33 / 112
第二章
7
しおりを挟むあさってに学園祭をひかえ、準備に慌しくなってきた。放課後の生徒達も大会が近い一部の部活のやつら以外の生徒は学園祭準備に追われている。
衣装作りで被服室は連日ごった返しているし、調理室もいつになく賑やかである。
チケットを売りさばく生徒も見かけるようになった。前売り券はちょっと安くなるから出来れば買っておきたいけど、確実に行けるかといわれれば怪しいから迷ってしまう。
北村と並んで生徒会室に向かう。
渡り廊下を通って3棟へ行く途中、こちらをチラチラ伺いながらもじもじとしている生徒が2人いた。学年章の色が3年だった。
1人はチケットを持っていて、一人は集金袋なのかでかいがま口を首にぶら下げている。
二人とも決してかわいいとは言えない風貌で、しかしもじもじとしていて薄気味悪い。
知っている奴でもないのでそのまま2人の前を通り過ぎようとすると、やっとそこで「あのっ」と声が掛けられた。
北村が真面目に「なんですか?」と返すが、俺は無言で振り向き、無意識で北村の影に隠れた。
頬を赤らめて北村を見上げるが、どうしてそれほど男にときめかれるのかまったく不思議。
「あの、俺たち学祭でクレープ屋をするんですが、チ、チケットどうですか?」
「ああ、クレープのチケ。俺はいらないです。佐野は?」
「いらね」
「そ、そうですか。すみません、お時間をいただいて。当日も買えるので、ぜひ」
「はい、お疲れ様です」
クレープ。
行きたかった模擬店の一つだったが、なんだかあいつらと会いたくないから行かないことに決めた。
だいたい年下の俺たちになぜ敬語なのか。2人の挙動不審も手伝って、不信感しかなかった。
俺はそれほど人見知りもしないけど、知らない奴とは必要以上にしゃべりもしない。今までに何度か連れ去られようとしたことなどがあったせいだろうけど、本能が“無理”と感じた人間はどうしても無理なのだ。
3棟に入ると急激に人の気配がなくなる。
そこでちょっとほっと息を吐いた。
「そういや北村んとこなにやんの?」
「コスプレ写真館」
「ああ、それ北村のクラスなんだ」
「コスプレが趣味のやつらがいっぱいいたみたいで、知らない間に決まっていたんだ」
知らない間に決まっていたとか、俺と一緒で笑えた。
でも隣のクラスだったら安心だ。
「どんな衣装があるんだ?」
「え、佐野、興味あるの?」
「まあ、ちょっと」
あまりにも北村が驚くものだから、俺は変なことでも言っている気がしてくる。
「気ぐるみとか着てみたいじゃん」
「ああ、もふもふ?」
「もふもふ」
「気ぐるみもあるけど、肉襦袢もあったはず。でも女物とゲームものが多いって言っていたけど。あと特撮か」
「結構本格的だな。割引とかないの?」
「あるよ、ちょっと待って」
北村は立ち止まり、かばんの中から財布を取り出した。
長財布の札入れから小さな赤い紙を数枚取っては俺に寄こした。
「これ、割引券。クラスの奴らに1人3枚ずつ配られたんだけど俺いらないから」
「おおー。半額割引じゃないですか。衣装1枚につき写真1枚のセットで1000円、のこの券で半額ね。サンキュー」
「ヘアメイクもプロを頼んでいるらしいし、写真も写真部が張り切っているから、それなりにまともらしいぞ」
「お前のクラスはやる気まんまんだな。うちと違って」
「佐野のとこなんだっけ」
「サッカーワールドカップ垂れ流し。しかも予選から」
「ああ、そうだった」
やはり苦笑せずにはいられない。このやる気の違いもクラスの色だ。
良いも悪いもない。
そういえば当日は吉岡と一緒だが、吉岡はコスプレとかするだろうか。
絶対しなだろうれけど、誘ってみて反応を見るのも楽しそうだ。
焦ることもなさそうだが、嫌そうな顔はれられるかな。
「カナタなんてノリノリでさ、コスプレしたまま見回りするなんて言っていたな」
「そんなんで動けるのか?」
「動きやすい服装は選ぶと思うけどな。でもみんな喜ぶんじゃないのか。カナタのコスプレ見れて」
「好きな人にはたまらないだろうな」
あいつなら何を着ても似合うことだろう。うらやましいかぎりだ。
俺と吉岡で1枚ずつとして、まぁ吉岡はしないだろうけど一応とっておいて、あと一枚ある。
渡部あたりにでもあげようかな。
あいつもノリがいいほうだから、喜ぶかもしれない。
11
あなたにおすすめの小説
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる