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25番は存在しない 〜竹一族の記憶(一)〜
二
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霊だの神隠しだの、何を言っているんだと思うだろう。でも、別にふざけているわけじゃない。それが、うちの正体だ。
成長速度が早いという点に心を惹かれ、苗字を“竹”に変えたのが、いつのことだか俺は知らない。ただ、その頃すでに、現在と同じ二足の草鞋が実現していたらしい。
俺たち竹一族は、除霊師である。拝み屋やゴーストハンターなどと呼ばれることもあるが、うちでは除霊師と名乗っている。ただ、何となくわかるかもしれないが、それだけで食っていけるほど世間ってのは甘くない。そこで依頼人ーー現在の体制ができて以後、隠語と称して“客人”が使われるようになったーーと接触して違和感のない状況を用意しようということになり、生まれたのが旅館・柳宿だ。旅館の名前に深い意味はなく、先祖代々の土地に柳の木があったから、という、何とも適当な理由だ。先祖は面倒臭かったのだろうと、今でも思う。
そんなこんなで、竹一族は旅館という表の顔を見せながら、除霊師という裏の顔を持っている。別に悪いことじゃない。金を取る気はないし(客人が勝手に口止め料も含めた大金を送ってはくるし、口止めしてほしいのはこっちの方だが)、中途半端な仕事をする気もない。いわば慈善事業だ。いや、金銭が発生しているから、そんな一言はやめとくべきか。
「生徒が行方不明、ですか?」
はい、と“客人”ーー他県の高校で国語教師をしており、吉崎康雄という名前らしいーーは頷いた。依頼を受けた人間が“客人”と話すのも決まりのため、質疑応答は俺の役目だ。
「4月の・・・・25日のことです。夜の22時頃に親御さんから電話があり、子供が帰って来ないが学校にいるのか、と聞かれました。しかし、その生徒は部活動にも入っておらず、授業が終わるなり帰宅するのが日常でした」
「その日、学校から出たのを見た人はいたんですか?」
「いました。1年生の学年主任で、きちんと挨拶をして正門を出るところを見たそうです。生徒の家の近所のご老人も、帰路を歩くのを見たと」
俺は頷きつつ、ノートにペンを走らせた。スマートフォンにでも打ち込みたいところだが、父さんの前では流石にできない。昔気質は俺が幼い頃から健在らしく、旅館には合っているのが何だか癪だ。
「生徒は普段、17時半頃には帰宅するそうです。両親が共働きのため、買い物をして遅くなることもあるそうですが、その日は前日に買い物を終えていたので、真っ直ぐ帰るはずだと。
ですが、ご両親が揃って帰宅した21時半、生徒の姿はなかったそうです。制服も洗濯機に入れられておらず、制鞄も部屋に置かれていなかったため、学校に残っていると思い、電話をされたとおっしゃっていました」
「でも、生徒は学校にもいなかった。・・・・警察には?」
「すぐに連絡して、現在も捜索中です。しかし学校や家はもちろん、帰り道の空き家や公園にもおらず、外遊びを好まない生徒なので図書館等を当たりましたが発見できず・・・・言葉通り、消えてしまったというわけです」
ひと段落ついたのか、吉崎は用意された緑茶を啜った。安堵のような、ため息のような息を吐き、微かに俯く。両目の下には隈があった。
「事情は大体わかりました。しかしお話しを聞く限り、ただの失踪事件とも取れます。にも関わらず、なぜうちに?」
警察に任せれば見つかるように思われ、そう尋ねた。しかし、何を思ったのか、吉崎は一層表情を暗くする。まずいことは言ってないと思うんだが。
だが、俺のーー恐らくは父さんもーー抱えた疑問を吹き飛ばすかのように、吉崎は驚くべきことを告げた。
「・・・・覚えていないんです」
「「は?」」
俺と父は、揃って突拍子もない声を上げた。声音は違うが、抱いた感情は同じだろう。吉崎は続ける。
「生徒が行方不明になった、ということは覚えているんですが・・・・ご両親や担任の私を含め、誰も彼もが、生徒の名前も顔も性別も、生徒に関することの何もかもを、まるで覚えていないんですよ」
成長速度が早いという点に心を惹かれ、苗字を“竹”に変えたのが、いつのことだか俺は知らない。ただ、その頃すでに、現在と同じ二足の草鞋が実現していたらしい。
俺たち竹一族は、除霊師である。拝み屋やゴーストハンターなどと呼ばれることもあるが、うちでは除霊師と名乗っている。ただ、何となくわかるかもしれないが、それだけで食っていけるほど世間ってのは甘くない。そこで依頼人ーー現在の体制ができて以後、隠語と称して“客人”が使われるようになったーーと接触して違和感のない状況を用意しようということになり、生まれたのが旅館・柳宿だ。旅館の名前に深い意味はなく、先祖代々の土地に柳の木があったから、という、何とも適当な理由だ。先祖は面倒臭かったのだろうと、今でも思う。
そんなこんなで、竹一族は旅館という表の顔を見せながら、除霊師という裏の顔を持っている。別に悪いことじゃない。金を取る気はないし(客人が勝手に口止め料も含めた大金を送ってはくるし、口止めしてほしいのはこっちの方だが)、中途半端な仕事をする気もない。いわば慈善事業だ。いや、金銭が発生しているから、そんな一言はやめとくべきか。
「生徒が行方不明、ですか?」
はい、と“客人”ーー他県の高校で国語教師をしており、吉崎康雄という名前らしいーーは頷いた。依頼を受けた人間が“客人”と話すのも決まりのため、質疑応答は俺の役目だ。
「4月の・・・・25日のことです。夜の22時頃に親御さんから電話があり、子供が帰って来ないが学校にいるのか、と聞かれました。しかし、その生徒は部活動にも入っておらず、授業が終わるなり帰宅するのが日常でした」
「その日、学校から出たのを見た人はいたんですか?」
「いました。1年生の学年主任で、きちんと挨拶をして正門を出るところを見たそうです。生徒の家の近所のご老人も、帰路を歩くのを見たと」
俺は頷きつつ、ノートにペンを走らせた。スマートフォンにでも打ち込みたいところだが、父さんの前では流石にできない。昔気質は俺が幼い頃から健在らしく、旅館には合っているのが何だか癪だ。
「生徒は普段、17時半頃には帰宅するそうです。両親が共働きのため、買い物をして遅くなることもあるそうですが、その日は前日に買い物を終えていたので、真っ直ぐ帰るはずだと。
ですが、ご両親が揃って帰宅した21時半、生徒の姿はなかったそうです。制服も洗濯機に入れられておらず、制鞄も部屋に置かれていなかったため、学校に残っていると思い、電話をされたとおっしゃっていました」
「でも、生徒は学校にもいなかった。・・・・警察には?」
「すぐに連絡して、現在も捜索中です。しかし学校や家はもちろん、帰り道の空き家や公園にもおらず、外遊びを好まない生徒なので図書館等を当たりましたが発見できず・・・・言葉通り、消えてしまったというわけです」
ひと段落ついたのか、吉崎は用意された緑茶を啜った。安堵のような、ため息のような息を吐き、微かに俯く。両目の下には隈があった。
「事情は大体わかりました。しかしお話しを聞く限り、ただの失踪事件とも取れます。にも関わらず、なぜうちに?」
警察に任せれば見つかるように思われ、そう尋ねた。しかし、何を思ったのか、吉崎は一層表情を暗くする。まずいことは言ってないと思うんだが。
だが、俺のーー恐らくは父さんもーー抱えた疑問を吹き飛ばすかのように、吉崎は驚くべきことを告げた。
「・・・・覚えていないんです」
「「は?」」
俺と父は、揃って突拍子もない声を上げた。声音は違うが、抱いた感情は同じだろう。吉崎は続ける。
「生徒が行方不明になった、ということは覚えているんですが・・・・ご両親や担任の私を含め、誰も彼もが、生徒の名前も顔も性別も、生徒に関することの何もかもを、まるで覚えていないんですよ」
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