荒界の静寂

一丸壱八

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第2章 歪む因果・集う災厄

11. 鐘の鳴らない森

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 歪角市を後にした二人が夜営の地に選んだのは、かつて「静寂教団」という宗教の本拠地だった廃墟、廃都ナデラだった。奇妙な場所だ。街のいたるところに、枯れ木のような細長い塔が林立している。かつては鐘楼だったらしいが、鐘はとうの昔に落ちて砕け、今はただの虚ろな筒として風を吸い込んでいる。

「……なんか、変な感じだな」

 焚き火の準備をしながら、ピクスは身震いした。この廃都は静かだ。だが、グラードがもたらす「強制的な静寂」とは違う。音が死んでいるのではなく、音が「抜け落ちている」ような、空虚な静けさ。グラードは瓦礫に腰を下ろし、目を閉じていた。彼はこの場所を気に入っているようだった。ソルガとの戦い以降、彼の内側では常に遺物の衝動──反動の咆哮──が鳴り響いているはずだ。外の世界が静かであればあるほど、その内なるノイズとの均衡が保てるのかもしれない。

(グラードは、もう寝てるのか……?)

 ピクスは毛布にくるまり、炎を見つめた。会話はない。最近、グラードと言葉を交わした記憶がない。ただついていくだけ。影のように。その事実に、ピクスは言いようのない孤独を感じていた。
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