剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

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第6章「宗教都市イリス」

第7話「山の中での戦闘」

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 ブラウンジャッカルが、次々と僕らに襲い掛かってくる。
 最初はその数に不安を感じていたけど、先に来ていたパーティだけでも何とか対処出来る数だったようだ。
 剣士の女性が前に行きブラウンジャッカルの注意を惹き、そこへ魔術師が剣士に当たらないようにアイスボルトやストーンウォール等でサポートをして、魔術師へ向かって来るブラウンジャッカルは勇者の青年が剣で斬り伏せる。
 ここで僕らが無理に連携に加わっても、逆に足を引っ張ったり、同士討ちをしかねないな。

「僕らは反対側のブラウンジャッカルを叩きます。もし危なくなったら教えてください」

「あいよ」

 女性剣士のパーティに背を向け、反対側のブラウンジャッカルの群れに対峙した。
 僕とアリアが前に出て、寄ってくるブラウンジャッカルを斬っていく。
 そして後方を。

「えっ」

 後方から魔法で支援するはずのサラが、僕の隣に立っていた。

「これ借りるわよ」

 そう言って、僕の手から剣を奪うと、ものすごい勢いでブラウンジャッカルを斬り始めた。

「アリア。一緒に行ってサポートしてあげて」

「わかった」

 サラを止めるべきか悩んだけど、サラはサラで鬱憤が溜まっているからストレス解消にこんな行動に出たんだろうな。
 ここで下手に止めたら、ブラウンジャッカルの前にサラに噛まれそうだ。仕方がない、思う存分暴れさせてあげよう。

 後方からは魔法でフレイヤさんが援護をしていた。
 そして、フレイヤさんに襲い掛かろうとするブラウンジャッカルは、リンが相手をしている。
 一旦僕もフレイヤさん達の所まで引く。このまま前に出てサラ達と一緒にブラウンジャッカルと戦っても良いけど、二人の様子を見るに、多分僕が居ても居なくてもたいして変わらないだろう。
 むしろアリアがサラだけでなく、僕まで見ないといけなくなるので負担が増える可能性もある。
 それなら余剰戦力として戻り、どこか手が足りなくなったら、すぐに駆けつける準備をしておいた方がマシだ。
 そう思って戻ってきた僕に、青年が声をかけて来た。 

「やぁ。キミも勇者だろ? なら俺たちにはやる事があるだろ」

「あぁ、『覇王』はやめておいた方が良いですよ? 今やったらサラにまた殴られると思いますし」

「うっ……目の前の敵に集中しようか」

 普段から僕が『覇王』をやると、サラは怒る。
 それが普段ならコミュニケーション程度の怒り方だが、今のサラはストレスが溜まっている状態だからヤバイ。
 出来れば控えておきたい所だ。


 ☆ ☆ ☆


 倒しても倒しても次々と沸いてくる。確かにこれだけの数が居れば、山だけでは食料調達は難しく、人里に下りてきてしまうのだろう。
 ブラウンジャッカルの死体が次々増えていくけど、中々終わりが見えない。
 おかしいな。いくら数が居るとはいえ、これだけの数の仲間が殺されているというのに、ブラウンジャッカルは全く引く気配が見えない。
 道中戦ったブラウンジャッカルは、半分も減らない内に無理だと判断して逃げ出していたというのに。
 この感じは……そうだ。キラーヘッドと戦った時と同じだ。

「もしかしたら、この群れを指揮するリーダーが居るかもしれない。リン。ブラウンジャッカル以外のモンスターの気配ってわかる?」

「うーん。ちょっと集中してみるです」

 ちょっと困ったような顔をして「わかるかどうかわからないけど、一応やってみるです」と言ってリンが目を閉じた。
 お礼を言ってリンの頭を撫でたら手を払われた。集中しているのだから、流石に軽率過ぎたかな。これは失礼。
 集中しているリンと、フレイヤさんを守るため、しばらく二人の前に立ちこちらに来るブラウンジャッカルの相手を僕がした。

「エルク。気配で他のモンスターかはわからないですけど、少し離れたところで動かない個体が居たです」

 他のモンスターかはわからないけど、動かずに様子を見ているというのはおかしいな。
 ブラウンジャッカルは遠くから来ては、次々と襲い掛かってきている。ともリンが言っている。
 動かない個体を叩いてみる価値はありそうだ。

「少し離れた所に怪しい個体が居ますので、僕が行ってそいつを叩いてこようと思います」

 アリア達にも聞こえるように僕は言った。
 
「僕が行くって、何を言ってんだ。アンタ勇者だろ!?」
 
 剣士の女性が驚きの声を上げ、勇者の青年や魔術師の女性は「危険だから辞めた方が良い」と僕を止めようとする。まぁ当然の反応か。

「大丈夫ですわ。エルクさんはとても強いのですから」

「エルク。無理だけはしちゃだめです」

 僕を制止しようとする二人の前に、リンとフレイヤさんが立つ。
 僕の能力については後で説明するとして、今の内に行かせてもらうかな。
 『混沌』を発動させ、リンに教えてもらった方角へ。


 どうやら僕の感は当たっていたようだ。
 そしてリンが動かない個体と言った理由も同時に理解した。こいつは”動けない”個体だ。
 目の前には1mくらいの袋をいくつもぶら下げた、巨大な植物。
 名前は確かヤドリギウツボで、植物だけどモンスターに分類されている。

 小さなトゲがついた種子を飛ばし、飛んだ種子が毛に覆われたモンスターにくっつくと体内に入って、知能の低いモンスターはこの植物に洗脳されてしまう。
 洗脳されたモンスターは、捕まえた獲物をヤドリギウツボの袋の中に入れるようになり、ヤドリギウツボは袋に入った獲物を溶かし、栄養にして成長していく。
 また、洗脳されたモンスターが子を産むと、我が子に種子を付けに来るので、次々と洗脳されしまう。
 ブラウンジャッカルの集団があれだけ被害が出ても引かないのは、多分コイツに洗脳されているからだろう。
 植物だから斬った程度では倒せないから、本来は火の魔法で焼き払うのが鉄板だけど。

「いきなりパックンとやられたりしないよね」

  ちょっとビクつきながら、ヤドリギウツボに触れた。
 『混沌』の効果で掌からは生気を吸ったり、物を腐らせたりする事が出来るので、こういった植物モンスターには特に効果が高いはずだ。
 暴れだしたりしないか不安だったけど、ヤドリギウツボは徐々に茶色に変色していき、ものの数秒で枯れた。
 どうやらヤドリギウツボは本体を倒したことで、寄生されていたモンスターは自我を取り戻したようだ。
 サラ達が居た方角からは、ドドドと何かが走り去っていく音が聞こえる。

「向こうにヤドリギウツボが居たから倒してきたよ。多分あいつがブラウンジャッカルを操っていたんだと思う」

 僕が戻った頃には、ブラウンジャッカルは全て逃げ出したようで戦闘は終わっていた。

「えっと。色々話したい事はお互いあると思うけど、まずは死体の処理をしましょうか?」

 このまま死体を放置すれば、すぐにハイエナカラス等が集まってくるだろう。
 そうでなくても、疫病等の原因にもなる。

「サラとフレイヤさん。血の匂いがこれ以上周りに漏れないように、ウィンドウォールで空気の流れを調整できますか?」

「わかったわ」

「わかりましたわ」

 二人が頷き、ウィンドウォールで血の匂いが出ないようにしてくれた。
 その分、血の匂いが濃くなって気持ち悪い。さっさと終わらせよう。

「僕たちは死体を一カ所に集めるので、そちらの魔術師さんに火葬をお願いしたいのですが」

「うん。俺もその意見に賛成だ。ゾフィ、死体を集めるのを俺達も手伝おう。ケリィは集めた死体を次々に焼いてくれ」

「あぁ。わかった」

「は、はい」

 ゾフィと呼ばれた剣士の女性、ケリィと呼ばれた魔術師の女性も賛成のようだ。

「そうだ。自己紹介がまだだったな。俺の名前はスキール、パーティのリーダーをやっている。職は勇者だ。宜しくな」

 そう言って、スキールさんが手を差し出した。
 彼がパーティのリーダーだったのか。
 勇者がパーティのリーダー? と思ったけど、僕も人の事を言えないか。
 
「僕はエルク。同じく勇者でパーティのリーダーをしています」

 スキールさんの手を取り、握手をした。
  
「キミもパーティのリーダーをやっているのか。俺が言うのもなんだが、勇者がリーダーなんて珍しいな。俺以外で勇者がリーダーのパーティは初めて見たよ」

「ええ。僕も勇者がリーダーのパーティは、僕達以外で見るのは初めてですね」
 
 軽くお互いの自己紹介をした後、モンスターの死体を一カ所に集めて全て焼き払った。
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