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第2章 歪む因果・集う災厄
1. 灰色の鏡
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グラウル荒界の北端に、巨大な硝子の針が突き立っているような岬がある。灰鏡岬。かつての大戦時、超高熱の熱線で溶解した砂漠が冷え固まり、一面のガラス質へと変貌した不毛の地だ。その先端に、歪な塔がそびえている。観測所《灰鏡塔》。無数のレンズと鏡を組み合わせ、大陸中から伝播してくる「因果の歪み」を観測しようとする、物好きな学者たちの石室である。
「……なぁ、グラード。本当に行くのか? こっちで合ってるんだよな?」
灰色のガラス地面に足を滑らせながら、ピクスは不安げに前を行く巨人に声をかけた。グラードは答えない。ただ、その足取りには一切の迷いがなく、時折、虚空の匂いを嗅ぐように鼻を鳴らすだけだ。
(やっぱり、引き返すべきだったか……?)
ピクスは後悔し始めていた。シェルターンで耳にした「殻狩人」という不穏な単語。災厄者を専門に狩る組織が動き出している──その情報を確かめるために、この観測所への寄り道を提案したのはピクス自身だった。敵を知れば、生存確率は上がる。それがピクスの計算だった。
だが、グラードの様子がおかしい。ここ数日、彼はほとんど口を開かない。いや、「減った」というレベルではない。必要最小限の単語すら発さず、ただ黙々と、周囲の音を拒絶するように歩き続けている。その背中から滲み出る空気が、以前よりも「重く」なっている気がした。
「……なぁ、グラード。本当に行くのか? こっちで合ってるんだよな?」
灰色のガラス地面に足を滑らせながら、ピクスは不安げに前を行く巨人に声をかけた。グラードは答えない。ただ、その足取りには一切の迷いがなく、時折、虚空の匂いを嗅ぐように鼻を鳴らすだけだ。
(やっぱり、引き返すべきだったか……?)
ピクスは後悔し始めていた。シェルターンで耳にした「殻狩人」という不穏な単語。災厄者を専門に狩る組織が動き出している──その情報を確かめるために、この観測所への寄り道を提案したのはピクス自身だった。敵を知れば、生存確率は上がる。それがピクスの計算だった。
だが、グラードの様子がおかしい。ここ数日、彼はほとんど口を開かない。いや、「減った」というレベルではない。必要最小限の単語すら発さず、ただ黙々と、周囲の音を拒絶するように歩き続けている。その背中から滲み出る空気が、以前よりも「重く」なっている気がした。
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