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第7章「旅の終わり」
第27話「空気←よめない」
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朝起きたら、フレイヤが一緒に寝ていた。
思わず驚きの声を上げたが、フレイヤが起きる気配はない。なおも幸せそうな顔で、スースーと寝息を立てている。
はて、部屋はカギを掛けていたはずだけど。
ドアを見る。カギは掛かっていない。
壊した様子はないから、アリアが壊して一緒に寝ようと侵入したわけではないようだ。
そもそも、そうだったらアリアもここに居るはずだ。
じゃあリンか?
でもリンがそんな事をするわけがないし、する必要がないし。
仕方がない。可哀そうだけど起こすか。
こんな所をサラに見られでもしたら、何を言われるか分からないし。
「フレイヤ。起きて」
ゆさゆさと体を揺らし、フレイヤを起こす。
フレイヤは小さなうめき声を上げながら、しばらくして体を起こした。
「あっ。エルク君おはよう」
「おはよう」
目をこすりながら、まだ眠そうにしている。
というか、そのまま二度寝しようとしたので、体を揺らして阻止した。
「なんで僕の部屋に居るの?」
「夜に目が覚めたら、エルク君の部屋が開いてたから」
「鍵はかけたはずだけど」
「開いてたよ?」
きょとんと小首をかしげるフレイヤ。
多分、嘘は言っていないのだろうな。こんな風に嘘をつく子じゃないし。
となると、僕がカギを掛け忘れていたのか。ちゃんと締めたと思ったのだけど。
事件が終わった事で、少し気が緩んでいたのかもしれないな。
「開いてても、勝手に入ってきて一緒に寝ちゃダメだよ」
「えー」
「聞き分けの悪い子は嫌いだよ」
「ぶー。分かった」
フレイヤは分かったと言いつつも、やや不満そうな顔だ。
「わかったら宜しい」
そう言って、よしよしと頭を撫でたら「えへへ」と言って即座に機嫌が治った。
さて、問題はフレイヤをどうやって部屋に戻すか。
下手に僕の部屋から出てくるのを見られたら、問題になるだろう。
サラには文句を言われ、アリアには自分も一緒に寝るとごねられ、リンには冷めた目で見られるのが分かり切っている。
父さんにだって、寝る時に女の子を連れ込んでると思われるかもしれない。
チャラーさん辺りが知ったら絶対にからかって来るだろうしな。
さてどうしようか。
そう考えている矢先に、ノックの音が響いた。
「エルク。起きてる?」
サラの声だ。
慌ててフレイヤの口をふさぐ。
「フレイヤ。悪いけど絶対に動かないで。声も出しちゃダメだよ」
フレイヤを横にして、一緒に頭からシーツを被る。
ヤバイ絵面だ。今の状況を見られたら、僕がフレイヤを襲っているようにしか見えない。
鍵は掛かっていないから、そのままドアノブを回されたら即終了だ。
幸いにして、サラが入って来る様子はない。
シーツの中で、フレイヤがうんうんと頷くのを見てから僕は手を離した。
「どうぞ」
シーツから上半身を出して、体を起こした。
サラが部屋に入ってくる。
「何か声が聞こえた気がするけど?」
「気のせいじゃないかな?」
どっと嫌な汗が噴き出した。
「それで、朝からどうしたの?」
変に言及される前に、話題を変える。
「リンとどうしたら仲直り出来るかなって」
「な……」
なんでそれを僕に?
そう口から出そうになった言葉を飲み込む。
そう言えば昨日「僕がサラに教えてあげるよ。どうすれば良いか」なんて言ったっけ。
まだ素直に従うつもりのようだ。
「それなら、早いうちにちゃんと謝っておいた方が良いかもね」
「そう。分かったわ」
随分と物分かりが良いようだ。
昨日ティラさんとの仲直りが上手く行ったからだろうか。
このままサラが素直に謝れば、リンも許してくれるだろう。
サラが謝って、リンが許す。
問題はそれで解決だろうけど、何かが引っかかる。
……いや、ここで無駄に僕が出しゃばっても仕方がない。
リンがどうしたいのか分からないのに、下手に口を出すのは良くない。
「……」
サラが無言で僕を見て来る。多分、サラも同じような事を考えてるに違いない。
本当にそれで良いのか、と。
だけど今の僕にはそれ以上何も言えない。
何より、このままサラが居続ければいずれフレイヤが居る事がバレる!
それはヤバい!
「あの、サラ」
「なに?」
「そろそろ着替えようと思うんだけど」
「……そう?」
だからなんだと言いたげだ。
「僕の着替え、見たいの?」
「はぁ!? バッカじゃない!!」
顔を真っ赤にしながらそう叫ぶと、サラはドアをバタンと勢いよく締めて出て行った。
実に申し訳ないが、この状況を見られたら話がこじれるので仕方がない。そう、仕方がないんだ。
「フレイヤも、部屋に戻って」
「……」
シーツを剥がすと、フレイヤは自分の口に手を当てて、じっと僕を見ている。
あぁ、そうか。僕が声も出しちゃダメって言ったんだっけ。
「もう喋って良いよ」
「うん。エルク君の着替えが見たい」
「……部屋に帰ってね」
じゃあ一緒に着替えようと提案されたが、即却下。
興味が無いわけじゃないけど、ただでさえ厄介な状況がもう言い訳不可能になる。
……ヘタレな言い訳なんだけどさ。
ドアから外を覗き、誰も居ないのを確認してから、フレイヤを自分の部屋に戻らせた。
着替えが終わると、部屋に使用人が来た。
軽いノックの後に、ドアを開け丁寧なお辞儀しながら部屋に入ってくる。
「すみません。朝食の前に、ティラ様のお部屋へお越しになるようお願いします」
「分かりました」
「……ご用件は伺わなくても宜しかったのでしょうか?」
「サラの事、ですよね?」
「はい」
「なら大丈夫です」
「かしこまりました。それではついてきてください」
一礼をして、使用人は部屋を出ていった。
使用人の後について、僕も部屋を出る。
☆ ☆ ☆
使用人がノックをすると、中から返事が返って来た。
使用人がドアを開けて、さぁどうぞと促されるまま僕はティラさんの部屋に入った。
部屋には僕、アリア、リン、フレイヤ、ダンディさん。それに父さん達とティラさんが居る。
少ししてから、サラがやって来た。普段とは違う、真っ赤なドレスを身にまとって。
強張った表情でカツカツとやや早歩きで僕らの前を過ぎ、父さん達の前で止まった。
「此度は、私サラ=レイアの軽率な行動により、多大な迷惑をかけ申し訳ありませんでした」
サラはそう言って頭を下げた。
驚いた。まるでサラが令嬢のようだ。……冷静に考えたらサラは令嬢か。
普段の言動との差にアリアも驚いた感じだ。父さん達もサラの態度に身じろいでいる。
「はっはっは。この程度どーってこたぁねぇよ。あっ、痛ぇ」
チャラーさんだけが空気も読まず、笑っていつも通りの反応だ。
そして、ダールさんに頭をゴツンと殴られている。
その反応に、つい笑ってしまったのは誰だろうか?
あまりにも緊張した空気だったせいで、誰もが吊られて笑ってしまう。
少しだけ、場の空気が和んだ気がする。
「貴方がたの助けが無ければ、取り返しのつかぬ過ちを犯す所でした。深く心から感謝の意を申し上げます」
そう言って、もう一度深く頭を下げる。
「感謝の言葉、痛み入ります」
父さんがそう言って頭を下げると、ダールさんとチャラーさんも同じように頭を下げた。
サラが軽くスカートの裾を掴み頭をもう一度下げると、今度は僕らの方へやって来た。
「エルク。貴方達には旅の間、大変お世話になりました。感謝の意を申し上げます」
そう言って頭を下げるサラに対し、どうすれば良いか分からず、とりあえず頭を下げ返した。
見るとアリア達もあたふたしながら頭を下げている。ダンディさんは腕を組んで笑っているが、この際無視だ。
「そして、リン」
「は、はいです」
「これまで私の警護、大義でございました」
「えっ……あっ……リンは」
「先日は、至らぬばかりに手を上げてしまい。誠に申し話ありませんでした」
頭を下げるサラに対し、リンは口をパクパクさせて何かを言おうとして上手く言葉に出来ないでいる。
なんというか、ちょっとやり過ぎじゃないかと思う。
サラはサラなりに筋を通しているつもりなんだろうけど、リンが完全に委縮してしまっている。
「リンッ!」
「は、はいです!」
少し強めに名前を呼ばれ、リンがピンと背筋を伸ばして返事をした。
「これまでの功績を称え、貴女には暇を与えます」
「えっ」
リンだけじゃなく、僕の口からも驚きの言葉が漏れた。
それはつまり、リンは解雇って事?
「リン。お父様と話し合った結果、報酬として貴女に自由を与えます。ですので、私の警護は今後必要ありません」
リンの表情が段々と曇っていく。
サラはそんなリンの手を取り、目線を合わせるようにしゃがみ込み優しく微笑みかける。
「リン。もし宜しければ、私と友達になってくださいませんか?」
サラが何をしたいのか、やっと理解できた。
使用人と主ではなく、一個人として友達になって欲しいとお願いしに来たのだ。
「リンは、サラとちゃんとした友達になりたいです」
「ありがとう」
全く。こんな格好までして、回りくどいったらありゃしない。
素直に謝ったと言えるのかな、これは。
「わ、私もサラちゃんの友達だよ」
空気の読めない子が2人の中に割って入る。
そんなフレイヤに対し、サラは笑顔を崩すことなく「ありがとう」と返している。
アリアが「私も」と入ると、4人を抱きかかえるように「私もだな」とダンディさんが入って来た。
そんな彼女達を温かく見守っていたのだが、直後に爆弾発言が投下される。
「エルク。その、です」
「ん? どうしたの? 勿論、僕も友達だよ」
「そうだけど、そうじゃないです」
リンが何かもじもじして、少し顔を赤らめて見える。
チラチラとアリアを気にしている様子だ。
「どうしたの?」
「ちょ、ちょっと待つです」
「うん?」
リンが一度大きく深呼吸をしてから、僕の前に立った。
「リンは、エルクの事が好きです」
「えっ、あぁうん。僕もリンは大事な仲間だから大好きだよ」
そう言って頭を撫でようとして、手を跳ね除けられた。
「違うです。そうじゃなくて、リンはエルクの事が好きです」
もはや湯気が出そうな程に顔を真っ赤にしたリンが、両手で握り拳を作りながらはっきりとそう言った。
これって、つまり、愛の告白って奴かな?
「今回の旅で分かったです。ちゃんと言葉にして想いを伝えないといけないって事が。だからリンはエルクに好きだと伝えたです」
「はいはーい。私もエルク君の事が好きです!」
あぁもう。この子は本当に空気読まなさすぎでしょ。
リンが「急に横から何言ってんだコイツ?」って顔してるし、ダンディさんは笑顔が固まってるし。
「アンタ……はぁ……エルクはおモテになって宜しい事で」
フレイヤの行動には、サラも色々通り越して怒る気力すらないようだ。
サラがニヤニヤしながら「どうするの?」と言いたげだ。
「えー、サラちゃんだって、エルク君の事好きって言ってたじゃん?」
「は、はぁ!? そんな事言ってないし!」
「だって昨日夜、エルク君の部屋に入って、寝てるエルク君にチューしながら『なんでこんな奴好きになっちゃったんだろ』って言ってたじゃん」
「う、うそよッ! そんな事するわけないでしょ!」
「えー、だって私そこに居たよ? ちゃんとサラちゃんが入って行って、チューするところ見てたよ?」
「うわああああああああああああああああッ!!!」
そっかそっか、部屋の鍵は閉め忘れたんじゃなくて、サラがマスターキーか何かを持ち出して開けたからか。
いやぁ、僕の不用心じゃなくて良かった良かった。
「エルク君」
後ろから肩に手を置かれた。
振り返ると、ダールさんに肩を借りたティラさんが居た。
ものすごく気まずい。
「は、はい」
「私の事はお義父さんと呼びたまえ」
なおもサラは発狂し続け、父さんは涙ぐみながら穏やかな表情で僕を見ている。
あーもう、めちゃくちゃだよ。
使用人が朝食が出来たことを知らせに来るまで、この騒ぎは続いた。
その日の朝食は、皆ギクシャクしていた。
思わず驚きの声を上げたが、フレイヤが起きる気配はない。なおも幸せそうな顔で、スースーと寝息を立てている。
はて、部屋はカギを掛けていたはずだけど。
ドアを見る。カギは掛かっていない。
壊した様子はないから、アリアが壊して一緒に寝ようと侵入したわけではないようだ。
そもそも、そうだったらアリアもここに居るはずだ。
じゃあリンか?
でもリンがそんな事をするわけがないし、する必要がないし。
仕方がない。可哀そうだけど起こすか。
こんな所をサラに見られでもしたら、何を言われるか分からないし。
「フレイヤ。起きて」
ゆさゆさと体を揺らし、フレイヤを起こす。
フレイヤは小さなうめき声を上げながら、しばらくして体を起こした。
「あっ。エルク君おはよう」
「おはよう」
目をこすりながら、まだ眠そうにしている。
というか、そのまま二度寝しようとしたので、体を揺らして阻止した。
「なんで僕の部屋に居るの?」
「夜に目が覚めたら、エルク君の部屋が開いてたから」
「鍵はかけたはずだけど」
「開いてたよ?」
きょとんと小首をかしげるフレイヤ。
多分、嘘は言っていないのだろうな。こんな風に嘘をつく子じゃないし。
となると、僕がカギを掛け忘れていたのか。ちゃんと締めたと思ったのだけど。
事件が終わった事で、少し気が緩んでいたのかもしれないな。
「開いてても、勝手に入ってきて一緒に寝ちゃダメだよ」
「えー」
「聞き分けの悪い子は嫌いだよ」
「ぶー。分かった」
フレイヤは分かったと言いつつも、やや不満そうな顔だ。
「わかったら宜しい」
そう言って、よしよしと頭を撫でたら「えへへ」と言って即座に機嫌が治った。
さて、問題はフレイヤをどうやって部屋に戻すか。
下手に僕の部屋から出てくるのを見られたら、問題になるだろう。
サラには文句を言われ、アリアには自分も一緒に寝るとごねられ、リンには冷めた目で見られるのが分かり切っている。
父さんにだって、寝る時に女の子を連れ込んでると思われるかもしれない。
チャラーさん辺りが知ったら絶対にからかって来るだろうしな。
さてどうしようか。
そう考えている矢先に、ノックの音が響いた。
「エルク。起きてる?」
サラの声だ。
慌ててフレイヤの口をふさぐ。
「フレイヤ。悪いけど絶対に動かないで。声も出しちゃダメだよ」
フレイヤを横にして、一緒に頭からシーツを被る。
ヤバイ絵面だ。今の状況を見られたら、僕がフレイヤを襲っているようにしか見えない。
鍵は掛かっていないから、そのままドアノブを回されたら即終了だ。
幸いにして、サラが入って来る様子はない。
シーツの中で、フレイヤがうんうんと頷くのを見てから僕は手を離した。
「どうぞ」
シーツから上半身を出して、体を起こした。
サラが部屋に入ってくる。
「何か声が聞こえた気がするけど?」
「気のせいじゃないかな?」
どっと嫌な汗が噴き出した。
「それで、朝からどうしたの?」
変に言及される前に、話題を変える。
「リンとどうしたら仲直り出来るかなって」
「な……」
なんでそれを僕に?
そう口から出そうになった言葉を飲み込む。
そう言えば昨日「僕がサラに教えてあげるよ。どうすれば良いか」なんて言ったっけ。
まだ素直に従うつもりのようだ。
「それなら、早いうちにちゃんと謝っておいた方が良いかもね」
「そう。分かったわ」
随分と物分かりが良いようだ。
昨日ティラさんとの仲直りが上手く行ったからだろうか。
このままサラが素直に謝れば、リンも許してくれるだろう。
サラが謝って、リンが許す。
問題はそれで解決だろうけど、何かが引っかかる。
……いや、ここで無駄に僕が出しゃばっても仕方がない。
リンがどうしたいのか分からないのに、下手に口を出すのは良くない。
「……」
サラが無言で僕を見て来る。多分、サラも同じような事を考えてるに違いない。
本当にそれで良いのか、と。
だけど今の僕にはそれ以上何も言えない。
何より、このままサラが居続ければいずれフレイヤが居る事がバレる!
それはヤバい!
「あの、サラ」
「なに?」
「そろそろ着替えようと思うんだけど」
「……そう?」
だからなんだと言いたげだ。
「僕の着替え、見たいの?」
「はぁ!? バッカじゃない!!」
顔を真っ赤にしながらそう叫ぶと、サラはドアをバタンと勢いよく締めて出て行った。
実に申し訳ないが、この状況を見られたら話がこじれるので仕方がない。そう、仕方がないんだ。
「フレイヤも、部屋に戻って」
「……」
シーツを剥がすと、フレイヤは自分の口に手を当てて、じっと僕を見ている。
あぁ、そうか。僕が声も出しちゃダメって言ったんだっけ。
「もう喋って良いよ」
「うん。エルク君の着替えが見たい」
「……部屋に帰ってね」
じゃあ一緒に着替えようと提案されたが、即却下。
興味が無いわけじゃないけど、ただでさえ厄介な状況がもう言い訳不可能になる。
……ヘタレな言い訳なんだけどさ。
ドアから外を覗き、誰も居ないのを確認してから、フレイヤを自分の部屋に戻らせた。
着替えが終わると、部屋に使用人が来た。
軽いノックの後に、ドアを開け丁寧なお辞儀しながら部屋に入ってくる。
「すみません。朝食の前に、ティラ様のお部屋へお越しになるようお願いします」
「分かりました」
「……ご用件は伺わなくても宜しかったのでしょうか?」
「サラの事、ですよね?」
「はい」
「なら大丈夫です」
「かしこまりました。それではついてきてください」
一礼をして、使用人は部屋を出ていった。
使用人の後について、僕も部屋を出る。
☆ ☆ ☆
使用人がノックをすると、中から返事が返って来た。
使用人がドアを開けて、さぁどうぞと促されるまま僕はティラさんの部屋に入った。
部屋には僕、アリア、リン、フレイヤ、ダンディさん。それに父さん達とティラさんが居る。
少ししてから、サラがやって来た。普段とは違う、真っ赤なドレスを身にまとって。
強張った表情でカツカツとやや早歩きで僕らの前を過ぎ、父さん達の前で止まった。
「此度は、私サラ=レイアの軽率な行動により、多大な迷惑をかけ申し訳ありませんでした」
サラはそう言って頭を下げた。
驚いた。まるでサラが令嬢のようだ。……冷静に考えたらサラは令嬢か。
普段の言動との差にアリアも驚いた感じだ。父さん達もサラの態度に身じろいでいる。
「はっはっは。この程度どーってこたぁねぇよ。あっ、痛ぇ」
チャラーさんだけが空気も読まず、笑っていつも通りの反応だ。
そして、ダールさんに頭をゴツンと殴られている。
その反応に、つい笑ってしまったのは誰だろうか?
あまりにも緊張した空気だったせいで、誰もが吊られて笑ってしまう。
少しだけ、場の空気が和んだ気がする。
「貴方がたの助けが無ければ、取り返しのつかぬ過ちを犯す所でした。深く心から感謝の意を申し上げます」
そう言って、もう一度深く頭を下げる。
「感謝の言葉、痛み入ります」
父さんがそう言って頭を下げると、ダールさんとチャラーさんも同じように頭を下げた。
サラが軽くスカートの裾を掴み頭をもう一度下げると、今度は僕らの方へやって来た。
「エルク。貴方達には旅の間、大変お世話になりました。感謝の意を申し上げます」
そう言って頭を下げるサラに対し、どうすれば良いか分からず、とりあえず頭を下げ返した。
見るとアリア達もあたふたしながら頭を下げている。ダンディさんは腕を組んで笑っているが、この際無視だ。
「そして、リン」
「は、はいです」
「これまで私の警護、大義でございました」
「えっ……あっ……リンは」
「先日は、至らぬばかりに手を上げてしまい。誠に申し話ありませんでした」
頭を下げるサラに対し、リンは口をパクパクさせて何かを言おうとして上手く言葉に出来ないでいる。
なんというか、ちょっとやり過ぎじゃないかと思う。
サラはサラなりに筋を通しているつもりなんだろうけど、リンが完全に委縮してしまっている。
「リンッ!」
「は、はいです!」
少し強めに名前を呼ばれ、リンがピンと背筋を伸ばして返事をした。
「これまでの功績を称え、貴女には暇を与えます」
「えっ」
リンだけじゃなく、僕の口からも驚きの言葉が漏れた。
それはつまり、リンは解雇って事?
「リン。お父様と話し合った結果、報酬として貴女に自由を与えます。ですので、私の警護は今後必要ありません」
リンの表情が段々と曇っていく。
サラはそんなリンの手を取り、目線を合わせるようにしゃがみ込み優しく微笑みかける。
「リン。もし宜しければ、私と友達になってくださいませんか?」
サラが何をしたいのか、やっと理解できた。
使用人と主ではなく、一個人として友達になって欲しいとお願いしに来たのだ。
「リンは、サラとちゃんとした友達になりたいです」
「ありがとう」
全く。こんな格好までして、回りくどいったらありゃしない。
素直に謝ったと言えるのかな、これは。
「わ、私もサラちゃんの友達だよ」
空気の読めない子が2人の中に割って入る。
そんなフレイヤに対し、サラは笑顔を崩すことなく「ありがとう」と返している。
アリアが「私も」と入ると、4人を抱きかかえるように「私もだな」とダンディさんが入って来た。
そんな彼女達を温かく見守っていたのだが、直後に爆弾発言が投下される。
「エルク。その、です」
「ん? どうしたの? 勿論、僕も友達だよ」
「そうだけど、そうじゃないです」
リンが何かもじもじして、少し顔を赤らめて見える。
チラチラとアリアを気にしている様子だ。
「どうしたの?」
「ちょ、ちょっと待つです」
「うん?」
リンが一度大きく深呼吸をしてから、僕の前に立った。
「リンは、エルクの事が好きです」
「えっ、あぁうん。僕もリンは大事な仲間だから大好きだよ」
そう言って頭を撫でようとして、手を跳ね除けられた。
「違うです。そうじゃなくて、リンはエルクの事が好きです」
もはや湯気が出そうな程に顔を真っ赤にしたリンが、両手で握り拳を作りながらはっきりとそう言った。
これって、つまり、愛の告白って奴かな?
「今回の旅で分かったです。ちゃんと言葉にして想いを伝えないといけないって事が。だからリンはエルクに好きだと伝えたです」
「はいはーい。私もエルク君の事が好きです!」
あぁもう。この子は本当に空気読まなさすぎでしょ。
リンが「急に横から何言ってんだコイツ?」って顔してるし、ダンディさんは笑顔が固まってるし。
「アンタ……はぁ……エルクはおモテになって宜しい事で」
フレイヤの行動には、サラも色々通り越して怒る気力すらないようだ。
サラがニヤニヤしながら「どうするの?」と言いたげだ。
「えー、サラちゃんだって、エルク君の事好きって言ってたじゃん?」
「は、はぁ!? そんな事言ってないし!」
「だって昨日夜、エルク君の部屋に入って、寝てるエルク君にチューしながら『なんでこんな奴好きになっちゃったんだろ』って言ってたじゃん」
「う、うそよッ! そんな事するわけないでしょ!」
「えー、だって私そこに居たよ? ちゃんとサラちゃんが入って行って、チューするところ見てたよ?」
「うわああああああああああああああああッ!!!」
そっかそっか、部屋の鍵は閉め忘れたんじゃなくて、サラがマスターキーか何かを持ち出して開けたからか。
いやぁ、僕の不用心じゃなくて良かった良かった。
「エルク君」
後ろから肩に手を置かれた。
振り返ると、ダールさんに肩を借りたティラさんが居た。
ものすごく気まずい。
「は、はい」
「私の事はお義父さんと呼びたまえ」
なおもサラは発狂し続け、父さんは涙ぐみながら穏やかな表情で僕を見ている。
あーもう、めちゃくちゃだよ。
使用人が朝食が出来たことを知らせに来るまで、この騒ぎは続いた。
その日の朝食は、皆ギクシャクしていた。
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