できそこない

梅鉢

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 はあはあと息を荒くし、胸元をぎゅっと握る。熱くて苦しい。その場にごろりと倒れてしまいそうなほど頭の中も体もぐらぐらしていた。
 愛しい人の冷たい視線。自分にむけられていると思うと怖くて逸らしたいのに逸らせないでいる。深町から受けるすべてが刺激だった。熱に浮かされた眼でただ映していると、ふわりと深町の表情が和らぐのか分かった。なぜそうなったかも分からない。考えることもできない。
 優しく伸ばされた腕がただただ嬉しくて、しがみつくことしか出来なかった。



 抱きかかえて連れて行かれたベッドにそっと体を落とされる。深町は床に腰を下ろし、ベッドに肘を突いて今井の髪を撫でた。
 優しくなった深町の表情は変わらない。発情している自分を目の前にして欲情している様子も、これから乱れそうな雰囲気もない。何もしないのだろうか。
 今井は性的な仕草で触られているわけじゃないのに、撫でられるたび体の奥が疼くほど敏感になっていた。深町がくれる、ちょっとしたことすべてが快感に変わる。中心はもう張りつめていていつ射精してもおかしくないほどだ。
 懇願を込めて自分の頭を撫でている手を掴んだ。また触れた指先がピリッと甘く痺れ、とろけた顔で眉を顰めた。何度も及んだ深町との行為に体が覚えているのだろう。
 自分は噛まれているわけでもないのにすでに深町にしか反応できないんじゃないかと錯覚してしまう。発情中、意中のαが目の前にいたらそんな思考も仕方のないことかもしれないが。

 そんな今井を知ってか知らずか、困ったように眉を下げた深町はふう、と一息ついて口を開いた。その冷静さが恨めしい。

「そう睨まないでよ。これでもみのるの匂いは分かるし体も反応しているんだから。俺にとっては誰よりも魅力的な匂いなんだ、唯一の。ただ昨日は抑制剤を飲んでいるからこうやって理性が勝ってしまっているけどね」

 理性がどうの、など今井にはどうでもいい。前回の発情期のようにどろどろにして欲しい。
 目の前には発情を煽る深町が。我慢の限界などとっくにきていた。右手では深町の手を離すまいと握り締め、左手を使って前を寛げ、先走りで濡れたペニスを取り出して皮を使って扱き始めた。
 今井のフェロモンでムッとした空気が充満する。そして掴んでいた深町の手にそっと唇を寄せ、一番長い指を口に含んで舌を絡ませた。いつも行為自体には消極的な今井からの誘いに深町は目を瞠った。

「……はっ、……んっ、んっ」
「そうきたか。……さすがに俺もクるわ、それ」

「別に意地悪をしているわけじゃないんだ。自信がなくなったし、みのるに色々悪いことをしたなって反省していたんだ。……でも、こんなときにする話ではないな」ぼそぼそと深町がつぶやいたが今井には音としてしか認識できずにいた。
 ベッドに乗り込んできた深町に今井は体中が歓喜するのが分かった。耳の後ろをゆっくりと舐め上げられ、それだけのことで体を震わせ白濁を飛び散らせた。
 性急に服を剥ぎ取られ、深町に触れられたどこもかしこも気持ちがいい。

 たいして触られてもいないのに受け入れる孔はぐちょぐちょだ。臀部を撫で、そして長い指が誘われるように窪みへ移動し、濡れそぼったそこへ入ってきた。いい所を指の腹で押すように揉まれ、背中を逸らせて喘いだ。内股をビクビクとさせて勢いなく白みがかった液が勢いもなくとろとろと鈴口から溢れでた。

「あっ、ああっ、ああっ、んっうぅ」
「どうしようか、みのる。もう俺の指だけでも十分みたいだね」

 肩で息をし、呼吸を整えていると「今日はセックスやめておこうか」と耳元で囁かれる。深町だって前を張らせているのに信じられないという思いで、覆いかぶさっている深町を見上げた。二度も達しているのに全然おさまることのない高ぶりを早くどうにかしてほしい。

「やだよ……して、してよっ」
「そう……。なんだか、同じ事を繰り返している気がするなぁ」
「りく……陸っ、入れて……」

 ぎゅっと逞しく引き締まった体を抱きしめると下のほうでもぞもぞと動き、両足を大きく広げられた。膝裏を押さえられ、固定したところで欲しくてたまらなかったものがひくつく窄まりに宛がわれると一気に挿入された。
 声にならない悲鳴を上げ、体の内側からくる快感に腹筋が痙攣した。発情中の深町とのセックスはすでに麻薬と化していた。

 硬くて太いペニスが自分の内側を擦るたび脳からつま先まで、全身に痺れるような快感が廻る。それが愛しい人のモノだと思うと心の中まで満たされる。あれだけ冷静だった深町も始めはゆっくり出し入れしていたが、昂ってきたのだろう、腰の動きも激しくなり呼吸も荒くなっていった。

 四肢を投げ出して深町に委ねていたが両手首をそれぞれシーツに縫い付けられ、真上からジッと色に染まった視線が降りてきた。はしたない声で喘ぎっぱなし、感じている表情だって絶対恥ずかしいものだ。羞恥がさらに快感を呼び起こしてしまい、唇をかみ締めて耐えようとするがわざと良いところを擦ってくる深町。揺らされた体のリズムと一緒になって声は溢れてしまった。

 ずっと顔を見られっぱなしのまま弱い部分を攻め立てられて1度達した。強い快感が過ぎ去り、閉じていた瞼を上げると捕食者の瞳がまだこちらを見ていた。中にいる深町も先ほどより硬くなってきている。そろそろだろうかと深町の引き締まった腰に無意識に足を絡めた。するとぎゅっと抱きしめられ、動きが緩慢になるが達した様子もない。

 深町自身でイかされたこともあり、熱病のように感じた頭の熱さや体の疼きも少しだけ和らいでいる。深町を受け入れているだけでも今井にとっては満たされるものがあった。力強い抱擁は意識がまだ混濁している中でも胸を締め付けられるようにどこか切なさを感じた。もうお互いの表情は見て取れない。

 今日、発情した自分を見たときの深町のあのショックを受けたような表情から何を思っていたのか何を考えたのかは分からない。だがこれまで好きといってくれたことは、自信が持てない人間である今井に少しだけ自信をつけてくれた。そして自分の気持ちにも折り合いを付けることができた。
 しかしその暖かな時間はずっとお腹を気遣い、子供ができたかもしれない体を大切にしてくれていた、ということを忘れてはならない。きっと子供が欲しいのだと思うが、それについては今井と話し合ったものでもない。
 深町の優しさは十分すぎるほどだったし、気持ちも伝わっている。でもそれがずっと、ずっと自分の心をひどく傷つけてきたし引っかかってきたことだった。


 なぜ孕ませようとしたのか。
 孕ませてどうしたかったのだろうか。
 項も噛んでくれないのに。
 今なら聞けるだろうか、言っていいのだろうか。
 傷ついてしまうだろうか。――傷つくのはどっちなのか。



 ぼんやりとする頭の中でぐるぐると考える。大事そうに抱きしめてくれる深町に“自分もそうである”と思いを込めて抱きしめ返した。
 決して細くない逞しい背中がピクリと反応し、そして腰の動きが再開された。

「あっ、りく……りくっ」

 奥を突かれてまた疼き始める。激しくなる腰使いに必死で深町にしがみついて名前を呼んだ。耳の傍で熱を孕んだ息がかかり身を捩る。唇が合わさり、舌先が触れた。眼を閉じて甘いそれを夢中で吸った。深町から流れてくるものをコクリと喉を鳴らせて飲む。深町以外なら絶対にありえない行為。
 小刻みに揺すられ、思わず深町を締め付けた。そして息が出来ないほどきつく抱きしめられたと思ったら深町が力強く最奥へと腰を数回打ちつけた。口付けから漏れる荒っぽくて男らしい深町の声にうっとりしてしまった。


 体の奥で精を受けたことで先ほどよりも頭がスッキリしている。
 今の深町の顔を見たくなり、圧し掛かる体を離そうと深町の肩をそっと押した。今井の動きに逆らうことなくシーツに手を置いて深町はゆっくりと上体を上げた。

「……りく?」

 驚いた。今にも泣き出しそうに目元を赤らめ、そして瞳が潤んでいる。先ほどまで泣きたかったのは自分のほうだと思ったが言えなかった。いつでもαらしく堂々として、格好よくて、優しくて。そんな彼が情けなく眉を下げて泣きそうになっているなんて。

「ど、ど、どどどうしたの?」

 自分で思っている以上にこの深町に驚いているのかどもってしまった。眉の位置に変わりないが深町は力なく口元だけで笑った。

「また中に出しちゃったなー、と思って」
「うん、まぁ、それはいいけど……」
「ごめん。ごめんね、みのる……」

 以前の発情期に散々中で出しておいて今更だろうに。
 そうだ、番にもなっていないのに孕ませることを目的とした深町の行為は何を意味していたのか。今の深町は見たことがないくら弱々しい空気を纏っている。堂々としたものが一切ない。逆に守ってあげたくなるくらいだ。

「あのさ、深町、聞きたいことがあるんだけど」
「なに。出来れば名前で呼んで」

 こんなときに面倒くさいな、と思っているとまた覆いかぶさってきてぎゅっと抱きしめられた。表情が分からなくなったが、きっと見られたくないのだろう。首筋に鼻をすり寄せて深く呼吸をされてその刺激にまたお互いの熱が再燃する。中にあるモノが大きくなり、腸壁を押し上げられて背中をぶるっと震わせてしまった。

「んっ……。ああ、もう……。話したいのに」
「仕方ないだろ。とりあえず動くのは我慢するから。何? 聞きたいことって」

 声色から、どうやら通常時にもどりつつあるなと感じたが今じゃないと言えない気がした。

「どうして……」
「どうして?」
「……陸は子供が好きなの?」
「子供? まぁ、それなりには好きだと思うけど」

 聞きたいことはこれじゃない。遠まわしすぎてこれでは気持ちも分からない。目の前にある深町の首筋から漂う匂いにクリアだった頭がまたぼんやりとしてくる。

 好きだと何度も言われた。深町が優しく体を気遣えば遣うほど薬を使ったことに罪悪感がわいた。
 番になりたい、結婚したいと言われたことはない。気持ちは聞かせてくれるが将来をどうしたいなんて話に出たことがない。もしかしたら子供が出来ているかもしれないという状況のときにでも、話など一度もなかった。

「あの日、誕生日の日、深町が帰ったあとにアフターピルを使ったんだ」

 のし掛かる体がピクリと小さく跳ねた。何か言われる前に言葉をつなぐ。

「だ、騙していた訳じゃないんだ。もちろん、俺の体調を気遣って優しくしてくれた陸を笑っていた訳じゃない。まだ俺は学生なんだよ。陸もそうだ……」

 部屋に充満している匂いに深町の匂い。少しずつ理性を無くしそうになるのが分かる。そこで「はぁ」と艶を含んだ息を吐いた。

「なぜ、なぜあんなに俺に子供……んっ、んぅ」

 言い終わるまえに強かった深町からの拘束が弱まり、身じろぎされて変な声を出してしまう。起き上がろうとした雰囲気を察し、今度は今井が力強く深町を抱きしめた。今、自分の顔を見られたくないのは今井の方だった。

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