生徒会書記長さん

梅鉢

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第二章

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夜、渡部の部屋に行くため、生徒会専用の玄関から脇道へ出て一般寮棟へ向かう。
この一般寮棟はA~C棟に分かれていて生徒会の棟とは玄関も違うため、俺たちは誰がどの棟にいるのかもよく分からない。
一般寮の玄関口でカードキーを差し込む。役員のカードキーで一般寮棟に入れても、一般寮にいる生徒のカードキーでは生徒会寮へは行けない。だから生徒会の寮は静かだし本当に快適。

久しぶりの一般寮はそれほど汚くもなく、しかし思春期の男がわんさかといるわけだからそこかしこから特有の男くささがして思わず息を止めてしまった。

エレベーターに乗り、2階へと向かう。降りてすぐに渡部の部屋がある。
早く出て欲しいため、コールを3回押して「俺でーす」とドアに向かって叫んだ。

扉が開くが、いたのは渡部ではなく同室の相方、朝日山だった。
名前とは裏腹に華奢な彼は、人懐っこい笑顔で迎えてくれた。
可憐、そんな言葉が似合うかもしれない。

「渡部、今風呂に入っているんだ。入って待ってる?」
「ありがとー。そうさせてもらおうかな」
「どうぞ」
「おじゃまします」

共有スペースであるリビングに通されるが、そこかしこに雑誌や服、健康器具やらダンベルなどが投げられていて部屋全体が雑然としていた。
ゴミがないから、変なにおいはしないけど来るたびに汚くなっているような。

「ソファにでも座ってて。飲み物持ってくる」
「ありがとー……」

ソファに座れというが、座るスペースはどこだろう。
重なった服をどかし、ひとり分のスペースが開いたところでちょこんと座った。

「ごめんねー汚くて。俺も渡部も部活が忙しくてさ、気がついたらこんななってることよくあるんだ」
「そ、そっか」

はい、と渡されたペットボトルのお茶を受け取る。
汚い部屋での飲食は既製品のほうがありがたい。
コップでお茶をもらっても、そのコップは大丈夫なのかとハラハラしてしまう。

「さすがにちょっと片付けるか。こうやって誰か客でもこないと片付けるのも面倒でさー」

愚痴のようにこぼし、朝日山は雑誌を集め始めた。
俺も周りの服なんかを集めていると洗濯済みなのかいい匂いがした。こんなに適当に投げられているのに洗濯済みなんだろうか。

「これ、洗濯済み? くさくないけど」
「あーそうそう。乾燥機掛けて面倒だからそのへんにおいておくんだ。着たいときに着たいものを着ていたらあちこちにちらばっちゃって」
「乾いたらすぐにしまおうな」
「寝るの優先してたからさー」

えへへと音が聞こえそうな笑顔を向けられる。なんだか憎めない。
去年のミスコン予選で6位だった朝日山。今年は上位5人に残れるんじゃないだろうか。

コンテスト予選は午前中に行われ、ポイント制で決められる。
生徒1人1ポイント持っており、専用の機械にカードキーを差し込んで投票する。役員は1人10ポイント。だから役員1人が入れただけで一般の生徒10人分に値する。
役員のさじ加減でいつでも逆転可能だが、ほとんどの役員は投票していなかった。俺も去年は参加していなかったけど、今年は朝日山にでも入れよう。

上位5人に残れば、午後から体育館で意気込みを語り、その後体育館の端に置かれたボックスに直接投票する。
そして夜に発表となって学園祭終了だ。

朝から夜まで忙しい。
でもその忙しさも来年はないと思うと少し寂しいものがあった。

もくもくと部屋を片付けていると、茹で上がった渡部が髪の毛をタオルで拭きながらリビングにやってきた。

「何してんだ、佐野」
「お前に用事があったんだけど、なんか掃除手伝ってるわ」
「サンキュー」
「いや、普段からちょっとずつでいいから掃除しろよ」
「そうだよね、ごめんね、市也くん」

二人とも綺麗好きじゃないと散らかるのもあっという間なんだろう。
突っ立っている渡部に服の山を渡す。

「たためよ、どれが誰の服とか分からんし」
「あー、はいはい」

しぶしぶといった表情で、服の山を床に置いて自信も座った。1枚1枚丁寧にたたんでいる姿を見て用事を思い出す。

「A組さ、コスプレ写真館やるんだって。割引券もらったから渡部にやろうと思ってさ」

ポケットの中から赤い券を渡し、受け取った渡部はそのまま持つ手を朝日山に向けていた。

「アサヒが行けよ。コスプレしてミスコン5人に残るよう目立てばいいじゃん」
「えーまじ」

若干引きつった表情でいる朝日山は、少し考えて赤い件を受け取った。

「今年の賞品って何?」
「ん? ミスコン?」
「うん、去年は半年間“外出自由券”だったから今年はなんだろうと思って」
「いや、俺はわかんないなー。まだ俺らにも発表されてないから。松浦は知ってるかもだけど。当日の発表で俺らも知ると思う」
「そうなんだ。じゃー賞品次第で頑張るとしようかな。市也くん、この割引券俺がもらってもいい?」
「いーよー。余っているやつだから、使う人がもらってくれれば」
「ありがとう」

それほどやる気があるようにも見えない朝日山だが、やっぱり賞品に釣られたりする生徒もいるんだなと確認できてよかった。
確かに去年の外出自由券は人気があった。いつでも好きなときに申請なしでの外出が出来る。申請をしても寮長がいなければすぐに外出することも出来ないし、場所や期間によっては一週間以上前から申請しなければならないこともあった。

しかし、外出自由権もただ一つ条件として、一定の内申以上の生徒に限る、とされていたけれど。素行の悪い奴らは変わりに半年間食堂タダ券に変更される仕組みにしていた。

でも盛り上がるには何かしらのモノないとダメなんだな。勉強になる。
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