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第2章 歪む因果・集う災厄
4. 三魔殻の名
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数分後。静寂が去った塔の中で、生き残った学者たちが瓦礫の中から這い出していた。殻狩人たちは全滅。塔の構造材は歪み、もはや使い物にならない。それでも奇跡的に観測室の人間だけは──グラードの進路から外れていたため──生き延びていた。
「はぁ、はぁ……。なんてことだ」
学者の長が、砕けた因果震度計の前で震えていた。そこへ、息を切らしたピクスが駆け上がってくる。
「おい、あんたたち! 大丈夫か!?」
ピクスは床に転がる殻狩人の死体──プレスされた直後のように平らになったそれ──を見て、顔を引きつらせた。まただ。また、グラードは「何もしていない」。ただ通り過ぎただけで、精鋭部隊が全滅している。
「……少年。あいつは、何者だ?」
学者が、亡霊を見るような目で問いかけた。ピクスは言葉に詰まる。何者か。そんなの、自分が一番知りたい。
「あいつは……グラード。ただの、乱暴な……」
「違う」
学者は首を振った。恐怖と、ある種の学術的な畏敬を込めて断言する。
「あれは人間じゃない。我々が追い求めていた、この世界のバグそのものだ。あらゆる抵抗を否定し、万物を沈黙させる王の力……」
学者は、震える唇でその伝説上の名を紡いだ。
「『強制の静寂』。……三魔殻の一角が、目覚めてしまったんだ」
三魔殻──その単語を聞いた瞬間、ピクスの脳裏に、あのシェルターンで出会ったノマドの不気味な声が蘇る。
(三つの災厄……。グラードは、その中の一つだってのか?)
ピクスは窓の外を見た。灰色の荒野を、すでに遠くへと歩き去っていく巨人の背中。その周囲だけ、空気の色がわずかに鈍く沈んでいるように見えた。
もはや、ただの暴力自慢の男ではない。あれは、世界を壊しながら歩くシステムだ。そして自分は、そのシステムのエラーログを記録するためだけに生かされている、小さな部品に過ぎないのかもしれない。
ピクスは身震いし、それでもなお、磁石に引かれるように走り出した。まだ、離れるわけにはいかない。その先に待つのが、「逆巻き」の地獄だとしても。
「はぁ、はぁ……。なんてことだ」
学者の長が、砕けた因果震度計の前で震えていた。そこへ、息を切らしたピクスが駆け上がってくる。
「おい、あんたたち! 大丈夫か!?」
ピクスは床に転がる殻狩人の死体──プレスされた直後のように平らになったそれ──を見て、顔を引きつらせた。まただ。また、グラードは「何もしていない」。ただ通り過ぎただけで、精鋭部隊が全滅している。
「……少年。あいつは、何者だ?」
学者が、亡霊を見るような目で問いかけた。ピクスは言葉に詰まる。何者か。そんなの、自分が一番知りたい。
「あいつは……グラード。ただの、乱暴な……」
「違う」
学者は首を振った。恐怖と、ある種の学術的な畏敬を込めて断言する。
「あれは人間じゃない。我々が追い求めていた、この世界のバグそのものだ。あらゆる抵抗を否定し、万物を沈黙させる王の力……」
学者は、震える唇でその伝説上の名を紡いだ。
「『強制の静寂』。……三魔殻の一角が、目覚めてしまったんだ」
三魔殻──その単語を聞いた瞬間、ピクスの脳裏に、あのシェルターンで出会ったノマドの不気味な声が蘇る。
(三つの災厄……。グラードは、その中の一つだってのか?)
ピクスは窓の外を見た。灰色の荒野を、すでに遠くへと歩き去っていく巨人の背中。その周囲だけ、空気の色がわずかに鈍く沈んでいるように見えた。
もはや、ただの暴力自慢の男ではない。あれは、世界を壊しながら歩くシステムだ。そして自分は、そのシステムのエラーログを記録するためだけに生かされている、小さな部品に過ぎないのかもしれない。
ピクスは身震いし、それでもなお、磁石に引かれるように走り出した。まだ、離れるわけにはいかない。その先に待つのが、「逆巻き」の地獄だとしても。
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