荒界の静寂

一丸壱八

文字の大きさ
31 / 35
第3章 崩壊への祭壇

4. 逆流の処刑場

しおりを挟む
 聖堂を出た二人を待っていたのは、最後の罠だった。罅割れ平原クラックベイン。大地に巨大な亀裂が走り、そこから逆流する風が噴き出している異常地帯。
 そこに、奴がいた。全身の包帯を新調し、さらに禍々しいオーラを纏った《逆巻きのソルガ》。そして、彼の周囲には再集結した白鎖団の本隊が展開していた。だが、その瞳は虚ろだ。おそらくソルガの巻き戻しの中に囚われ、弾丸として利用されているのだろう。

「ヒャハハ! 待ってたぜ、静寂の旦那! そして小僧! ここがお前らの墓場だ!」

 ソルガが両手を広げる。その背後で、巨大な遺物『時喰らいの反響』が駆動音を上げ、平原全体を包む結界を展開した。

「ここは俺の腹の中だ。『五秒巻き戻しの連続領域』……ここじゃあ、死ぬことすら許されねえ。永遠に殺され続ける処刑場だ!」

 空間が歪む。白鎖団が一斉に襲いかかってくる。グラードが斧を振るい、敵を粉砕する。だが、次の瞬間には敵は無傷で戻り、再び襲ってくる。

「終わりがない……!」

 ピクスは絶望した。これは前の戦いとは違う。ソルガはグラードを倒そうとしていない。「閉じ込めよう」としているのだ。無限に続く殺戮のループの中にグラードを封じ込め、その精神が摩耗して自壊するのを待つ作戦だ。
 グラードの静寂が荒ぶる。イラつき、焦り、咆哮する獣のように、無差別に周囲を破壊し始める。しかし、壊しても壊しても、五秒後には元通りになる。

「ヒヒッ! どうだ! お前の大好きな静寂なんて、永遠に来ないぜ!」

 ソルガの高笑いが響く。グラードの瞳から、理性の光が完全に消えた。侵蝕段階が、限界点──第五段階──へと近づいていく。
 ピクスは見た。グラードの体が、内側からの圧力でひび割れ、そこから黒い霧のようなものが噴き出しているのを。限界だ。このままでは、グラード自身が爆発して消滅する。

(俺に……何ができる? 俺はただの観客じゃないのか?)

 その時。白鎖団の矢が、殺戮の嵐を縫ってピクスの足を貫いた。

「が、ぁっ……!」

 ピクスが倒れ込む。その悲鳴が、グラードの耳に届いた──のかどうかは分からない。だが、グラードはピクスの方を向いた。その虚ろな瞳が、ピクスを映す。
 そして、終わりの時が動き出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約者の番

ありがとうございました。さようなら
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。 大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。 「彼を譲ってくれない?」 とうとう彼の番が現れてしまった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...