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第7章「旅の終わり」
第26話「親としての責任」
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-サラ視点-
私は、不幸な人間だと思っていた。
そうね。大体リンの次くらいに不幸な人間だと思っていたわ。
奴隷にされて、女の子なのに体中傷だらけのリンより不幸なんて思い上がるつもりは無い。
たまにリンの口から、生前のご両親の話を聞くことがあったけど、両親の愛を感じさせる話ばかり。
その点においては、リンは幸せだったと思う。心から寄り添える家族が居たのだから。
私には、何一つなかった。だから、かけがえのない家族との思い出があるリンが、少しだけ羨ましかった。
どれだけ勉強を頑張っても、どれだけ魔術を得ても、アイツが私を褒めてくれた事は、ただの一度もなかった。
顔を合わせれば説教ばかり。挙句に婚約相手は身分は良いけど、年齢は遥かに上で見た目が醜い。
その上、悪い噂ばかりで、若い娘を嫁として迎えては次々と死なせているらしい。
いつも厭らしい目で見るソイツと結婚するのが嫌で、家を出た。
アイツを良い人だと勘違いして騙されているリンは置いて行けなかったから、一緒に連れ出した。
生きていくための生活費を稼ぐために、私は冒険者になった。
一緒にパーティを組んだ奴らも中々に不幸揃いだった。
でも、私やリン程じゃない。
エルクは料理以外は何も出来ないようなダメな奴だけど、良いお父さんが居た。
何故か分からないけど、リンやアリアにも懐かれて良い御身分だわ。
アリアは生まれてすぐに捨てられて、親の顔すら知らないと言っていた。
確かに私より不幸な感じはしたけど、拾われた先で愛されて育った。
結局、不幸者パーティの中でも私とリンが一番不幸だった。
だけど、その分気を使わなくて済むから、気が楽だった。
なんなら居心地の良さすら感じた。
だから、今更私を愛してるなんて言わないで欲しい。
リンとの思い出を汚さないで欲しい。
私……本当に何もなくなっちゃったじゃない。
「ごめんなさい」
屋敷に戻った。
エルクがアイツ……お父様達を部屋に呼び出して、謝るように促してきたから言われるままに謝った。
ここで罵倒されたらどれだけ楽だろう。いっそ怒りに任せて殺されてしまいたい。
-エルク視点-
「ごめんなさい」
何一つ口答えせず、サラは僕の言う通りティラさん達に頭を下げて謝った。
表情と言葉から、サラの無気力感が伝わる。反省を感じさせない態度だ。
「サラ……良いんだよ。そもそも悪いのは私だ。私にお前を怒る権利なんてない」
「リンも怒っていないです。サラの気持ちを考えれば怒るのも仕方ないです」
そんなサラに対し、リンとティラさんは腫物を扱うかのようなあたふたした態度だ。
これではどっちが謝っているのか分からない。
確かに僕の言う通りに謝ってはいるけど。
全く。どこまで素直じゃないのやら。
でも、問題はサラだけじゃない。
ティラさんにだって問題はある。彼はサラの親なのだ。
親として、子が間違った事をしたらちゃんと叱る必要がある。
確かに今までの経緯を考えれば、ティラさんがサラに遠慮するのも分かるが、これではどちらも報われない。
思い返すのは、僕が引きこもった時の事だ。
父は僕に遠慮して何も言えなかった。だから僕も何も言われない事を良い事に、ずっと引きこもった。
長い時間すれ違った親子関係。もしサラ達と会わなければ、今もすれ違ったままだっただろう。
サラとティラさんも時間をかければ、もしかしたら良好な関係を築けるかもしれない。
だけど、もし今回のケガが悪化しティラさんが亡くなりでもしたら……。
「ダメです」
本来なら、僕が言うのはお門違いだ。
でも、言わなければきっと後悔する。
「ティラさんはサラの親なのだから、ちゃんと叱るべきです」
「エ、エルク君。しかしだね」
「ティラさんの過去は分かりました。でもそれはサラを怒らない理由にはなりません。こんな不貞腐れた態度で謝られ、それに対して腫物を扱う様にペコペコして……それがサラの為になると、ティラさんは思っているのですか?」
場が沈黙した。
僕の爆弾発言に、皆があんぐりと口を開け、驚いている。
「それとも、ティラさんが犯した過ちを、今度はサラにさせるつもりですか?」
父親の罪を裁くために出向いて来たサラ。
それが冤罪だと分かり、自らの行動によって父親に泥を被せたと知ったのだ。
何も言わなければ、サラはレイア家を継ぎ、ティラさんの名誉回復に走り出すだろう。ティラさんと同じように。
だから、ここでちゃんと言葉にして意思疎通をしないといけないと思う。
「……そうだな」
ティラさんは使用人の肩を借り、サラの前までよろよろと歩いて行く。
「ここで良い」
そう言って、使用人から手を放す。
両足の腱を斬られ、治療したとはいえ、まだ立つことすらやっとの状況だ。
不安そうに見つめる使用人に、大丈夫だと言って下がらせた。
目の前に立つティラさんを、サラは表情を変えず見上げる。
「サラ」
「なに」
ティラさんが右手を高く振り上げる。
そのしぐさに、一瞬サラがビクっとするが姿勢は変えない。
……その右手が振り下ろされることが無かった。
「ごめん」
両手で抱え込むように、サラを抱きしめ、ティラさんが謝った。
「こんな情けない父親で済まない。私はやはりお前に叱る事なんて出来ない」
ティラさんの目からは、涙が零れ落ちていた。
「エルク君の言う通り、私はお前を叱らないといけない。それなのに出来ない。出来ないんだ。大切な娘なんだ。お前は私にとって最後の家族なんだ。だからごめん。ダメな父親でごめんよ」
抱きしめ、何度もごめんと謝っていた。
「わ、私の方こそ、ごめんなさい」
サラがゆっくりと、手を震えさせながら、恐る恐るティラさんを抱き返す。
「お父様の足を斬っちゃってごめんなさい。私、本当はお父様に見て欲しかったのに、褒めて欲しかったのに、こうする事しか出来なくてごめんなさい」
「良いんだ。良いんだよサラ。私はお前が私を見てくれただけで嬉しいんだ。元気に育ってくれたなら、足の一本や二本惜しくなんてない」
お互いにごめんなさいと繰り返しながら、想いをぶつけていく。
積もる積もった気持ちを全て吐きだすには、もう少し時間がかかるだろう。
ここは親子水入らず、僕らは退場しよう。
僕が無言で首を横に振りドアを顎差すと、他の人も無言で頷き付いて来た。
「愛してるよ。サラ」
音がしないように、ゆっくりとドアを閉めた。
☆ ☆ ☆
「ごめんね。リンの事は後回しになっちゃって」
「大丈夫です。リンは気にしてないです」
ははっ。リンはサラと違って聞きわけが良く、本当に良い子だな。
よしよしと頭を投げていると、不意に腕を掴まれた。掴んだのは父さんだった。
「エルク。二人で話があるからちょっと来なさい」
「えっ?」
父は笑顔だった。とても笑顔だった。
「おうおう。なんだ? 親子水入らずで話したいってか? しゃあねぇ。俺達は別の部屋に行くか」
「あぁ、頼む」
チャラーさんがアリア達を引き連れて、ボクと父さんとは反対方向へ歩いて行った。
時折アリアやリンが心配そうに僕に振り返ってみていた。
皆が居なくなったのを確認して、父さんと僕は、僕に割り当てられた部屋に入って行った。
「このバカモンがッ!!!」
部屋に入り、開口一番に拳骨と共に、父さんの叱りの言葉が響いた。
「お前は親になるという事が、どれだけ大変な事か分かっているのか!」
「それは……」
「それはなんだ?」
「……ごめんなさい」
「分からずあんなことを偉そうに言ったのか!」
父さんの説教は、それから1時間以上続いた。
僕のティラさんへの言動の問題もあっただろう。上手くいったから良いわけじゃないしね。
かつて僕が引きこもった時に、父さんが出来なかったことだ。
父さんはサラとティラさんを見て、自分も親としての責任を感じたのかは分からない。
「エルク。何をにやけとる」
「ううん。何でもない。続けて」
引きこもった時でさえ、こうやってちゃんと叱られた記憶はない。
だから、こうして叱られるのはちょっと嬉しかった。
私は、不幸な人間だと思っていた。
そうね。大体リンの次くらいに不幸な人間だと思っていたわ。
奴隷にされて、女の子なのに体中傷だらけのリンより不幸なんて思い上がるつもりは無い。
たまにリンの口から、生前のご両親の話を聞くことがあったけど、両親の愛を感じさせる話ばかり。
その点においては、リンは幸せだったと思う。心から寄り添える家族が居たのだから。
私には、何一つなかった。だから、かけがえのない家族との思い出があるリンが、少しだけ羨ましかった。
どれだけ勉強を頑張っても、どれだけ魔術を得ても、アイツが私を褒めてくれた事は、ただの一度もなかった。
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その上、悪い噂ばかりで、若い娘を嫁として迎えては次々と死なせているらしい。
いつも厭らしい目で見るソイツと結婚するのが嫌で、家を出た。
アイツを良い人だと勘違いして騙されているリンは置いて行けなかったから、一緒に連れ出した。
生きていくための生活費を稼ぐために、私は冒険者になった。
一緒にパーティを組んだ奴らも中々に不幸揃いだった。
でも、私やリン程じゃない。
エルクは料理以外は何も出来ないようなダメな奴だけど、良いお父さんが居た。
何故か分からないけど、リンやアリアにも懐かれて良い御身分だわ。
アリアは生まれてすぐに捨てられて、親の顔すら知らないと言っていた。
確かに私より不幸な感じはしたけど、拾われた先で愛されて育った。
結局、不幸者パーティの中でも私とリンが一番不幸だった。
だけど、その分気を使わなくて済むから、気が楽だった。
なんなら居心地の良さすら感じた。
だから、今更私を愛してるなんて言わないで欲しい。
リンとの思い出を汚さないで欲しい。
私……本当に何もなくなっちゃったじゃない。
「ごめんなさい」
屋敷に戻った。
エルクがアイツ……お父様達を部屋に呼び出して、謝るように促してきたから言われるままに謝った。
ここで罵倒されたらどれだけ楽だろう。いっそ怒りに任せて殺されてしまいたい。
-エルク視点-
「ごめんなさい」
何一つ口答えせず、サラは僕の言う通りティラさん達に頭を下げて謝った。
表情と言葉から、サラの無気力感が伝わる。反省を感じさせない態度だ。
「サラ……良いんだよ。そもそも悪いのは私だ。私にお前を怒る権利なんてない」
「リンも怒っていないです。サラの気持ちを考えれば怒るのも仕方ないです」
そんなサラに対し、リンとティラさんは腫物を扱うかのようなあたふたした態度だ。
これではどっちが謝っているのか分からない。
確かに僕の言う通りに謝ってはいるけど。
全く。どこまで素直じゃないのやら。
でも、問題はサラだけじゃない。
ティラさんにだって問題はある。彼はサラの親なのだ。
親として、子が間違った事をしたらちゃんと叱る必要がある。
確かに今までの経緯を考えれば、ティラさんがサラに遠慮するのも分かるが、これではどちらも報われない。
思い返すのは、僕が引きこもった時の事だ。
父は僕に遠慮して何も言えなかった。だから僕も何も言われない事を良い事に、ずっと引きこもった。
長い時間すれ違った親子関係。もしサラ達と会わなければ、今もすれ違ったままだっただろう。
サラとティラさんも時間をかければ、もしかしたら良好な関係を築けるかもしれない。
だけど、もし今回のケガが悪化しティラさんが亡くなりでもしたら……。
「ダメです」
本来なら、僕が言うのはお門違いだ。
でも、言わなければきっと後悔する。
「ティラさんはサラの親なのだから、ちゃんと叱るべきです」
「エ、エルク君。しかしだね」
「ティラさんの過去は分かりました。でもそれはサラを怒らない理由にはなりません。こんな不貞腐れた態度で謝られ、それに対して腫物を扱う様にペコペコして……それがサラの為になると、ティラさんは思っているのですか?」
場が沈黙した。
僕の爆弾発言に、皆があんぐりと口を開け、驚いている。
「それとも、ティラさんが犯した過ちを、今度はサラにさせるつもりですか?」
父親の罪を裁くために出向いて来たサラ。
それが冤罪だと分かり、自らの行動によって父親に泥を被せたと知ったのだ。
何も言わなければ、サラはレイア家を継ぎ、ティラさんの名誉回復に走り出すだろう。ティラさんと同じように。
だから、ここでちゃんと言葉にして意思疎通をしないといけないと思う。
「……そうだな」
ティラさんは使用人の肩を借り、サラの前までよろよろと歩いて行く。
「ここで良い」
そう言って、使用人から手を放す。
両足の腱を斬られ、治療したとはいえ、まだ立つことすらやっとの状況だ。
不安そうに見つめる使用人に、大丈夫だと言って下がらせた。
目の前に立つティラさんを、サラは表情を変えず見上げる。
「サラ」
「なに」
ティラさんが右手を高く振り上げる。
そのしぐさに、一瞬サラがビクっとするが姿勢は変えない。
……その右手が振り下ろされることが無かった。
「ごめん」
両手で抱え込むように、サラを抱きしめ、ティラさんが謝った。
「こんな情けない父親で済まない。私はやはりお前に叱る事なんて出来ない」
ティラさんの目からは、涙が零れ落ちていた。
「エルク君の言う通り、私はお前を叱らないといけない。それなのに出来ない。出来ないんだ。大切な娘なんだ。お前は私にとって最後の家族なんだ。だからごめん。ダメな父親でごめんよ」
抱きしめ、何度もごめんと謝っていた。
「わ、私の方こそ、ごめんなさい」
サラがゆっくりと、手を震えさせながら、恐る恐るティラさんを抱き返す。
「お父様の足を斬っちゃってごめんなさい。私、本当はお父様に見て欲しかったのに、褒めて欲しかったのに、こうする事しか出来なくてごめんなさい」
「良いんだ。良いんだよサラ。私はお前が私を見てくれただけで嬉しいんだ。元気に育ってくれたなら、足の一本や二本惜しくなんてない」
お互いにごめんなさいと繰り返しながら、想いをぶつけていく。
積もる積もった気持ちを全て吐きだすには、もう少し時間がかかるだろう。
ここは親子水入らず、僕らは退場しよう。
僕が無言で首を横に振りドアを顎差すと、他の人も無言で頷き付いて来た。
「愛してるよ。サラ」
音がしないように、ゆっくりとドアを閉めた。
☆ ☆ ☆
「ごめんね。リンの事は後回しになっちゃって」
「大丈夫です。リンは気にしてないです」
ははっ。リンはサラと違って聞きわけが良く、本当に良い子だな。
よしよしと頭を投げていると、不意に腕を掴まれた。掴んだのは父さんだった。
「エルク。二人で話があるからちょっと来なさい」
「えっ?」
父は笑顔だった。とても笑顔だった。
「おうおう。なんだ? 親子水入らずで話したいってか? しゃあねぇ。俺達は別の部屋に行くか」
「あぁ、頼む」
チャラーさんがアリア達を引き連れて、ボクと父さんとは反対方向へ歩いて行った。
時折アリアやリンが心配そうに僕に振り返ってみていた。
皆が居なくなったのを確認して、父さんと僕は、僕に割り当てられた部屋に入って行った。
「このバカモンがッ!!!」
部屋に入り、開口一番に拳骨と共に、父さんの叱りの言葉が響いた。
「お前は親になるという事が、どれだけ大変な事か分かっているのか!」
「それは……」
「それはなんだ?」
「……ごめんなさい」
「分からずあんなことを偉そうに言ったのか!」
父さんの説教は、それから1時間以上続いた。
僕のティラさんへの言動の問題もあっただろう。上手くいったから良いわけじゃないしね。
かつて僕が引きこもった時に、父さんが出来なかったことだ。
父さんはサラとティラさんを見て、自分も親としての責任を感じたのかは分からない。
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