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第5章「エルフの里」
第6話「どつきあい」
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「あの、ここに来た目的は何ですか?」
「魔王様ごっこだ。今日は人族も居るんだな」
魔王様ごっこって、何を言っているんだ?
実はピーピさん達と仲良しなのだろうか?
いや、そんなはずはない。プルリさんは本気で怯えているようだし、ピーピさん達も警戒している。明らかなごっこ遊びには見えない。
「魔王様ごっこですか?」
「あぁ、いつも私が来るとそいつらは一緒にやってくれるぞ」
エルフの大男の言葉に、ピーピさん達は文字通り目を丸くしてポカーンとした顔をしている。
彼らがあっけに取られているのを見て、不思議そうに首を傾げるエルフ。
「いつも私が来ると『魔王の威光を示すために!』とか『ここが我ら最後の砦。命など無いものと思え』と叫んでるが。もしかして違ったのか?」
あー、うん。そういう事ね。
その場に居た全員の視線がペペさんに向けられる。皆からの視線を受けて「あー、その。なんだ。うん、あれだな」なんて言いながら愛想笑いを浮かべている。
その仕草もあの人そっくりだな。
「そうだよ。魔王様ごっこだよ」
エルフの言葉に、叫ぶように答えたのはピーピさんだった。
「我らの友であるエルフが来た時に、一緒に楽しめるように魔王様ごっこをしていたんだ。皆もそうだよね?」
そう言って首を縦に振りながら「ね?」と何度も言いながら一人づつ声をかけ、無理矢理同調させるように同意をさせている。
ピーピさんまでペペさんみたいなテンションになっているのは、もしかして精神的に耐えきれなくなってしまったのだろうか?
「いやー、魔王様ごっこやってると僕らいつも熱が入っちゃうから。そう言えばエルフさんはケガとかしたりはなかったですか?」
しどろもどろになって焦ってる感じがするけど。
そうか。もしエルフ相手に本気でコトを構えていたとしたら種族間の問題に発展しかねない。だから相手が魔王様ごっこと思ってるのを幸いに、魔王様ごっこと言い張っているのか。
ただピーピさんは嘘をつけない性格なのか、さっきから必死過ぎて傍目からは「やましい事がありますよ」と言ってるようにしか見えない。
幸運な事に、このエルフはそういう事は気にしない性格なのだろう。相変わらず笑みを浮かべたまま適当に頷いている。
「今日は人族がおしゃべりしに来ているんだ。魔王様ごっこは後にして一緒に中でおしゃべりしていきません?」
おかしなテンションになったピーピさんを見て、ペペさんが口を押えて「プププ」と笑っているけど、元はと言えばキミの責任だよ?
ペペさんのおかげで事態は丸くなったわけだけど。
「私も中に入って良いのか?」
自らを指さし、確認するように聞くエルフ。
「勿論ですよ。友達を家に呼ぶのは普通でしょ?」
ピーピさんは何か言うたびに大袈裟に体を動かして演劇か何かをやっているようだ。いい加減ペペさんとかに変わって貰えばいいのに。
「そうか。それなら遠慮なく行きたい所だけど」
エルフはチラっと僕らの方を見てから腕を組み仁王立ちをしている。
何かを考えているのか首を傾げ。また僕らをチラっと見て視線を戻す。
ここで急に「エルフ族の恨み」とか言って襲い掛かってこないよね?
そして又チラっと見て来た時に目が合い。ニコリと笑顔を向けられ、とりあえず笑顔で返す。
「ひょろがりだな」
「はい?」
エルフが僕の隣まで歩いて来る。
隣に立つとわかるけど、威圧感が凄い。
正直この距離でいきなり彼を見たら、モンスターと間違えそうな程に怖い。
身長差もさることながら、彼の腕は僕の足なんかよりも太い。もはや大人と子供なんてレベルじゃないほどの体格差がある。
「昔はエルフが人族と争って負けたと聞いて、どんな恐ろしい姿をしているかと思っていたけど。ひょろがりなんだな」
そう言って笑いながら僕の肩に手をポンポンと置くが。そんな軽い動作でも結構重く体にのしかかって来る。
「おしゃべりの前に実力を見てみたいから、ちょっとだけ手合わせして欲しい。ダメ?」
そう言って両手をパンと合わせてウインクをしてくるエルフ。
可愛いしぐさのつもりなのだろうけど、その両手を合わせた時に出た風圧だけで僕の髪がバサバサと揺れる。
手合わせか、正直嫌だ。やりたくない。
こんな筋肉の塊みたいなのとやってただで済むわけがないし、やった所でなんのメリットもない。
「もし手合わせに付き合ったら、エルフの里の事教えてくれる?」
気づけば僕の隣にアリアが立っていた。
そういえば僕らは依頼でエルフの里の事を調べに来ていたんだから、手合わせを条件にエルフの里の情報を貰えば良いのか。珍しくアリアが仕事をした。
でもそんな簡単に教えてくれるかな。人族との間には色々あったから流石に難しい気がするぞ。
多分全部はダメだと思うから、どこまで聞けるか交渉だな。
「別に良いぞ」
そんな僕の考えとは裏腹に。物凄く軽い返事が来た。
本当に良いのだろうか? あまり気にしていない様子だけど、一応僕ら人族はエルフを迫害してた種族なのに。
「本当に良いんですか? 僕ら人族ですが」
「人族だと何か問題があるのか?」
「昔、人族がエルフを迫害してた歴史があるので気にしているんじゃないかと思って」
「そんな一週間以上前の事なんてどうでも良い」
一週間以上前って……。
もういいや、彼も気にしてないし僕がうだうだ考えても意味が無いしさっさと手合わせして教えてもらおう。
手合わせする。おしゃべりする。お互い満足。とてもシンプルでわかりやすいな、うん。
「ところで武器はどうします?」
流石に刃物は危ないから、あるなら詰所の中で木刀とかを借りたいところだけど。
「それなら問題ない。武器は私自身だ」
左手で二の腕を掴み、右手を曲げてポーズを決めながら得意げに言うエルフ。予想はしてたけどね。
いくら体格差があるからと言って、丸腰の相手に武器を使うのは気が引ける。
「悪いけど、これ持っててくれるかな?」
そう言ってアリアに僕の腰に下げた剣を二振り渡す。
それを受け取りながらも、小首をかしげ「?」といった様子のアリア。
「僕がやるよ」
「だめ、私がやる」
「相手は素手だから、相手に合わせてこの中で素手の戦いが得意な僕が行くべきだよ」
武器を扱えないだけとも言うけど。
アリアの頭を撫で「だから、僕に行かせて」と言い聞かせる。無表情ながらも納得していませんという顔で「わかった」と返事をしてくれた。
僕なら『混沌』を使えば身体強化である程度のダメージを受けても大丈夫だけど、彼女達の場合はそうもいかない可能性がある。
それにもしケガしたとしても、僕なら元々パーティの戦力外ではあるわけだし。
☆ ☆ ☆
僕の対面には自称エルフの大男が立っている。
お互い一旦離れ数メートル位離れた位置だ。
「ルールはどっちかが気絶するか降参するまでだ。明らかにやりすぎと判断した場合は止めに入るから、止められたらお互いすぐにストップしろよ」
審判は公平を規すために魔族のペペさんがやる事になった。
「それじゃあ準備はいいかぁ?」
僕とエルフは同時に頷く。
「ファイト!」
開始の合図と共に『混沌』を発動させる。
大会後も修行を続けたおかげで、2分位は維持してても解除後に気持ち悪くなる等が無くなってきた。と言っても2分じゃ短時間で決めないといけない事には変わりないんだけど。
「どうした? かかってこないのか?」
開始の合図で動かない僕。同じように腕を組んで仁王立ちをして動かないエルフが、僕に向かって疑問の声を投げかけて来た。ふっふっふ、その言葉を待っていたんだよ!
「あぁ、お前の全力でかかって来い。僕が受け止めてやる」
そう、大会でシオンさんが対戦相手に良く言っていたセリフだ。そして、機会があれば言ってみたかったセリフでもある。
後ろから「プッ」と誰かが噴き出す声が聞こえた。多分サラだろうな。
「その心意気、気に入った」
言い終わると同時にエルフの姿は消え、消えたと同時に物凄い勢いで僕の顔に大きな何かが衝突した。
勢いのままに吹き飛ばされ背中に衝撃が走り、僕の視界は地面を映している。「カハッ」と言う声と肺の中の空気が共に押し出された。
一瞬遅れて背中の痛みが僕を襲い、顔は痺れたように感じる。
何が起きたか判断する前に立ち上がる。『倒れた状態で追撃を貰えば確実に終わる。だから何があっても立ち上がり即座に状況を判断しろ』前に買った月刊マッスルに載っていた戦い方の基本で、倒れたままでは反撃も避ける事も出来なくなる。だからとにかくすぐ立ち上がり状況を判断してすぐに動いて仕切り直せ。と言う内容だ。
僕が立っていた位置にエルフが居る。どうやら僕の顔に衝突した何かは拳のようだ。
僕の顔と同じ位の大きな拳だったため、普通に殴られたのだと気づけなかった。
殴られた側の頬を触ってみると腫れているのがわかる。
「どうする? もう降参しておいた方が良いんじゃないか?」
ダメージが足に来てるし、顔も痛みが出て来た。
条件は手合わせするであって、勝てなんて言ってないからここで降参しても何も問題じゃないな。
よし。
「次は僕の番だ!」
だからと言って、ここで引き下がるつもりは無い。ただの意地だ。
その場でエルフの所まで跳躍し、顔面にパンチをお見舞いする。
エルフは避ける気がありませんと言わんばかりに腕を組んだまま、僕のパンチをモロに食らって吹き飛ぶ。
思った以上に吹き飛んでて大丈夫か心配になったけど杞憂だったようだ。エルフはゆっくりと起き上がり、殴られた頬を擦りながら物凄く満足そうな笑みを浮かべている。
「ひょろがりの癖に、凄いパンチだ」
そして「次は私の番」と言いながら僕を殴り、先ほどと同じように吹き飛ばされる。
追撃は来ない、だから無理にではなくゆっくりと体の負担にならないように起き上がる。今度は僕の番だ。
「それなら力比べはどうだ」
そう言って僕の両手を彼の両手でつかみ、つかみ合いの手四つ状態にされた。力に自信がある人って皆これやりたがるのはなんでだろうか。
『混沌』の効果で、掌は精気を吸い取る状態になってる僕に、精気を吸い取られて弱っていってるのに手を離さない彼を見てそんな疑問がふと頭をよぎっていった。
「私の負けだ」
やっと力尽きたようだ。膝を着いたエルフの降参宣言。
『混沌』を解除し、勝利のガッツポーズをしようとして視界が真っ暗になった。
☆ ☆ ☆
ベッドの上で目が覚めた。
起き上がり辺りを見渡す。2段ベッドが2つあるだけの狭い部屋で、僕は下のベッドで寝かされていた。起きた僕に「よぅ、調子はどうだ?」と軽い口調で挨拶をしてくれる、この口調はペペさんか。どうやらペペさんが僕の看病をしてくれていたようだ。
頬が痛む、擦ってみると腫れてるのがよく分かる。「大丈夫か? 顔ひでぇ事になってるぜ」と言って鏡代わりの鉄板を渡してくれた。
鉄板に写った僕の顔は、腫れあがった頬に大量に「バカ」と書かれていた。これはサラ達の仕業だな。
「あぁ、ちなみにこっちの『バカ』は俺っちが書いた奴だぜ」
お前も一緒に書いたのかよ!
顔の落書きはあとで消すとして、あの後どうなったのか聞いてみるか。
「あぁ、おめぇさんはそのまんま気絶して、丸一日寝てたぜ」
丸一日も寝ちゃってたのか。
ベッドから出て起き上がってみる、思ったより痛みは無い。体を軽く動かしてみたけど普通に動く分には大丈夫そうだ。
「食堂に皆集まってっから、ほら行くぞ」
ペペさんが大声で「エルクが起きたぞ」と言いながら食堂に向かって歩いていくのを、後ろから僕はついていった。
食堂にはアリア、サラ、リン、ピーピさん、パッチさん、ポロさん、プルリさん。そしてエルフの大男がイスに座って食事をとっていた。
「おはようございます」
起きて来た僕にジト目で見てくるアリア達。ピーピさん達は僕から目を逸らしてる、顔の落書きを見ないようにしてくれているようだ。
「あぁ、おはよう。ケガはもう良いのか?」
「ええおかげさまで、えっと……」
名前が分からないので何と言えば良いか分からず言いよどむ。
流石にエルフさんでは失礼にあたると思うし。
「えっと、僕の名前はエルクです」
「あぁ、そう言えば名乗ってなかったね。私はダンディだ」
僕はダンディさんの元へ行き、「よろしく」と握手を交わした。
「ところで、顔に落書きをされているみたいだから、顔を洗ってきた方が良いと思う」
しまった。どうせなら先に布か何か借りて、顔を拭いておくべきだった。
そんなダンディさんの言葉を聞いて、必死に笑いを堪えようとするサラとリン。
「エルクの顔。バカ丸出し」
ツーンとそっぽを向いたのアリアの発言に、彼女達は堪えきれず吹き出した。
「魔王様ごっこだ。今日は人族も居るんだな」
魔王様ごっこって、何を言っているんだ?
実はピーピさん達と仲良しなのだろうか?
いや、そんなはずはない。プルリさんは本気で怯えているようだし、ピーピさん達も警戒している。明らかなごっこ遊びには見えない。
「魔王様ごっこですか?」
「あぁ、いつも私が来るとそいつらは一緒にやってくれるぞ」
エルフの大男の言葉に、ピーピさん達は文字通り目を丸くしてポカーンとした顔をしている。
彼らがあっけに取られているのを見て、不思議そうに首を傾げるエルフ。
「いつも私が来ると『魔王の威光を示すために!』とか『ここが我ら最後の砦。命など無いものと思え』と叫んでるが。もしかして違ったのか?」
あー、うん。そういう事ね。
その場に居た全員の視線がペペさんに向けられる。皆からの視線を受けて「あー、その。なんだ。うん、あれだな」なんて言いながら愛想笑いを浮かべている。
その仕草もあの人そっくりだな。
「そうだよ。魔王様ごっこだよ」
エルフの言葉に、叫ぶように答えたのはピーピさんだった。
「我らの友であるエルフが来た時に、一緒に楽しめるように魔王様ごっこをしていたんだ。皆もそうだよね?」
そう言って首を縦に振りながら「ね?」と何度も言いながら一人づつ声をかけ、無理矢理同調させるように同意をさせている。
ピーピさんまでペペさんみたいなテンションになっているのは、もしかして精神的に耐えきれなくなってしまったのだろうか?
「いやー、魔王様ごっこやってると僕らいつも熱が入っちゃうから。そう言えばエルフさんはケガとかしたりはなかったですか?」
しどろもどろになって焦ってる感じがするけど。
そうか。もしエルフ相手に本気でコトを構えていたとしたら種族間の問題に発展しかねない。だから相手が魔王様ごっこと思ってるのを幸いに、魔王様ごっこと言い張っているのか。
ただピーピさんは嘘をつけない性格なのか、さっきから必死過ぎて傍目からは「やましい事がありますよ」と言ってるようにしか見えない。
幸運な事に、このエルフはそういう事は気にしない性格なのだろう。相変わらず笑みを浮かべたまま適当に頷いている。
「今日は人族がおしゃべりしに来ているんだ。魔王様ごっこは後にして一緒に中でおしゃべりしていきません?」
おかしなテンションになったピーピさんを見て、ペペさんが口を押えて「プププ」と笑っているけど、元はと言えばキミの責任だよ?
ペペさんのおかげで事態は丸くなったわけだけど。
「私も中に入って良いのか?」
自らを指さし、確認するように聞くエルフ。
「勿論ですよ。友達を家に呼ぶのは普通でしょ?」
ピーピさんは何か言うたびに大袈裟に体を動かして演劇か何かをやっているようだ。いい加減ペペさんとかに変わって貰えばいいのに。
「そうか。それなら遠慮なく行きたい所だけど」
エルフはチラっと僕らの方を見てから腕を組み仁王立ちをしている。
何かを考えているのか首を傾げ。また僕らをチラっと見て視線を戻す。
ここで急に「エルフ族の恨み」とか言って襲い掛かってこないよね?
そして又チラっと見て来た時に目が合い。ニコリと笑顔を向けられ、とりあえず笑顔で返す。
「ひょろがりだな」
「はい?」
エルフが僕の隣まで歩いて来る。
隣に立つとわかるけど、威圧感が凄い。
正直この距離でいきなり彼を見たら、モンスターと間違えそうな程に怖い。
身長差もさることながら、彼の腕は僕の足なんかよりも太い。もはや大人と子供なんてレベルじゃないほどの体格差がある。
「昔はエルフが人族と争って負けたと聞いて、どんな恐ろしい姿をしているかと思っていたけど。ひょろがりなんだな」
そう言って笑いながら僕の肩に手をポンポンと置くが。そんな軽い動作でも結構重く体にのしかかって来る。
「おしゃべりの前に実力を見てみたいから、ちょっとだけ手合わせして欲しい。ダメ?」
そう言って両手をパンと合わせてウインクをしてくるエルフ。
可愛いしぐさのつもりなのだろうけど、その両手を合わせた時に出た風圧だけで僕の髪がバサバサと揺れる。
手合わせか、正直嫌だ。やりたくない。
こんな筋肉の塊みたいなのとやってただで済むわけがないし、やった所でなんのメリットもない。
「もし手合わせに付き合ったら、エルフの里の事教えてくれる?」
気づけば僕の隣にアリアが立っていた。
そういえば僕らは依頼でエルフの里の事を調べに来ていたんだから、手合わせを条件にエルフの里の情報を貰えば良いのか。珍しくアリアが仕事をした。
でもそんな簡単に教えてくれるかな。人族との間には色々あったから流石に難しい気がするぞ。
多分全部はダメだと思うから、どこまで聞けるか交渉だな。
「別に良いぞ」
そんな僕の考えとは裏腹に。物凄く軽い返事が来た。
本当に良いのだろうか? あまり気にしていない様子だけど、一応僕ら人族はエルフを迫害してた種族なのに。
「本当に良いんですか? 僕ら人族ですが」
「人族だと何か問題があるのか?」
「昔、人族がエルフを迫害してた歴史があるので気にしているんじゃないかと思って」
「そんな一週間以上前の事なんてどうでも良い」
一週間以上前って……。
もういいや、彼も気にしてないし僕がうだうだ考えても意味が無いしさっさと手合わせして教えてもらおう。
手合わせする。おしゃべりする。お互い満足。とてもシンプルでわかりやすいな、うん。
「ところで武器はどうします?」
流石に刃物は危ないから、あるなら詰所の中で木刀とかを借りたいところだけど。
「それなら問題ない。武器は私自身だ」
左手で二の腕を掴み、右手を曲げてポーズを決めながら得意げに言うエルフ。予想はしてたけどね。
いくら体格差があるからと言って、丸腰の相手に武器を使うのは気が引ける。
「悪いけど、これ持っててくれるかな?」
そう言ってアリアに僕の腰に下げた剣を二振り渡す。
それを受け取りながらも、小首をかしげ「?」といった様子のアリア。
「僕がやるよ」
「だめ、私がやる」
「相手は素手だから、相手に合わせてこの中で素手の戦いが得意な僕が行くべきだよ」
武器を扱えないだけとも言うけど。
アリアの頭を撫で「だから、僕に行かせて」と言い聞かせる。無表情ながらも納得していませんという顔で「わかった」と返事をしてくれた。
僕なら『混沌』を使えば身体強化である程度のダメージを受けても大丈夫だけど、彼女達の場合はそうもいかない可能性がある。
それにもしケガしたとしても、僕なら元々パーティの戦力外ではあるわけだし。
☆ ☆ ☆
僕の対面には自称エルフの大男が立っている。
お互い一旦離れ数メートル位離れた位置だ。
「ルールはどっちかが気絶するか降参するまでだ。明らかにやりすぎと判断した場合は止めに入るから、止められたらお互いすぐにストップしろよ」
審判は公平を規すために魔族のペペさんがやる事になった。
「それじゃあ準備はいいかぁ?」
僕とエルフは同時に頷く。
「ファイト!」
開始の合図と共に『混沌』を発動させる。
大会後も修行を続けたおかげで、2分位は維持してても解除後に気持ち悪くなる等が無くなってきた。と言っても2分じゃ短時間で決めないといけない事には変わりないんだけど。
「どうした? かかってこないのか?」
開始の合図で動かない僕。同じように腕を組んで仁王立ちをして動かないエルフが、僕に向かって疑問の声を投げかけて来た。ふっふっふ、その言葉を待っていたんだよ!
「あぁ、お前の全力でかかって来い。僕が受け止めてやる」
そう、大会でシオンさんが対戦相手に良く言っていたセリフだ。そして、機会があれば言ってみたかったセリフでもある。
後ろから「プッ」と誰かが噴き出す声が聞こえた。多分サラだろうな。
「その心意気、気に入った」
言い終わると同時にエルフの姿は消え、消えたと同時に物凄い勢いで僕の顔に大きな何かが衝突した。
勢いのままに吹き飛ばされ背中に衝撃が走り、僕の視界は地面を映している。「カハッ」と言う声と肺の中の空気が共に押し出された。
一瞬遅れて背中の痛みが僕を襲い、顔は痺れたように感じる。
何が起きたか判断する前に立ち上がる。『倒れた状態で追撃を貰えば確実に終わる。だから何があっても立ち上がり即座に状況を判断しろ』前に買った月刊マッスルに載っていた戦い方の基本で、倒れたままでは反撃も避ける事も出来なくなる。だからとにかくすぐ立ち上がり状況を判断してすぐに動いて仕切り直せ。と言う内容だ。
僕が立っていた位置にエルフが居る。どうやら僕の顔に衝突した何かは拳のようだ。
僕の顔と同じ位の大きな拳だったため、普通に殴られたのだと気づけなかった。
殴られた側の頬を触ってみると腫れているのがわかる。
「どうする? もう降参しておいた方が良いんじゃないか?」
ダメージが足に来てるし、顔も痛みが出て来た。
条件は手合わせするであって、勝てなんて言ってないからここで降参しても何も問題じゃないな。
よし。
「次は僕の番だ!」
だからと言って、ここで引き下がるつもりは無い。ただの意地だ。
その場でエルフの所まで跳躍し、顔面にパンチをお見舞いする。
エルフは避ける気がありませんと言わんばかりに腕を組んだまま、僕のパンチをモロに食らって吹き飛ぶ。
思った以上に吹き飛んでて大丈夫か心配になったけど杞憂だったようだ。エルフはゆっくりと起き上がり、殴られた頬を擦りながら物凄く満足そうな笑みを浮かべている。
「ひょろがりの癖に、凄いパンチだ」
そして「次は私の番」と言いながら僕を殴り、先ほどと同じように吹き飛ばされる。
追撃は来ない、だから無理にではなくゆっくりと体の負担にならないように起き上がる。今度は僕の番だ。
「それなら力比べはどうだ」
そう言って僕の両手を彼の両手でつかみ、つかみ合いの手四つ状態にされた。力に自信がある人って皆これやりたがるのはなんでだろうか。
『混沌』の効果で、掌は精気を吸い取る状態になってる僕に、精気を吸い取られて弱っていってるのに手を離さない彼を見てそんな疑問がふと頭をよぎっていった。
「私の負けだ」
やっと力尽きたようだ。膝を着いたエルフの降参宣言。
『混沌』を解除し、勝利のガッツポーズをしようとして視界が真っ暗になった。
☆ ☆ ☆
ベッドの上で目が覚めた。
起き上がり辺りを見渡す。2段ベッドが2つあるだけの狭い部屋で、僕は下のベッドで寝かされていた。起きた僕に「よぅ、調子はどうだ?」と軽い口調で挨拶をしてくれる、この口調はペペさんか。どうやらペペさんが僕の看病をしてくれていたようだ。
頬が痛む、擦ってみると腫れてるのがよく分かる。「大丈夫か? 顔ひでぇ事になってるぜ」と言って鏡代わりの鉄板を渡してくれた。
鉄板に写った僕の顔は、腫れあがった頬に大量に「バカ」と書かれていた。これはサラ達の仕業だな。
「あぁ、ちなみにこっちの『バカ』は俺っちが書いた奴だぜ」
お前も一緒に書いたのかよ!
顔の落書きはあとで消すとして、あの後どうなったのか聞いてみるか。
「あぁ、おめぇさんはそのまんま気絶して、丸一日寝てたぜ」
丸一日も寝ちゃってたのか。
ベッドから出て起き上がってみる、思ったより痛みは無い。体を軽く動かしてみたけど普通に動く分には大丈夫そうだ。
「食堂に皆集まってっから、ほら行くぞ」
ペペさんが大声で「エルクが起きたぞ」と言いながら食堂に向かって歩いていくのを、後ろから僕はついていった。
食堂にはアリア、サラ、リン、ピーピさん、パッチさん、ポロさん、プルリさん。そしてエルフの大男がイスに座って食事をとっていた。
「おはようございます」
起きて来た僕にジト目で見てくるアリア達。ピーピさん達は僕から目を逸らしてる、顔の落書きを見ないようにしてくれているようだ。
「あぁ、おはよう。ケガはもう良いのか?」
「ええおかげさまで、えっと……」
名前が分からないので何と言えば良いか分からず言いよどむ。
流石にエルフさんでは失礼にあたると思うし。
「えっと、僕の名前はエルクです」
「あぁ、そう言えば名乗ってなかったね。私はダンディだ」
僕はダンディさんの元へ行き、「よろしく」と握手を交わした。
「ところで、顔に落書きをされているみたいだから、顔を洗ってきた方が良いと思う」
しまった。どうせなら先に布か何か借りて、顔を拭いておくべきだった。
そんなダンディさんの言葉を聞いて、必死に笑いを堪えようとするサラとリン。
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