2 / 35
第1章 暴力の旅路
1. 砂都シェルターン
しおりを挟む
砂漠の大地が大きく裂けたその谷底に、人の欲望を煮詰めたような街があった。砂都《シェルターン》。かつての地下水脈を利用して作られたこの集落は、グラウル荒界において数少ない「水」と「娯楽」が存在する場所だ。ここでいう娯楽とは、すなわち「他人の死」を指す。
「──殺せ! 目玉を抉り出せェ!」
「右だ! 右の腕を千切れ! 金賭けてんだぞクソがッ!」
谷底に怒号と歓声が反響する。街の中央にある『血の市』──すり鉢状の闘技場では、今日も奴隷たちが錆びた鉄屑で殴り合い、その鮮血が砂を濡らしていた。
「う……わぁ……」
街の入り口に立ったピクスは、思わず鼻をつまむ。熱気とともに立ち昇ってくるのは、古い油と排泄物、そして濃厚な血の臭い。人の命が水よりも安い場所特有の、胃の腑が重くなるような空気だ。
「な、なあグラード。ここ、本当に寄るのか? 補給なら、他の小さい集落でも……」
ピクスは怯えた視線で巨人の顔色を窺う。だが、グラードは闘技場の熱狂になど一瞥もくれなかった。
「水がいる」
返ってきたのは、それだけの短い言葉。グラード・バロッグにとって、この街がどれほど危険で腐敗していようと関係ない。喉が渇いたから水を飲む。進む道に街があるから通る。それだけだ。野生動物のような、あまりにも純粋な行動原理。
グラードが歩き出すと、雑踏が波が引くように割れた。チンピラやゴロツキたちも、本能で悟るのだろう。この巨躯の男が纏う空気が、闘技場の中で殴り合わされている奴隷たちとはまったく異質であることに。
(……やっぱ、すげえな)
グラードの背中に隠れるように歩きながら、ピクスは安堵と恐怖がない交ぜになった溜息をついた。この男の後ろにいれば、誰も手を出してこない。だがそれは同時に、猛獣の檻の中に自ら入っているようなものでもあった。
「──殺せ! 目玉を抉り出せェ!」
「右だ! 右の腕を千切れ! 金賭けてんだぞクソがッ!」
谷底に怒号と歓声が反響する。街の中央にある『血の市』──すり鉢状の闘技場では、今日も奴隷たちが錆びた鉄屑で殴り合い、その鮮血が砂を濡らしていた。
「う……わぁ……」
街の入り口に立ったピクスは、思わず鼻をつまむ。熱気とともに立ち昇ってくるのは、古い油と排泄物、そして濃厚な血の臭い。人の命が水よりも安い場所特有の、胃の腑が重くなるような空気だ。
「な、なあグラード。ここ、本当に寄るのか? 補給なら、他の小さい集落でも……」
ピクスは怯えた視線で巨人の顔色を窺う。だが、グラードは闘技場の熱狂になど一瞥もくれなかった。
「水がいる」
返ってきたのは、それだけの短い言葉。グラード・バロッグにとって、この街がどれほど危険で腐敗していようと関係ない。喉が渇いたから水を飲む。進む道に街があるから通る。それだけだ。野生動物のような、あまりにも純粋な行動原理。
グラードが歩き出すと、雑踏が波が引くように割れた。チンピラやゴロツキたちも、本能で悟るのだろう。この巨躯の男が纏う空気が、闘技場の中で殴り合わされている奴隷たちとはまったく異質であることに。
(……やっぱ、すげえな)
グラードの背中に隠れるように歩きながら、ピクスは安堵と恐怖がない交ぜになった溜息をついた。この男の後ろにいれば、誰も手を出してこない。だがそれは同時に、猛獣の檻の中に自ら入っているようなものでもあった。
0
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる