せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月

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第6章

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「突然のこと、申し訳なく思います。でも、どうしても気になってしまって」

応接室で優雅に座る王妃様はどんな貴婦人よりも優雅にお茶を一口飲んでから、ふわりと微笑んだ。が、その発言の内容がさっぱり掴めない。私と同じく腑に落ちない母は失礼にならないよう、そっと疑問を口にする。とはいえあまり社交に慣れていないので、結構直接的な質問だけど。

「いえ、当家のような場所においでくださり光栄でございます。ですが、突然の起こしに驚くばかりで。それに何が気になっておられるのかさっぱり……」

精一杯の母の疑問はしかし、隙のない笑顔を浮かべた王妃様に優雅にスルーされてしまった。

「この間、私的な親しいご婦人方をお招きしてお茶会を開きましたの。その際にグリンデル伯爵夫人がとても素敵なポーチを持ってらして。あまりに素敵なのでどこで買い求めたのかお聞きしたら、ご友人からのプレゼントだと。それはもう、本当に素敵でしたのよ。光沢のあるタフタに伯爵家の紋章にも使われるカタバミが意匠をこらした刺繍になっていて」

「はぁ…」

突然の話題転換にとりあえずの相槌で返してから、隣に座る母の様子が変わったのに気付いた。顔には貴婦人の笑みを浮かべてはいるけれど、膝の上に揃えられた両手は硬く握りしめられている。

「私どうしてもそのポーチが忘れられなくて、後日グリンデル夫人にこっそり聞きましたの。一体、それはどなたからのプレゼントなのかって」

「お、王妃様っ!」

「グリンデル夫人はとても迷ってらしたけれど、そっと教えてくださいましたの。ウェルデル男爵夫人がデザインされたものだって」

その反応に気付かぬそぶりで話を進めた王妃様は、制止しようとした母の言葉をもスルーして言い切ったけれど、それはとても気遣いのある話し方だった。
おそらく、グリンデル伯爵夫人もそうだったのだろう。

一般的にこの国の貴婦人は教養として刺繍を嗜むが、裁縫自体はしない。裁縫は労働だからだ。だから刺繍が得意なら貴婦人の鑑と持ち上げられ、裁縫が得意だと知れると懐事情が厳しいのだと影で嘲笑される。
もちろん我が家の懐事情が厳しいことは周知の事実だし、実際それを助けるために母は裁縫が上手くなった側面がある。だとしても、だ。それを高らかに言うことは憚られるのだ。
だから王妃様は、そしてきっとグリンデル夫人も、「デザインした」と表現したのだろう。実際に裁縫したのが母自身なことは承知の上で。

理解した母と私が小さく頭を下げるのを見てから、王妃様はぐっと身を乗り出して声を潜めて話し出す。

「そうしたら先日、クライブからウェルデル夫人はドレスのリメイクまで出来るって聞いて。私、矢も盾もたまらず来てしまったの」

至極真面目そうだった顔をくしゃりと崩して王妃様は少女のように笑った。
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