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第二章
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しおりを挟む「おい、いてーし!」
少し大きめの声で非難するとパッと腕を離された。
「投票所で言い合いしたら他の人に迷惑かと思って。すみません」
さらりと謝られて面を食らうが、俺が言いたいことはもう一つある。
「ミスターコンならまだしも、ミスコンてなんだよ」
「なんとなく。焦る佐野さんが見られるかなって」
焦る俺?
なんだか吉岡じゃない答えをもらった気がする。吉岡ってこんな奴だっただろうか。
イラつきで寄せていた眉間の皺は、今度は考える形での皺になった。
吉岡はほんの少しだけ右の口角が上がっていて、若干楽しそうにも見えた。
「……なんかお前、性格悪い?」
「良いと思ったことはありませんね」
シレっと言い放ち、「たこ焼き食べるんですよね、行きましょう」と何でもなかったよう俺の背中を押した。
なんだろう、南とは違う意味で振り回されている気がする、俺。
でも俺が5人の中に入ることはないだろうと思い、たこ焼きを目指した。
3年生は模擬店が多く、廊下は色々な匂いで複雑になっていた。いい匂いなのか、そうでないのか。
でもたこ焼きのクラスに行くと小麦粉の焼けた匂いとソースの匂いで小腹がすいてきた。
ここでも数名並んでいるが俺が後ろにいると知ると、また海が割れて遠慮なくたこ焼きを注文した。
「さ、佐野ちゃん! かわいい子にはサービスしちゃうからね!」
長いことこの学園にいるから顔は見たことあるけど名前までは分からない上級生に「わーありがとうございます」と棒読みで礼をした。出来立てほやほや、しかも山盛りにしてくれた上に「御代はいらないよ!」なんて言われ。これまた遠慮なくいただいてきた。
歩きながら熱々をほおばる俺に、吉岡は「佐野さんて外見のわりに結構図々しいですよね」と呆れた声を出していた。
「“どうぞ”って言われたら“ありがとう”で好意をもらっておけばいいじゃん。スムーズだし」
「まぁ、そうですね」
「書記長補正がすごいんだわ。吉岡も来年なればよく分かるかもよ」
「そうでしょうか」
「吉岡も食うか? これ、1.5人前あるし」
くしに1つ刺して吉岡に向けた。
向けたが、吉岡は食べないと思った。こんな人が行き交う廊下で、人からの食べ物を“あーん”する形でなんて。
たこ焼きを一瞬見ただけで、吉岡はその先の俺に焦点を合わせてからジッと見つめてきた。
窺うような鋭い視線にちょっと怯んでしまって、体を引くが吉岡の視線は痛いほど俺にあった。
なんなんだよと思っていると俺を見たまま、パクっとたこ焼きにかぶりついた。
吉岡が食べると思わなくて少し焦ったが、それ以上に眼鏡から覗く切れ長の眼が近くなってさらに焦った。
思わずくしを離してしまう。
「……うん、思ったより美味しいですね」
「え、ああ、うん、そうね」
曖昧に答えて、吉岡がくしを寄越すから受け取ったがなぜかまともに吉岡を見られなかった。
気まずいわけでもないし、恥ずかしいわけでもないけど、なんだか自分でもよく分からない。
ちらっと横目で吉岡を見れば、俺の視線に気がついたのか俺を見たままぺろりと唇をゆっくりと舐めた。
唇の隙間から覗いたそれに、妙な色気を感じてしまって鳥肌がたった。
そうだ、こいつは真面目な外見のくせに時々色気を溢れさせていることがあるんだった。
年下の癖に俺よりも男の色気を持っているだなんて憎たらしいやつ。このよく分からない気持ちはきっと嫉妬かもしれない。
俺にはないものを持つ吉岡に対しての嫉妬。
そう考えれば少し心が軽くなった。
たこ焼きを半分残して北村への土産にすることにしてモニタールームへ戻った。
部屋には北村と青木、そしてモニターを確認している実行委員が2人の4人しかいなかった。
「ただいまーこれ土産」
「ありがとうって食べかけかよ」
「まぁそういわずに」
「まだ温かいな」
たこ焼きを北村に渡し、テーブルに置かれた記録用紙を確認すると真っ白だった。何事もないって素晴らしいね。
たこ焼きにくしを刺す北村の横に座り、置かれていたペットボトルのお茶を飲んだ。喉がカラカラだったせいか一気に半分ほど飲み干してしまった。
「北村も青木も回ってくれば。色々あるよ」
「いや、いいな。本を読んでいるほうが楽だし」
「俺もとくに行きたいところはないので」
「そうか?」
二人とも祭りごとに興味はないらしい。
手持ち無沙汰でお茶をチビチビ飲んでいると実行委員の1人が「あ」と声を上げた。
後ろにいた俺たちは一斉に顔を上げて注目した。
実行委員は上の方のモニターに注目し、そのまま画面の切り替えをストップして流れる映像を凝視していた。
北村は本にしおりを挟んでテーブルに置き、実行委員に近づいた。
「どうした?」
「3番です」
モニターには番号が振り分けられてあり、上の段の3番と書かれているモニターに注目する。14インチと画面が小さいため、数名の生徒が群がっているところしか見えなくて、俺も立ちあがってモニターに近づいた。
荒い映像を眼を凝らして見てみると、4人の男が集まって腰を下ろして何かをしていたが、その隙間から白いものがバタバタと動いていた。
「多分襲われていますね」
実行委員が冷静な声色で言うから思わず「え!」と声を出してしまった。さらに冷静な北村はすぐさま「場所を風紀に連絡しろ」と青木に支持を出している。
俺は未だによく分からなくてモニターを見ると、確かに男達は何かを押さえつけているように見えた。そんななか、1人が勢いよく腕を動かしていて。時折見える隙間からは確かに組み敷かれた生徒がいることが分かった。
そしてその生徒は白い服装を着ていて、動いていたのは服装の白だったのかと知った。
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