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第2章 歪む因果・集う災厄
8. 檻の中の街
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逆鳴き盆地を抜けた二人が辿り着いたのは、奇妙な形をした岩山の麓にある街、歪角市だった。街に入った瞬間、鼻を突くのは獣臭さと安っぽい香水の匂い。ここは「見世物」の街だ。捕獲された怪物や、力の弱い魔王遺物の所有者──なり損ないの災厄者──を檻に入れ、金を取って客に見せる悪趣味な興行で栄えている。
「いらっしゃい! 見てってくれ! 『火吹きの双頭蛇』だよ!」
「こっちは『顔なしの踊り子』だ! 遺物の呪いで顔が溶けちまった女さ!」
呼び込みの声。檻を叩く音。観客の下卑た笑い声。ピクスは眉をひそめた。砂都シェルターンの「血の市」が暴力的な地獄なら、ここは陰湿な地獄だ。他人の不幸と異形を安全圏から眺めて楽しむ、腐った好奇心の掃き溜め。
「……趣味わりぃ。早く水と食料を買って出ようぜ、グラード」
ピクスは吐き捨てるように言い、巨人の顔を見上げた。グラードは無表情だった。だが、その無表情の質が以前とは違う。ソルガとの戦いで満たされなかった破壊衝動を内側に溜め込み、それを無理やり「静寂」という蓋で押さえつけているような、張り詰めた空気。
その異様な気配は、すぐに街の人々の目に留まった。
「おい、見ろよあいつ。すげえデカブツだぞ」
「あの斧……もしや、あれも災厄者か?」
「珍しいな。檻に入ってない野良の災厄者だ!」
最初は数人だった。だが、すぐに十人、二十人と人が集まり始める。彼らはグラードを恐れながらも、それ以上に「タダで珍しいものが見られる」という野次馬根性で、遠巻きに二人を取り囲んだ。
「おいデカいの! なんか芸を見せてみろよ!」
「石でも投げてみようぜ、怒るかな?」
小石が飛んできた。ピクスの肩に当たる。「痛っ」とピクスは声を上げる。だが、グラードは動じない。怒号も上げず、斧も振るわない。ただ、立ち止まって周囲を見回しただけだ。
その瞬間。ピクスの肌が粟立った。
(……あ、れ? 空気が……)
「いらっしゃい! 見てってくれ! 『火吹きの双頭蛇』だよ!」
「こっちは『顔なしの踊り子』だ! 遺物の呪いで顔が溶けちまった女さ!」
呼び込みの声。檻を叩く音。観客の下卑た笑い声。ピクスは眉をひそめた。砂都シェルターンの「血の市」が暴力的な地獄なら、ここは陰湿な地獄だ。他人の不幸と異形を安全圏から眺めて楽しむ、腐った好奇心の掃き溜め。
「……趣味わりぃ。早く水と食料を買って出ようぜ、グラード」
ピクスは吐き捨てるように言い、巨人の顔を見上げた。グラードは無表情だった。だが、その無表情の質が以前とは違う。ソルガとの戦いで満たされなかった破壊衝動を内側に溜め込み、それを無理やり「静寂」という蓋で押さえつけているような、張り詰めた空気。
その異様な気配は、すぐに街の人々の目に留まった。
「おい、見ろよあいつ。すげえデカブツだぞ」
「あの斧……もしや、あれも災厄者か?」
「珍しいな。檻に入ってない野良の災厄者だ!」
最初は数人だった。だが、すぐに十人、二十人と人が集まり始める。彼らはグラードを恐れながらも、それ以上に「タダで珍しいものが見られる」という野次馬根性で、遠巻きに二人を取り囲んだ。
「おいデカいの! なんか芸を見せてみろよ!」
「石でも投げてみようぜ、怒るかな?」
小石が飛んできた。ピクスの肩に当たる。「痛っ」とピクスは声を上げる。だが、グラードは動じない。怒号も上げず、斧も振るわない。ただ、立ち止まって周囲を見回しただけだ。
その瞬間。ピクスの肌が粟立った。
(……あ、れ? 空気が……)
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