荒界の静寂

一丸壱八

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第2章 歪む因果・集う災厄

12. 脳を裂くノイズ

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 深夜。ピクスは不快な耳鳴りで目を覚ました。

 ──キィィィィィン……。

 金属を擦り合わせたような、高く鋭い音。風の音かと思った。だが、音は耳の外からではなく、頭蓋骨の内側から響いてくる。

「……っ、う……?」

 ピクスは耳を押さえて起き上がった。耳鳴りは止まない。それどころか、ノイズの中に人の声が混じり始める。

『……ねぇ、聞こえるかい?』
『いい音だ。怯える心臓の音は、いつ聴いても極上の音楽だねぇ』

 粘着質な囁き声。ピクスの心臓が跳ね上がる。知っている声だ。シェルターンの路地裏で聞いた、あの化け物の声。

「ノ、ノマド……!?」

 ピクスは弾かれたように周囲を見回した。誰もいない。林立する鐘楼の影が、月明かりに長く伸びているだけだ。グラードは数メートル先で微動だにせず、眠っているのか、あるいは瞑想しているのか。

『探しても無駄だよ、小ネズミ。俺はお前の“認識”の中にいる』

 声は、右耳から聞こえたかと思えば、次は左耳から、そして脳天から響く。『囁断の連鎖レンディング・カスケード』。感覚と位置情報を撹乱し、自我の境界を曖昧にする魔王遺物の力。

『可哀想にねぇ。お前はずっと一人ぼっちだ。あの“静寂の王”は、お前のことなんて見ちゃいない。あいつが見ているのは、自分だけの静かな世界さ』

「う、うるさい……! 出てこい!」

 ピクスは短剣を抜いて虚空を切り裂いた。だが、手応えはない。ノマドの笑い声が、何重にも重なって脳内を反響する。

『あいつにとって、お前はただのノイズだ。お前の呼吸も、足音も、その怯えた鼓動も……すべてが邪魔な雑音なんだよ!』

 キィィィィンッ!! ノイズが爆音に変わる。ピクスは悲鳴を上げ、地面に頭を打ち付けた。痛い。耳が裂ける。世界がぐにゃぐにゃに歪んで、自分がどこにいるのか、生きているのか死んでいるのかさえ分からなくなる。

「あ、あああ……っ! グラード! グラード、助けてくれェッ!」
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