生徒会書記長さん

梅鉢

文字の大きさ
97 / 112
第五章

11

しおりを挟む
吉岡の口を塞いでいた手に吉岡の手が重なる。捕まれた手はゆっくりと離されてシーツに縫い付けられた。
現れた吉岡の形のいい唇。

「好きです」

目の前の吉岡は目を細め、ふわりとした笑顔を向けてくる。
口を半開きにしてアホ面晒しているだろう俺は吉岡が放った“好き”という言葉を脳内でリピートしていた。

すき、すき、すき

ヤりたいがために騙されていないだろうか。
大抵の男ならこの状況で「好き」と言ってヤらせてもらうだろう。言葉なんて安いものだ。簡単だ。健全な男子高校生なら目の前に性的対象がいたら相手の欲しい言葉くらいならなんだって言えるだろう。男なんて所詮そんな悲しい生き物だ。

好きと言われてもどこか逃げ道を用意して傷つかないようにしてしまう。これが真剣なものなら本当に失礼な話なわけだし、底の方には信じたい気持ちしかない。

吉岡がずーっと優しい笑顔でいてくれるから、目を逸らさずにいてくれるから、信じてもいいんだよな。

「誰かを好きになったことがないので分かりませんけど、きっと、俺は佐野さんを好きなんでしょうね」

似たもの同士かよ。

「……俺も誰かを好きになったことないから恋愛感情がいまいちなんだけど……でも、お前がバスケ部のやつと一緒にいるところを見て苛々したんだ」
「焼き餅ですか?」
「……認めたくなかったけど」
「認めたんですか」

本当に嬉しそうに笑う吉岡は少し幼く見えて、初めてかわいいとさえ感じた。そしてなんでか涙が出そうになっているあたり俺はこんなに情緒不安定だったかと苦笑した。
瞬きをしたら右目から一すじ、涙が伝う。思っていた以上に眼のふちにたまっていたらしい。
それを見た吉岡は少し困ったように首を傾げた。

別に悲しいわけでもなんでもねーよ。

いつもより表情豊かな吉岡がやっぱりかわいいと思えて、目の前の困っている年下野郎の首根っこを捕まえて引き寄せた。
唇を合わせる。
吉岡の唇は少し冷たくて熱くなっている俺には気持ち良かった。

「アイツの家と近所なので幼馴染みというか腐れ縁のようなもので、……そうですね、今では弟みたいなものです」

頬にキスをされ、白崎について話をしてくれた。
ただのクラスメイト、幼馴染みにしては俺に対して敵認定してる風だけど。でもそれを言ったらなんだか自分が情けなる気もして言いたいことは飲み込んだ。

「吉岡に気がありそうな雰囲気感じたけど、幼馴染みなのか」
「あー、まあ、そうですね。何度か告白は受けていましたけど好きにはなれないので断っていました」
「やっ……」

やっぱり、という言葉を途中で飲み込み、なぜ断ったのか聞いてみた。吉岡は少し驚いたように眉を上げた。

「なぜって、弟のような相手に恋愛なんて考えられないでしょう。まず欲情なんて出来ませんね」

もっともな話しでもある。それでも諦めきれなくて白崎は一緒にいるのか。
ちょっとだけかわいそうにも思えてくるから不思議なもんだ。
いや、それは吉岡が俺のことを好きと言ったから気持ちの余裕で生まれたものだな。

「吉岡がなにも思ってないのならいいんだ」
「……最近、アイツと食堂にいたのも佐野さんを見たかったからと言ったら信じますか?」

ああ、そういえば急に食堂で見かけるようになったんだった。俺は勝手に嫉妬していたけど、吉岡は俺を見に来ていたのか。
俺たちはなんて馬鹿馬鹿しいんだろう。

「ま、信じた方が楽だよな」

微妙そうに笑う吉岡の後ろ頭を掴んで引き寄せた。ちゅ、と音を立てて下唇を啄んだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...