剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

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第6章「宗教都市イリス」

第8話「動機」

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 枯れたヤドリギウツボを見上げながら、ゾフィさんは苦笑いを浮かべる。
 スキールさんとケリィさんはその隣でポカーンと口を開けて、ゾフィさんと同じようにヤドリギウツボを見ている。

「おいおい。これは一体どうやったんだい?」

 僕の方を見ずに、相変わらず苦笑いを浮かべたゾフィさんが言った。

「えっと。ごめんなさい。どうやったかは説明することができません」

「あー。企業秘密って奴か」

「えっと。はい。そうなります」

 イルナちゃんに教え広めないように言われてるから、おいそれと教えるわけにはいかない。

「そうか。なら良い。それより、討伐証明として持って帰れる部位がないか探すよ」

 どうやって言いくるめようか考えていたのだが、ゾフィさんはすんなりと詮索するのを諦めてくれた。

「どうしたんだい? 変な顔して」

「いえ。あれこれ聞かれるかと思っていたので」

「あぁ。いわゆる『ワケあり』な連中も、冒険者には少なくないからね。無理に詮索しないってのは、冒険者の中で暗黙の了解になっているんだ。ギルド側もそういった連中を見て見ぬ振りをするために、素性はあえて聞かないようにしているしね」

 どんな経歴を持った人物であろうと、依頼をこなして問題を起こさなければギルドは何も干渉しない。どうやらそういうものらしい。
 彼女達は冒険者をやって長いらしく、ヤドリギウツボの討伐証明部位を探す間に、冒険者間で暗黙のルールになっていることを色々と教えてくれた。

「あったあった。コイツがヤドリギウツボの雄しべ。いわゆるチ●コだね」

 言い方!
 何がおかしいのかゲラゲラ笑いながら、僕の腕の長さ位はあるだろう雄しべをブラブラさせている。先程まで色々教えてくれて、好印象だった彼女に対する考えを改めさせられた。
 顔を真っ赤にして「すみません」と連呼しながら、ゾフィさんをやめさせようとするケリィさんだが、軽くいなされている。多分このパーティで一番苦労している人なんだろうな。 
 
「そんな事よりも、そろそろ良いかしら?」

 サラは不機嫌ですと言わんばかりに、腕を組み、いつものチンピラのような表情をしながら低い声で言った。
 いつ不満が爆発するか不安だったが、律儀にも依頼が終わるまで待っていてくれた。
 
「あぁ。そうだった。アタシ達が先に出発した理由だったね」
 
「それについては、俺が説明しよう」

 ゾフィさんに代わり、スキールさんが出てきた。

「俺達が先に出た理由は、正義のためだ」

 得意気に語るスキールさんを見て、サラの中で、ブチンと何かが切れる音がしたのが聞こえた気がした。

「あぁん?」

 サラが動くよりも早く、僕はサラを後ろから羽交い締めにして止める。

「何よ。エルク離しなさい! アンタあのバカの肩を持つつもりなの!?」

「違うよ! 落ち着いて! 最後まで話を聞いてからにしよ? ね?」

 必死に宥めようとするも、サラは聞き入れてくれない。
 こうなったら、流石に僕だけじゃ抑えきれない。

「二人とも、落ち着くです」

 僕らの服をクイっと引き、リンが言った。
 サラもリンの言葉は素直に聞いてくれる、少しだけ大人しくなってくれた。

「エルク。もう手遅れです」

 リンが指差す。そこには既に殴り倒されたスキールさんが。
 アリアか、僕らに向かって親指を立てている。いつも通り無表情だけど、どこか自慢気に見える。

「アリア。アンタやるじゃない」

 嬉しそうな声を上げ、サラはアリアに親指を立てて返している。
 僕はため息をつき、サラを解放した。


 ☆ ☆ ☆


「すみません。大丈夫ですか」

「イテテテ。あぁ、大丈夫。慣れてるからね」

 僕は手を差し出し、スキールさんを起こした。

「慣れているって、いつもこんな事をしているんですか?」

「いや、いつもというわけではないけど。まぁ良くあるかな」

 良くあるのに懲りないのか。流石にそれはどうかと思う。

「でも大抵は怒ってそのまま帰っていくんだけど、残ったのはキミ達が初めてかな」

「ええ。理由が気になるので」

「理由? だから正義のために」

 ちょっとイラっとしたが、ここは我慢だ。

「なぜ早く出発する事が正義のためになるのですか?」

「緊急性が高い依頼だからさ。急を要する依頼なのに、わざわざ待っていたら被害が大きくなる一方だろ?」

「ですが、それで他の冒険者を待たずに出発したら、今度はスキールさん達が危険な目に会う可能性だってありますよ?」

 先走った結果、仲間がケガをしたり死ぬ危険性だってある。
 それくらい、わからないでもないはずなのに。
 そんな僕の言葉に対して、スキールさんは首を横に降る。

「エルク。確かにキミが言いたいことはよくわかる」

「じゃあ。どうして」

「武器を持った俺達が危険な目に合うということは、戦うすべをを持たない村人達は、もっと危険に晒されてるんだ」 

 返す言葉がなかった。
 彼が言っていることは、ただの綺麗事で、理想論で、純粋すぎるが故に幼稚とも取られる正義感だ。
 そして、それは僕の抱いている理想でもある。だから何も言い返せなかった。
 
「……笑わないのか?」

「笑いませんよ」

 もし僕が彼を笑ったら、それは僕の中の何かが壊れてしまうだろう。

「キミは、お人好しだな」

  そう言ったスキールさんの声は、心なしか嬉しそうだ。

「とまぁ、偉そうな事を言ってはみたけど、俺自身は対して実力も無い勇者だから、ゾフィとケリィに頼ってばかりなんだがな」

 そう言って、スキールさんは後頭部をさすりながら、苦笑気味に笑った。
 その姿に、少し前の僕がダブって見えた。

「あのさ。サラちょっと相談があるんだけど、良いかな?」

「良いわよ」

 彼の手伝いがしたい。それが僕の今の考えだ。
 だけど僕一人ならともかく、パーティだから勝手に決める事は出来ない。
 出来ればサラ達に納得してもらいたい。
 相談があると言っておきながら、なんと切り出すべきか、言葉に詰まった。

「だから、良いわよ」

 ん?

「どうせアンタの事だから『彼等の手助けがしたいです』とか言いたいんでしょ」

「あ、はい」

 ズバリそうです。

「アインに行くまでの間で、ちゃんと報酬が出る依頼でやる分には私は構わないわ。もちろん何も言わずに、また勝手に行ったりしたら殴るけど」

 サラは「リンもそれなら良いわよね?」と言って、リンからも了承を得てくれた。

「アリアやフレイヤも、アンタの意見なら従うでしょ」

「あっ、うん。ありがとう。でも僕が言いたい事、良くわかったね」

 わかった事よりも、理解を示し賛成してくれたことの方が驚きだけど、その事は口に出さない方が良いだろうな。それを口にしたら、きっと不機嫌になりそうだし。

「短い付き合いってわけじゃないんだし、アンタの言いそうな事くらいわかるわよ」  

 そう言うとため息をついて、両手を上げやれやれといった感じに首を振っている。

「という感じでまとまったので、同じような依頼があった場合、僕らも手伝いたいと思うのですが、どうでしょうか?」

 振り返ってスキールさんを見る。
 僕らの様子を見ていたスキールさんは、少しだけ驚いた表情をしていた

「本当かい!? 助かるよ! 是非お願いしたい」

 お互いうなづき、握手を交わした。


 ☆ ☆ ☆


「一緒に行かなくて良いんですか?」

 村の外まで出た僕らは、馬にまたがっていた。
 行きの時と同様に僕はサラの、フレイヤさんはアリアの後ろに乗せてもらいながら。

「あぁ、僕らは歩きだし、村の人たちの誤解を解いてから行こうと思う」

 誤解、あぁ僕らが遅刻したと思われている事か。
 討伐が終わった後の、村人の塩対応はちょっと厳しいものがあったな。
 それを見かねたスキールさん達が色々と説明をしてくれたんだけど、どうにも納得した様子ではなかったし。

「村の方で誤解が解けたら急いで街に戻るよ。困ってる人はまだまだ沢山いるはずだからな」

 そう言って手を振るスキールさん達と別れ、僕らは街に戻った。
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