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36(コンラート目線)

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庭を散策した後ラーラの私室として用意した部屋でお茶にすると、彼女は隠すように小さくあくびを噛み締めた。

「恥ずかしいわ。今日は朝も寝坊したのよ?」

恥じらいながら言うラーラに「仕方ないよ」と説き伏せて、一旦休むように仕向けた。彼女の体調が最優先なので、まだ夕方なのにとの可愛い抵抗はこの際、無視だ。実際、さっきのアディール元婚約者との対峙は彼女の精神と身体に多大な負担をかけたのは事実だし。
添い寝をする勢いで髪と背中を撫でていたら、初めは恥じらっていた彼女もすぐに穏やかな寝息を立てた。

その姿に安堵して、額に小さく口付けを落として部屋を出た。あどけない寝顔をいつまでも見ていたい想いを断ち切るのは苦渋だったけれど、彼女との未来の為だと思い部屋を出た。向かったのは自分の執務室だ。

「礼を言う」

扉を開けてすぐ、室内で書類を整理していた侍従に声をかけると驚きと一緒に控えめな笑みを返された。

「お役に立てて光栄です。しかもわざわざお言葉まで」

持っていた書類を置いて深々と礼を取ったのは、俺が物心つく頃から仕えてくれている侍従。勿論影でもある。

今朝、朝一番にこの屋敷で咲く薔薇をラーラに届ける指示を出していた俺は、実際浮かれ過ぎていたのだろう。初恋が叶うと確信したのだから大目に見て欲しいとは思うが、そのせいで大切な人を危険な目に合わせたのだから言い訳はできない。

幼い頃からあまり感情を表さなかった俺が自分で初めて望んだ結婚相手ラーラを逃してなるものかと両親は朝イチにラーラの両親を呼び出して、今後の日程を詰めていた。心の底では王家との縁組を望んでいない伯爵夫婦でも、王直々に言われて断れるものではない。そこに現実問題として、侯爵家から婚約破棄されたことで今後はまともな条件の縁談が予想されればなおさら。ま、後は俺の本気を悟って逃げるのを諦めたのも理由か。

そうして両家で結婚までの諸々の日取りを決めている時に侯爵家からのふざけた手紙が来たのだ。4人の親達が怒るのも当然だろう。2人は娘をコケにされたと怒り、後の2人は王家をみくびっているとキレた。で、手紙を書いた侯爵夫妻を呼び出したまでが今朝の話。

俺は薔薇を受け取ったラーラの反応を見たいのと、侯爵の手紙でラーラが傷つかないか心配で伯爵家に行った。
しかも、さっさと解決してラーラに良いところが見せたい欲求に負けて、アルノーと一緒に出かけてしまった。本当、浮かれていたとしか言えない失態だ。

まかり間違えば、今頃ラーラはアディールによって取り返しのつかない傷を負わされていたかもしれない。それを思うと自分が許せなくなるが、今は自分を責めている場合じゃない。
それに、奴を見張っていた侍従が機転をきかせてくれたおかげで、間に合ったのだ。

「奴が出掛けた時、いつものように娼館にでも遊びに行ったと思えば今日のような行動は取れなかっただろう。馬車の方向を確認して伯爵家に向かう可能性があると知らせてくれたお陰で助かった」

もう一度感謝の言葉は口にすると、侍従は少しだけ困ったような顔をした。

「私は殿下が幼い頃よりお側に仕えております。ですからラーラ様の素晴らしさも、殿下にとってどれほど必要不可欠な方かも理解しておりました。私の働きがお二人にとってのより良き未来に少しでも関われているなら、それだけで幸せでございます」

そう言って、もう一度礼を取って取った。

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