18 / 20
18(深町5)
しおりを挟む深町視点
今井に首を噛まれた。遠慮なく噛んだのだろう、すぐに離れたが痛みはかなりのものだった。それだけでも今井の本気の何かを感じた。
珍しく感情が爆発している今井をどうあやそうかと考えるが、今井からは答えらしい答えもなく伸ばした手も振り払われた。それでも構わず頭を撫でてみると顔を涙でぐちゃぐちゃにさせながら深町に対する不満を漏らした。
それは至極もっともな話で、後に自分でも引っかかっていたところでもある。ただ、誕生日のときに気持ちを伝えたことで満足をしたのは確かだし、今井の態度からも自分を好きなのは分かっていた。だから今の状況はお互いにとってそれほど不満のあるものだと思ってもいなかった。
しかし発情期のきた今井に勝手に落ち込んだのも本当だし、学生である今井の立場も深く考えずに孕ませようともしてしまっていた。
「好きだとは聞いた。でもそれだけだ。陸が好きだと言えばきっと誰もが喜んでその気になるだろうな。俺もそうだよ。でも好きだと聞いてもお前の考えていることなんて何一つ俺には分からない」
もともと口数の多くない今井が一生懸命、今まで言いたくても言えなかっただろう思いを自分にぶつけている。これが今井にとっての精一杯の告白なのだろう。深町がゆっくりと近づいては踏み込もうとしてもあれほど内側を見せずに、むしろすきあらば離れようとした意図を常に滲み出していた今井の、精一杯の。
驚きはしたがそれは嬉しい変化だ。
もしかしたら今井のほうが真剣に2人のこれからを考えてくれていたのかもしれない。やはり自分は考えが甘く、浅いのか。
「……そっか……」
ぽつりと呟くと、険しかった今井の表情が少しだけ緩んだ。それを見て思わず自分も笑みを浮かべてしまう。
自分が今までどれだけαとしてダメだったか、他と比べられてどれだけやる気が起こらなかったかを伝えると、今井はぽかんとした表情で固まった。自分の情けない話を晒しているのに今井の表情は哀れむでもなくがっかりした様子もなく、ただ驚いているようで少し笑えた。
情けなくてネガティブな発言をする自分を幻滅しないでいてくれることが嬉しい。
部屋に漂う濃密な空気は変わらず2人を包んでいた。呆気にとられている今井に触れるだけの口付けをする。愛おしくてたまらない、と思いを込めて。
情けない話をされて、困った表情で首を傾げる今井に今は悩んでいないことを告げた。そしてそれは今井からもらったものだとも。
今井がいたお蔭で頭の霞は消えたし、仕事では以前よりも父や兄についていけるようにもなった。また、Ωの匂いを感じられなかった自分に今井はαの機能があることを知らせてくれた。αとしての自信をくれたのはすべて今井からだった。
いまひとつ分かっていない、と言う表情の今井の瞼や頬に唇を落としていく。
「確かに誠実さがなかったよね、俺。そこはとても反省してはいるんだけどね」
「……けど、ね?」
「あー、うん。反省しているけど後悔はしてなかったからなー」
「なんで?」
いつもの今井にもどったのか呆けた感じがなくなり、今度は非難するよう眉を寄せている。先ほど「考えていることが何一つ分からない」と言われたばかりだ。自分達は日常を多く過ごしてきたが大切な話をしてきたことがない。
「本当は子供が出来て欲しかったんだ。最低で悪いけど、αとして何かハッキリしたものが欲しくて」
「αとして?」
「あの時、初めて一緒に過ごしたみのるの発情期の時はね。出来損ないって言われていたし、焦りもあったし。後で気持ちも伝えずにあんなことをして、と反省はしたけどそれでもやっぱりみのると俺の子が出来るなら他はどうなろうがあまり関係なかったしね」
「他は関係ないって……俺はまだ学生なんだよ」
「うん。だから、そういうのも含めて全部。だから最低っていっただろ。開き直っているわけでもないからね。学校へ行きたければ行けるようになんだってやろうと思ったし、すべてにおいてみのるのフォローはしていこうとも思っていたしね。ただそこは俺の勝手な思いであって、きちんと話さなければいけなかったんだよね。でもそこまでの考えなんて焦りの前では消え去っていたけどね。どれほどダメダメなんだろうね」
「……なんでそんなに焦ることがあったんだよ」
「えー? うーん」
なにをそんなに焦っていたかと言われればどう答えたらいいのか。発情期のきはじめた今井の初めては自分でありたかったし、見合い相手のことも父に対しても頭にくることが多すぎて、色んなものが重なったからだろうがどう説明しようか考えてしまう。Ωのフェロモンに対してのキャパは広いのに物事に対するキャパが狭くて困る。
「……仕事、忙しい?」
考え込んでいるとおずおず、と言った様子で今井が口を開いた。もしかして焦りは仕事からくるものだから今井には話せないとでも思っているのだろうか。
仕事はまったく関係ないが、今井からの質問だ。笑顔で「そうでもないよ。みのるとこうなってからの俺は仕事のできる人間になったからね」とわざと偉そうに鼻を鳴らした。それに今井は苦笑で応える。
「そうなんだ、それならいいけど。さっきも着信音していたし、ここんところ俺のところにいるだけなのに結構電話きてたから忙しいかと思って」
「さっき? 鳴ってた?」
「うん」
「そっか。気づかなかった」
黙っていようと思ったが、今井に対して誠実でいなければと思い、「それも焦りの一つではあったかな」と付け足した。
「それ?」
「よく来ていた電話さ、半分以上が父親が勝手に決めたお見合い相手なんだ。会ったこともないしこれから会う予定もないよ。もちろん、みのるが心配するようなことは一切ないし、心配もさせないよう努める」
「あ、ああ、うん……」
今井が納得できる、十分な説明じゃないのは知っているが、自分としては父親がこの件から手を引いてくれたからには関係は終わりであると思っている。不安があっても言えない性分であろうから、そこは愛情をこめてフォローしていくつもりだ。
「……でも見合いってことは家同士のことなんだろ。そんなに簡単に切れるのかよ」
いかにも気にしています、不安ですという表情で今井は目を泳がせていた。
言葉でも行動でも、なんでも、いくらでもあげようと思う。不安になってくれている今井がたまらなく可愛い。
「父親の許可が取れたんだ。やっと。だから大丈夫。もうね、みのるがそばにいてくれるなら、あとはどうでもいいんだ。でもしつこいやつには拒否をすると逆上される場合があるから拒否はしていないけどね」
瞼やおでこに何度もキスをし、「みのるだけが好き」と甘い声で囁く。
「!?」
「うん、ごめん。また勃ってきた」
真面目な話をしていたが、少し話もそれたことと、甘い雰囲気で萎えていたモノが少しずつ硬さを取り戻していた。
いやらしさが微塵も感じられないほど爽やかに微笑み、柔らかな今井の中を緩く擦ってやる。今井はまだ何か言いたそうにしていたので動きを止めてやると「そのうち千切れるんじゃないのか」とわけの分からないことを言ってくる。
「なにが千切れるの?」
「陸の……がだよ。いつもずっと俺の中に入れっぱなしだし」
「ああ、そう言うことね。いいよ。千切れても。ちぎれるほど愛してあげたい」
顔を赤くし、困惑した表情で見上げられ、深町は苦笑した。確かにおかしいことを言っている自覚はあった。
今井が手を伸ばし、首筋に触れる。先ほど今井に噛まれたそこは熱をもっていて脈を打つタイミングで痛みがじわじわと走っていた。
「歯形、ついてる」
「うん。付けたければもっとつけていいよ」
「……痛い?」
「全然」
「いくら俺が噛み付いたところで、なんの変化も起こらないなんてやっぱり不公平さを感じる」
「まぁ、そういう体質だしね。でもこれほどまでに自分がαでよかったと思ったことはないよ。みのるがいてくれて本当によかった」
甘く囁き、首筋に顔を寄せれば今井はくすぐったそうに身を捩る。
「噛んで」
今井からの突然の言葉に少し驚き、腕に力を入れて状態を起こせば、そこには顔を真っ赤にさせた今井が眼を瞠ってこちらを見ていた。自分で言ったくせに自分で驚いているようで。
あまりにもその姿が可愛くて見とれていると腕で顔を隠してしまった。やはり恥ずかしいのか。
高鳴る胸を押さえつつ、一度深呼吸をする。今井の体から自身を抜き、うつ伏せにさせる。恥ずかしがる尻を高く上げて、先ほどの言葉でガチガチの状態になった塊を一気に押し込んだ。
「あああっ」
今井の熱い中をゆっくりと出し入れするだけで、今井は内腿を震わせてぱたぱたとシーツに白濁を落とした。
膝立ちすら危ういのか、体から力が抜け、汚したばかりのシーツに身を沈める。抜けてしまわぬように自分も体勢を今井に合わせた。
「あぁ……んっ、ん」
左手でベッドに手を付いて体を支え、空いた右手では露になっている今井の項にそっと触れた。途端、今井の体に緊張が走り、快楽に身を任せていた体を強張らせた。
おかげで今井の中もきゅうきゅうと締め付けてくる。イきそうになるのを我慢するため抜き差しをやめ、奥まではめたら腰をグラインドさせた。
「うっ、……ま、まって、やっぱりちょ、っと、待って」
「みのるがそう言うなら待つよ、いくらでも」
しかしその言葉は今井にとっては悪魔の囁きだった。
16
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?
モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。
平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。
ムーンライトノベルズにも掲載しております。
クローゼットは宝箱
織緒こん
BL
てんつぶさん主催、オメガの巣作りアンソロジー参加作品です。
初めてのオメガバースです。
前後編8000文字強のSS。
◇ ◇ ◇
番であるオメガの穣太郎のヒートに合わせて休暇をもぎ取ったアルファの将臣。ほんの少し帰宅が遅れた彼を出迎えたのは、溢れかえるフェロモンの香気とクローゼットに籠城する番だった。狭いクローゼットに隠れるように巣作りする穣太郎を見つけて、出会ってから想いを通じ合わせるまでの数年間を思い出す。
美しく有能で、努力によってアルファと同等の能力を得た穣太郎。正気のときは決して甘えない彼が、ヒート期間中は将臣だけにぐずぐずに溺れる……。
年下わんこアルファ×年上美人オメガ。
孤独の王と後宮の青葉
秋月真鳥
BL
塔に閉じ込められた居場所のない妾腹の王子は、15歳になってもバース性が判明していなかった。美少女のような彼を、父親はオメガと決め付けて遠い異国の後宮に入れる。
異国の王は孤独だった。誰もが彼をアルファと信じているのに、本当はオメガでそのことを明かすことができない。
筋骨隆々としたアルファらしい孤独なオメガの王と、美少女のようなオメガらしいアルファの王子は、互いの孤独を埋め合い、愛し合う。
※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。
※完結まで予約投稿しています。
【完結】変態αのフェロモン観測記録
加賀ユカリ
BL
欠陥Ωが使用済みマスクを落としたら、変態αにフェロモン値を実況されるようになった話
大学生の天橋瑞樹(あまはし みずき)は、帰り道でうっかり使用済みマスクを落としてしまう。拾ったのは、モデルのようなスタイルと整った顔立ちを持つ青年──神代慧(かみしろ けい)。だが、彼はただのαではなかった。
「このマスクは僕の宝物です」そう言って笑う慧は、瑞樹のマスクを返さないどころか、初対面で「君は僕の運命の番だ」と宣言してくる。
だが瑞樹は、自分が“欠陥Ω”──フェロモン値が極端に低い存在であることを知っていた。
そして、計測器と共に瑞樹のフェロモン数値を実況する“変態α”との、奇妙で騒がしい日々が始まった。
そんなある日。
瑞樹に人生で初めてのヒートが訪れる──
攻め:神代慧(かみしろ けい)。α。瑞樹のマスクを返さないヤバい男。
受け:天橋瑞樹(あまはし みずき)。欠陥Ω。
・オメガバースの独自設定があります
・性描写のある話には※を付けています
・最終話まで執筆済みです。(全35話)
・19時更新
・ムーンライトノベルズにも掲載しています
※過去作『番になれなくても』の主人公(天橋和樹)の兄の話です。本作品は『番になれなくても』の本編より前の時間軸になります。それぞれの話は独立しているので、読んでいなくても大丈夫です
【完結】番になれなくても
https://www.alphapolis.co.jp/novel/166551580/588945232
アルファ嫌いのヤンキーオメガ
キザキ ケイ
BL
にわか景気の商店街に建つペットショップで働く達真は、男性オメガだ。
オメガなのに美形でも小柄でもなく、金に染めた髪と尖った態度から不良だと敬遠されることが多い達真の首には、オメガであることを嫌でも知られてしまう白い首輪が嵌っている。
ある日、店にアルファの客がやってきた。
過去のトラウマからアルファが大嫌いな達真はぞんざいな態度で接客するが、そのアルファはあろうことか達真を「きれいだ」と称し、いきなりキスしてきて───!?
オメガに説く幸福論
葉咲透織
BL
長寿ゆえに子孫問題を後回しにしていたエルフの国へ、オメガの国の第二王子・リッカは弟王子他数名を連れて行く。褐色のエルフである王弟・エドアールに惹かれつつも、彼との結婚を訳あってリッカは望めず……。
ダークエルフの王族×訳アリ平凡オメガ王子の嫁入りBL。
※ブログにもアップしています
落ちこぼれβの恋の諦め方
めろめろす
BL
αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。
努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。
世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。
失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。
しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。
あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?
コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。
小説家になろうにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる