマンが後から来た仲間のリザードマン達から殴られている光景だった。

「すみません、魔王様ゴッコしてる最中にあなた方が来たので。人族を見るのは本当に久しぶりでテンションが上がってしまい、仲間がお恥ずかしい所をお見せしました」

 頬をポリポリと掻きながら「ははっ、本当にすみませんね」と笑うしぐさと表情は、僕らとまるで変わらない。人族を見るのは久しぶりと言っていたから、さっきのドアに居たリザードマンはどう対応すればいいか分からず、困って表情が固まっていたのだろう。

「えっと。道に迷ってしまったので、ここがどこか教えていただきたいのですが」

「あぁ、そうだったのですか。それなら立ち話もなんですから中へどうぞどうぞ」

 案内されるがままに僕らは建物の中に入っていった。
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