29 / 35
第3章 崩壊への祭壇
2. 慈悲なき救済
しおりを挟む
白鎖団の戦術は陰湿だった。彼らはグラードに攻撃を仕掛けない。グラードの静寂が届かない遠距離から、ピクスだけを狙って矢を放ち、石礫を投げつける。
「う、わあぁっ!?」
ピクスは悲鳴を上げ、グラードの足元に転がり込んだ。矢が掠め、頬が切れる。グラードは動かない。彼にとって、遠くで飛んでいる羽虫──白鎖団──など、認識の外だ。
「グラード! 助けてくれ! 俺を狙ってやがる!」
ピクスが叫び、グラードの足にしがみついた。その振動が、巨人の意識をわずかに現実に引き戻した。
グラードは、ゆっくりと視線を落とした。そこに「仲間を守る」という意思はない。ただ、自分の足元で騒いでいるノイズと、その原因となっている遠くのノイズを認識し──不快だと感じただけだ。
「……散れ」
グラードが足を踏み鳴らす。静寂が津波となって押し寄せた。
ドガガガガッ! 骨の風車が粉砕され、白い鎧の騎士たちが血を吐いて吹き飛ぶ。だが、今回の静寂はそれだけでは止まらなかった。制御を失った波動は、白鎖団の後方に拘束されていた「囮として連れてこられた避難民たち」までも飲み込んだのだ。
遠くで、縛られていた人影の群れが、糸の切れた人形のように崩れ落ちるのが見えた。彼らは何もしていない。ただそこにいただけだ。白鎖団の生贄にされた被害者たち。だがグラードの静寂は、敵も味方も、善人も悪人も区別しない。「範囲内にあるノイズ」をすべて消去した。それだけだ。
鎖番が、血の泡を吐きながら最期の言葉を投げかける。
「見ろ……小僧……。これが……貴様が選んだ……王の姿だ……。貴様がいる限り……この災厄は……誰も救わない……すべてを……殺す……」
鎖番は息絶えた。世界に音が戻る。
グラードは、目の前に広がる死体の山を無関心に踏み越えていく。ピクスは震える足で、その後を追うしかなかった。
「あ……」
足元を見るたびに、絶望が胸を刺す。そこには、圧死した子供や老人の姿があった。
(俺のせいだ……)
自分がここにいなければ、白鎖団は来なかった。自分がグラードに助けを求めなければ、グラードは範囲を広げなかった。自分が生き残るために、他人が死んだ。
罪悪感で押し潰されそうになりながらも、この背中以外に行く場所がないという事実だけが、ピクスを縛り付けていた。
「う、わあぁっ!?」
ピクスは悲鳴を上げ、グラードの足元に転がり込んだ。矢が掠め、頬が切れる。グラードは動かない。彼にとって、遠くで飛んでいる羽虫──白鎖団──など、認識の外だ。
「グラード! 助けてくれ! 俺を狙ってやがる!」
ピクスが叫び、グラードの足にしがみついた。その振動が、巨人の意識をわずかに現実に引き戻した。
グラードは、ゆっくりと視線を落とした。そこに「仲間を守る」という意思はない。ただ、自分の足元で騒いでいるノイズと、その原因となっている遠くのノイズを認識し──不快だと感じただけだ。
「……散れ」
グラードが足を踏み鳴らす。静寂が津波となって押し寄せた。
ドガガガガッ! 骨の風車が粉砕され、白い鎧の騎士たちが血を吐いて吹き飛ぶ。だが、今回の静寂はそれだけでは止まらなかった。制御を失った波動は、白鎖団の後方に拘束されていた「囮として連れてこられた避難民たち」までも飲み込んだのだ。
遠くで、縛られていた人影の群れが、糸の切れた人形のように崩れ落ちるのが見えた。彼らは何もしていない。ただそこにいただけだ。白鎖団の生贄にされた被害者たち。だがグラードの静寂は、敵も味方も、善人も悪人も区別しない。「範囲内にあるノイズ」をすべて消去した。それだけだ。
鎖番が、血の泡を吐きながら最期の言葉を投げかける。
「見ろ……小僧……。これが……貴様が選んだ……王の姿だ……。貴様がいる限り……この災厄は……誰も救わない……すべてを……殺す……」
鎖番は息絶えた。世界に音が戻る。
グラードは、目の前に広がる死体の山を無関心に踏み越えていく。ピクスは震える足で、その後を追うしかなかった。
「あ……」
足元を見るたびに、絶望が胸を刺す。そこには、圧死した子供や老人の姿があった。
(俺のせいだ……)
自分がここにいなければ、白鎖団は来なかった。自分がグラードに助けを求めなければ、グラードは範囲を広げなかった。自分が生き残るために、他人が死んだ。
罪悪感で押し潰されそうになりながらも、この背中以外に行く場所がないという事実だけが、ピクスを縛り付けていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
婚約者の番
ありがとうございました。さようなら
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。
大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。
「彼を譲ってくれない?」
とうとう彼の番が現れてしまった。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる