5 / 49
5.平凡令嬢、自らの罪に嘆く。
しおりを挟む
「復讐……。ですか?」
「はい。私の名前を知っているという事は、私の噂についてもご存じかと思います」
「えっと……。その、外国へ留学中のような感じで……」
噂は知っています。ですが本人を前に「兄を恐れ逃げ出した」等と言えるわけがございません。
なので、オブラートに包みました。
「どうやら貴女はお優しい方のようだ。兄を恐れ逃げ出した私の心中を案じていらっしゃるのですね」
そんな私の気遣いを、無用だと言わんばかりに、リカルド様は優しく笑ってくださいました。
ですが、その笑みに自暴自棄のようなものが感じられ、笑っているのに泣いているように思えます。
「笑ってくださっても構わないのですよ」
「いえ、笑いません」
私がリカルド様を笑えるはずがありません。何故なら私も、カチュアお姉さまから逃げ出したのですから。
逃げ出して、そして感情のままに暴れた私が、どうしてリカルド様を笑うことが出来るのでしょうか?
「リカルド様。その、迷惑でなければ私の話も聞いていただいて宜しいでしょうか?」
「あぁ。貴女がどうしてあそこに居たのかも気になっていたんだ」
リカルド様は椅子を持ち出し、私の居るベッドの横に椅子を置き、座りました。
組んだ両手の腕に顎を乗せ、まっすぐ私を見ています。
「私の名はパオラ。ジュリアン様とは元婚約者の関係です」
事の顛末を、私は話し始めました。
と言っても、話す事は多くありません。
私はジュリアン様と婚約を結びましたが、あまり会う機会は無かったのですから。
気づけば婚約を一方的に破棄され、カチュアお姉さまに取られた。ただそれだけの話です。
「そして私は、街の人達を……」
話していく内に、自分がした事の重大さを実感しました。
体が震え、思うように言葉が出せません。
こんな私が復讐の手伝いを?
手を汚し、既に復讐される側に回っているというのに、何とあさましい……。
「リカルド様。申し訳ありません。罪で汚れた今の私には、復讐をお手伝いする権利はありません」
「貴女は、後悔していらっしゃるのですね」
「はい。もしこの命で償えるのなら、喜んで差し出します。ですが私一人の軽い命で償いきれる事ではありません。せめてもの罰を受けるため、出頭しようと思います」
リカルド様の申し出は嬉しかったですが、今の私にそのお誘いはもう遅いのです。
せめて、もう少し早くリカルド様と出会えて居れば……。
そんな私に対し、リカルド様は悪戯っぽい笑みを浮かべ、クスクスと笑っていました。
真剣に話したつもりなのですが、そんな対応をされるのは、些か不本意ではあります。
「貴女は一つ、勘違いをしていますよ」
勘違い、ですか?
「どちらでも良いので、手の平を上にして、手を出して頂けますか?」
言われるがままに、右手を差し出してみます。
「わっ!?」
リカルド様がパチンと指を鳴らしました。
すると、私の手の上に、キャンディが現れたのです。
「貴女が街を破壊する寸前の所で、私が転移魔法で街ごと移動させました。なので貴女はまだ汚れてなどいませんよ」
「はい。私の名前を知っているという事は、私の噂についてもご存じかと思います」
「えっと……。その、外国へ留学中のような感じで……」
噂は知っています。ですが本人を前に「兄を恐れ逃げ出した」等と言えるわけがございません。
なので、オブラートに包みました。
「どうやら貴女はお優しい方のようだ。兄を恐れ逃げ出した私の心中を案じていらっしゃるのですね」
そんな私の気遣いを、無用だと言わんばかりに、リカルド様は優しく笑ってくださいました。
ですが、その笑みに自暴自棄のようなものが感じられ、笑っているのに泣いているように思えます。
「笑ってくださっても構わないのですよ」
「いえ、笑いません」
私がリカルド様を笑えるはずがありません。何故なら私も、カチュアお姉さまから逃げ出したのですから。
逃げ出して、そして感情のままに暴れた私が、どうしてリカルド様を笑うことが出来るのでしょうか?
「リカルド様。その、迷惑でなければ私の話も聞いていただいて宜しいでしょうか?」
「あぁ。貴女がどうしてあそこに居たのかも気になっていたんだ」
リカルド様は椅子を持ち出し、私の居るベッドの横に椅子を置き、座りました。
組んだ両手の腕に顎を乗せ、まっすぐ私を見ています。
「私の名はパオラ。ジュリアン様とは元婚約者の関係です」
事の顛末を、私は話し始めました。
と言っても、話す事は多くありません。
私はジュリアン様と婚約を結びましたが、あまり会う機会は無かったのですから。
気づけば婚約を一方的に破棄され、カチュアお姉さまに取られた。ただそれだけの話です。
「そして私は、街の人達を……」
話していく内に、自分がした事の重大さを実感しました。
体が震え、思うように言葉が出せません。
こんな私が復讐の手伝いを?
手を汚し、既に復讐される側に回っているというのに、何とあさましい……。
「リカルド様。申し訳ありません。罪で汚れた今の私には、復讐をお手伝いする権利はありません」
「貴女は、後悔していらっしゃるのですね」
「はい。もしこの命で償えるのなら、喜んで差し出します。ですが私一人の軽い命で償いきれる事ではありません。せめてもの罰を受けるため、出頭しようと思います」
リカルド様の申し出は嬉しかったですが、今の私にそのお誘いはもう遅いのです。
せめて、もう少し早くリカルド様と出会えて居れば……。
そんな私に対し、リカルド様は悪戯っぽい笑みを浮かべ、クスクスと笑っていました。
真剣に話したつもりなのですが、そんな対応をされるのは、些か不本意ではあります。
「貴女は一つ、勘違いをしていますよ」
勘違い、ですか?
「どちらでも良いので、手の平を上にして、手を出して頂けますか?」
言われるがままに、右手を差し出してみます。
「わっ!?」
リカルド様がパチンと指を鳴らしました。
すると、私の手の上に、キャンディが現れたのです。
「貴女が街を破壊する寸前の所で、私が転移魔法で街ごと移動させました。なので貴女はまだ汚れてなどいませんよ」
152
あなたにおすすめの小説
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ
もぐすけ
ファンタジー
シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。
あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。
テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。
夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します
もぐすけ
ファンタジー
私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。
子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。
私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる