オメガ判定は一億もらって隔離学園へ

梅鉢

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2年生編

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 2月の中旬には3年生達があわただしく退寮準備に追われ、そして少しすると気配すらなくなった。
 第弐の卒業式は他所よりも1ヶ月は早いためである。
 学園内の人口密度は下がりまくり、ただ快適だった。外敵がいなくなった草食動物の気持ちはこんな感じだろうか。寮内の空気も鉄格子から見る部屋からの景色も、いつもと何も変わらないのに不思議と清清しい。

 3月に入ると朝永も実家に帰省をし、3年もいなくなって多少は安全とふんでいるのか、購買や食堂は1人でも行っていいとお達しがあった。
 丸2年もここで過ごしているため耐性はついた。より新堂に近づいているのは自覚がある。

 ここ数日、継直は風邪をひき、部屋にこもりっきりのため1人で食堂へ行っていた。それでも食堂へ行けば椋地がいたため(自分だけの分を作るのは面倒らしい)、1人きりになることは無かった。

 今日は珍しく一緒に食べられるような人はいなかったが、永匡くんが俺を見つけておいでおいでと手招きをしてくれたので一緒にさせてもらった。

「先輩珍しいね、1人」
「13番が風邪ひいててさ。朝永もいないけど、椋地がいるから一緒に食べているんだけどさ。椋地は1人がほとんどだし、気が楽なんだよね」
「ああ、分かる。颯くんってすごく楽だよね。癒しだし」
「ふーん」

 癒し、とまでは思ったことがないけど、永匡くんにしたら癒しなのだろう。

「俺もホント、1人ぼっちだわー。警戒されまくってるし。俺のオメガはどこにいるんだろうなー」

 行儀悪く頬杖をつき、フォークを持つ利き手はパスタをグルグルと巻き付けていた。食べる気がないのか、パスタがまとまってもフォークを回していた。

「今年の1年オメガは少ないって言うしね」
「そうなんだよね。かと言って先輩達は良い人からもう契約済みになっていくしねぇ」
「好きなタイプとかあるの?」

 何気なく聞いた一言だった。
 変わったものなどない、よくある質問だとも思っている。
 だが、永匡くんはそれまでずっと動かしていたフォークを持つ手を止め、俺を上目遣いで見てきた。

「俺、男も女も大好きなんだよ。いいな、って思ったら性別は関係ないんだ。俺が好きだなと思えるかどうかが肝心で、そこに性別は存在していなくてさ」

 なんとも永匡くんらしい答えだなと感じて軽く頷いた。性別が関係ないということはオメガに対しても何の違和感も無く恋愛対象になれるというとこだろう。

「俺ね、颯くんが好きだったんだ。小さい頃。憧れ的な存在としてだけど。颯くんが大丈夫と言えば大丈夫だったし、大丈夫じゃないといえば大丈夫じゃなかった。颯くんはいつも預言者みたいだった。でも颯くんはいつも朝永くんといた。同い年というのもあったし、会話がなくてもいつもお互いの空間にはお互いを許しているような雰囲気だった。それがずるくて、悔しくてさ」
「あー、ちょっと分かるかも。今でもそんなときあるよね。あの2人ってもともと会話少ないし」
「でしょ。だから、朝永くんにいつまでも甘い颯くんなんか嫌い」

 これは可愛さあまって憎さ……ということでいいのだろうか。そこまで椋地を好きでいる永匡くんに驚きだが、椋地にはそれほど魅力があるのだろう。変わっていても良い人の部類に入るのは俺も知っているし。
 ふーん、と頷いていると、永匡くんは頬杖を突いたまま、俺と視線を合わせて右の口角だけ上げた。

「朝永くんしか見えていない先輩も嫌い。顔はキレイだし、それなのに嫌味なくらいのんびりしていて、あまり物事を知らない、わりと控えめな性格も好みだ。朝永くんが先輩に癒されているのも分かる。みんな朝永くんを選ぶんだ。どうしてだろうね。小さい頃から朝永くんの色んなものを壊してきたけど、朝永くんは「またか」とため息をつくだけだった。ここで朝永くんに愛されちゃっている先輩に無理やり何かをしたら、俺は殺されちゃうことは必須だ。やってみたくはある。死にたくないからしないけど」

 いきなりの物騒な内容に一瞬耳を疑うが、永匡くんの口元は歪んでいた。

「まぁ、総括すると朝永くんが羨ましいって話だよね。朝永くんになりたいんだ。小さい頃からアルファと思わせる言動をし、落ち着きの無かった俺とは大違いで。一つしか違わないのに、出来の違いは天と地ほどあったよ」

 つまりブラコンと言うことでいいのだろうか……。
 そして取ってつけたように「先輩が嫌いってのも、朝永くんが羨ましいだけだから。こんな美人捕まえておいて放置しちゃってさ」と言われた。

 そこでの話しがしばらく頭から消えることはなく、ずっと引っかかりを残していた。
 ただ、俺も朝永になりたい。朝永と精神的に混ざってみたい。その思考は自然と沸いてきた。永匡くんとは違うが、俺は俺で朝永になってみたいという思いが出てきたのだ。どう考えても朝永になれるわけも無い。そんなことは永匡くんだって俺だって、分かっている。分かりきっている。

 首に付けられた朝永からの黒光りするプレゼントを指先で撫で、自分の中の塊が溶けるのが分かった。




 3月29日、朝永にはこの日だけでも帰ってきてくれ、そして出来れば部屋の申請をしてほしいと頼み込んだ。
 誕生日なんて気にしなくていいのにと電話越しで笑っていたが、俺としては口実がほしかっただけだった。

 久しぶりにオメガ棟の入り口で出会った朝永は髪の毛を切っていて、耳たぶが見えていた。形のいいそこにかぶりつきたくなる。
 笑顔で「髪の毛似合ってる」と伝えれば、朝永は眼を見開きながらじーっと俺を見つめてきた。

「……冬休みの間、何かあった? 電話のやり取りに変わりはないと思っていたけど……」
「え、どういうこと。変わりないつもりだけど」
「いや、なんとなく、夜詩人の表情がいきなり大人びているから……ちょっとびっくりしただけ。可愛いのは変わってないけど」
「いや、俺は朝永より大人だし」
「日数だけね」
「それはでかいでしょ」
「まあね」

 納得できないのか、手を繋いで歩く間、チラチラと俺を気にする素振りをしていた。
 浮気も何もしてないし、何をそんなに気にすることがあるのだろう。大人びたって不思議じゃないと思うんだけどな。
 わざと子供っぽく繋がれた手をブンブンと振ってやれば、朝永は困ったように笑っていた。

 ソファに座った途端、押し倒された。いつもなら飲み物とか準備してくれるのにどうしたのだ。
 切なさそうに名前を呼んだくせに、俺の返事などいらないのかすぐに唇を合わせてきて。手は俺のシャツを割って入り、ゆっくりと撫でまわして来た。

「と、もながっ」
「……今日の夜詩人は別の人みたいだ」
「んっ、どういう、」

 毎日同じ俺だ。毎日同じ顔を見ているだけに違いなんて分からないけど、久々に会う朝永にとっては違いが分かるのだろうか、俺すら気づくことない違いが。
 朝永のさらりとした舌でゆっくりと上顎を擽られ、ふるりと肩を振るわせた。力が抜けて朝永の服を掴む手も緩んでしまう。
 荒くなった息使いの隙間から聞こえるカチャカチャとした音。朝永は俺のベルトを外しに掛かっていた。
 いつもだったらここで抵抗するところだが、今日はまた眼を閉じた。せっかく身を委ねていたのに、眼を閉じた途端、朝永は離れていった。しかし、いつかのようにひょいっと軽い感じで横抱きにされた。浮く感覚に慣れていなくて朝永の首にしがみついた。ちょっと懐かしさすらある。

「夜詩人が大人しいから調子が狂うな」
「どういうことだよ」

 ベッドに優しく落とされ、ふと最近考えていたことを口にしてみた。自分でも不思議だと思っていることを。

「朝永と俺の脳みそを混ぜてみて、形成しなおして頭の中に戻してみたいんだよね」
「は?」
「こうさ、一回混ぜてみてさ」
「……」

 泡立て器で何かを混ぜるよう、寝転がりながら空で腕をぐるぐると動かした。床に立っている朝永は、腰を屈めて俺の額にそっと指先を乗せる。眉を寄せてなにやら真剣な困り顔だ。

「いや、熱とかないし」
「それなら良かった」
「まあ、朝永がすごく好きってことなんだとは思うんだけどさ」
「……そんな話だったかな」
「そんな話だね」

 困惑気味の朝永をじっと見上げていると、朝永も俺を見つめてきた。下から見るアングルだというのに顎のラインも完璧で、ただ顔面の良さに見惚れてしまう。
 シャツを脱捨てた朝永は片膝をベッドに乗せ、ベルトを緩ませていた。一つひとつの仕草にも見惚れ、俺の好きな人って鎖骨の影も、腹の割れ方も男のくせになんて色気があるんだろうと不思議になった。

「……誕生日おめでとう、朝永」
「ん、ありがとう」

 忘れていたわけではないけど、言うタイミングを逃していた。今がタイミングとも思えなかったが、お祝いは言いたかった。
 両手を伸ばすと朝永は嬉しそうに俺に覆いかぶさってきた。
 朝永のしつこいキスを受けて力が抜けていく。朝永にしがみ付いていた手もシーツへ落ちていた。酸欠から解放されたときにはシャツが胸元までたくし上げられて、下も中途半端に脱がされている状態だった。
 自分の心が受け入れ態勢になるとここまで委ねられるのかとちょっと感心してしまう。

 執拗に首を舐めている朝永。乳首を爪で弾かれたり、優しく摘まれたりすると腰が落ち着かない。もぞもぞと青虫のように動きたくなる。
 小さく声が漏れてしまって思わず手の甲で口を押さえるが、朝永はゆっくりと状態を起こして俺の腕を口元から外させ、黒い瞳に艶を含ませて俺を見下ろした。

「今年は、俺の一番欲しかったものがプレゼントでいいわけだよね? どういう心境の変化かは分からないけど、こうやって俺にエロい顔向けて、今も襲われそうになっているのにそれなりの余裕があるということはそういうことで良いわけだよね? こんなチャンス絶対に逃さないから、なにがあっても止めてあげない」

 返事などいらないのだと言わんばかりに捲くし立てられる。代わりに俺は静かに目を閉じた。


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