加護と呪い ~幼馴染の女の子と異世界に飛ばされたら、変な呪いがセットでした~

くらもろー

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第1章 街

第061話 地下

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 少しの休憩の後、僕らは地下へ入る。
 階段を降りる通路は古いが狭くはない。
 そこまで使われてないようで、余り風化もなく造りもしっかりとしていると思う。まるでここだけ新しく造られたようにも感じる。

 階段を降りると左右にいくつもの小部屋がある、広い通路が続いていた。
 小部屋には格子付き鉄の扉があり、しっかりと建てつけてある。

「これ、おかしく無いですか……?」

「お兄さん、どういう事?」

 フィーナは鉄の扉に手をかけ、コンコンと叩く。

「ええ、そうですね。これはとても1000年以上前の物とは思えない。最近になって誰かが建て付けたのでしょう」

 暗い地下室に鉄の扉。まるで牢屋か何かだ。格子から中を覗いても暗くてよく見えない。
 僕は試しに思い切り蹴ってみたが、鉄の扉は開かなかった。

「一つ開けてみますか……。――ウインドボルト!」

 フィーナは風の魔法を扉にぶち込んだ。
 風の塊は鉄板を大きく凹ませる。その歪みでヒンジが壊れ、ゆっくりと扉が開いた。

 僕とフィーナで小部屋の中に入り、ランタンを掲げ……陰鬱な情景が映し出された。

 人間を拘束したであろう磔台や椅子、数々の道具。その至る所に古い血痕が飛び散っていた。
 カヨは一本の棒を拾い、青ざめた。

「これ、見覚えがあるわ……」

 彼女の持っている棒も僕は見覚えがあった。
 抜けないよう、先端に返りが付いている小さな杭。
 カヨが捕まった時に打ち込まれた物とよく似ている。

「血は乾いているが、微かに臭いが残っている。間違いなく最近の物でしょう。フィーナ、どうしますか?」

 ディアスは血痕を触り、臭いを確かめた。僕も真似てみたが良く分からなかった。
 エルフの嗅覚は鋭いらしい。

「もう少し奥まで調べてみましょう」

「分かりました……ジンくん、魔物ではなく対人の可能性もありますから、気を付けて下さい」

 僕は頷いて小部屋を出ようとした時、遠くで足音が聞こえた。
 パーティーに静止の合図を送り、音の方を覗き見る。

「遠くから足音がします。暗くてよく見えませんが、靴の音ではないです……どうしますか?」

 ランタンの灯りを投げてもいいが、位置がバレるのは悪手だ。
 僕はリーダーであるフィーナにどう対応すべきか確認を取った。

「では魔物という前提で、光の上級魔法で目くらましを撃ちます。その間に周囲を確認しつつ、展開した後に各自攻撃して下さい。もし人だった場合は……最悪は殺してしまっても構いません。自身を優先してください」

 フィーナが仕切り、皆に確認を取る。例え人だった場合も、躊躇はするなという事だろう。
 皆武器を握り、頷いて構えた。

「では行きます……光子の雲と白き雨粒、輝き突き刺さる光の槍よ全てを眩ませ! シャイニーレイン!」

 フィーナは扉から半身を出し、魔法を詠唱した。

 彼女の右手の先が歪み、無数の光の矢が飛んでいく。
 真っ暗の空間だった広い通路に、光の矢が飛び何かに命中して閃光を放つった。白く照らされた広い空間に魔物の姿が映った。

 僕は飛び出しながら魔物を確認する。

 あの大きな猿は……ラージエイプ?

 この光の矢に殺傷力は無い。ただ刺さった瞬間に閃光を放ち、目を眩ませる。
 さらにはしばらく刺さったままで光を残す。
 灯りにもなるし、もしも敵の顔に刺されば視界を潰してくれる。

 強い光が収まり、敵の全貌が見えた。

「赤く大きいラージエイプが3体います! 普通のよりも強いから気を付けて!」

 僕は注意喚起しながら走り、囲む形を取る。
 そのラージエイプの一体は顔を手で覆って転げ回っていた。顔には光の矢が刺さっている。そいつに狙いを付け、矢を射る。

「ギャギャン!?」

「ガァァァァ!!」

 奥にいる他の個体は叫びながら床を激しく叩いていた。不可解な行動だと思ったが、すぐに理由がわかる。
 砕いた床を石飛礫にしていたのだ。

 巨体から放たれる石飛礫。加護の力で予知し、直撃するものだけ避けた。
 攻撃は物凄い風切り音を立て、顔の真横を石が飛んで行く。

 礫を投げた個体に矢を射返すが、軽く手で払われてしまった。いや、手の甲が硬すぎて矢が刺さらなかったようだ。

 暗がりから叫びが聞こえ、魔物は再び石飛礫を撒き散らしてくる。

「――プロテクションウォール!」

 フィーナの防御魔法を唱え、僕の前に半透明な壁が出現する。
 ガンガンと音を立てて散らばる石片。透明な壁にヒビが入るが、礫は全て防がれた。

「投石はこちらで防ぎます! 数を減らしてください!」

「任せて!火炎よ!焼き払え! ファイアーボルト!」

 僕のすぐ横でカヨは火の魔法を唱え、巨大な火球を倒れている個体にぶつけた。
 轟音と共に大猿は吹き飛び、燃え上がる。
 彼女はもう一度同じ詠唱を行い、吹き飛んだ先にもう一撃、火球を飛ばす。
 魔剣で減衰させていない全力の火球を、二発叩き込んだ。

 魔物はあと2体。

 リーナとディアスはかなり離れた位置でラージエイプと対峙していた。
 ディアスが魔法と剣で攻撃を受け流し、後ろからリーナが長い槍で間を縫って突き刺している。

 優勢とは言えないが、ディアスにはまだ余裕があるように見えた。
 あっちは任せておいて大丈夫そうだ。

 対峙しているもう一匹の魔物はフィーナの防御魔法を叩き割り、こちらに突進してくる。

「疾風よ!噴き飛ばせ!ウインドボルト!」

 カヨは敵に向かい、風の魔法を唱える。
 風の下級魔法は弾速が速く、かつ殆ど不可視。にも関わらずラージエイプはちゃんとそれを回避して距離を詰めてきた。

「前に出る!」

 僕は言うと同時に太刀を抜いて、魔物に向かって踏み込んだ。
 コイツは素早くて投石が厄介だ。だが拳で来られる限り、僕なら捌ける。
 前と違い、今は首切丸もある。

 大きな拳が僕を目掛けて振り下ろされる。体を横にずらし、交わす。

 初めて赤い大猿と対峙した時は、かなり腹を括って挑んだ気がする。今は何度も危険な目にあったお陰で、そこまで恐怖はない。

 避けざまに腿に一閃を入れる。
 肉を深く切り裂く感触があった。しっかりと振り抜き、深々と刀傷を負わせた。傷口からは鮮血が吹き出す。

 振り抜いた太刀の切っ先は、紅い結晶で彩られている。

「ギャ!?」

 振り回された拳をもう一度避け、少し距離をとった。

 対峙しているラージエイプは僕を睨みつけ、床を剥がして石を拾いだした。

 ……投石はまずい。

 そう思い、踏み込んだ瞬間だった。

「ハァッ!」

 短い掛け声と共に、カヨが大猿を背面から斬りつけた。
 彼女はいつの間にか、後ろに回り込んでいた。

「ガァァ!?」

 予想外のダメージに大猿は崩れながら、背後を振り向く。
 視線が切れた。

 僕はその隙を見逃さず、首筋に平突きを入れる。
 腿よりも柔らかい肉を切る感触の後、横に薙ぐ。

「離れて!止めを入れるわ! ――ファイアーボルト!!」

 瀕死の大猿は巨大な火球で焼き払われ、すぐに動かなくなった。

「ウガアァァァ」

 リーナとディアスが相手にしていた最後の一匹も、絶叫を上げていた。
 ディアスの剣が胸を切り裂いたのだろう。彼の剣が血に染まっていて、魔物の胸は大きく切り裂かれていた。

 これで目についた魔物は排除できた。
 深く息を吐いて刀を納める。

「まだ安心するのは早いですよ」

 皆が警戒を解く中、ディアスは剣をしまわず、通路の奥を見て構えていた。
 暗がりで先は見えないし、聞き耳を立てても足音らしきものは聞こえない。

 だが……

 ――キュイン!!キュイン!!

 またあの耳障りな音が聞こえ、火球が飛んでくる。
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