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14枚目のトランプカード 〜竹一族の記憶(二)〜
七
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「“おめえ”、“何やってんだよ”・・・・ね。会わない間に随分とでかい口聞くようになったじゃないか、吉平。見りゃわかんだろ、働いてんだよ」
先ほどまでのお淑やかさはどこへやら。ろくろ首ーー妖怪の間ではろくろ、もしくは、ろくと呼ばれているーーはぞんざいな口調でそう言った。この性格は、相変わらずだ。
「それよりこっちの質問に答えな。あんたたちは何してんだい。まだガキのくせに、一丁前に東京に来るだなんて」
「賢三様のお手伝いです」
ぼくが答えると、ろくろさんは賢三、と復唱した。ややあって、竹一族か、とつぶやく。
「息の長い一族だねえ。昔は妖怪だの怪異だのと罵られて石を投げられていたってのに、今じゃ人間の便利屋かい」
昔が何年前のことなのかは、尋ねない方がいいだろう。以前聞いて烈火の如く怒られた。
「変化の波に偶然乗れただけだって、賢三様はおっしゃってました」
「波ーーか。確かにそうだろうね。あたしみたいに、当たり前のように人間に見られる妖怪は、波に乗らなきゃ滅びちまう。
まあ、あたしのことはいい。手伝いってことは、依頼を受けたってことだろう。嗅ぎ回ってるのは社長の浅間だね?」
頷いて説明しようとすると、吉平が止めた。ぼくは別に良いじゃないかと言ってろくろさんに向き直り、依頼の内容をここへ来た経緯を説明する。
「なるほどねえ。如何にも人間が怯えそうなことだ。で、その呪い・・・・臭いを辿ってここへ来たってことか。自宅へは?」
「まだです。先に会社に来たんですけど、ここでゲームなんてするはずないとは思ってて。ろくろさんは、いつからここで仕事を?」
「今年の4月からだから、まだ2ヶ月ちょいだね。浅間は女に目がないから、難なく通ったよ。ただ、家に仕事を持ち帰っていたから、行ったことはある。お客と遊ぶ部屋は2階の右端だ。扉の斜め前に白い壺が置いてあるから、目印になるさ」
「ありがとうございます」
慌てて頭を下げると、吉平は部屋を見渡していた。無理やり背中に乗って下げさせ、窓を開けてほしいと頼む。ろくろさんが窓を開けると、ほぼ同時に鋼さんが現れた。
「ろくろ? お前、今度はこんなところにいたのか」
「まあね。あんたは相変わらずお山で修行かい? 熱心だこと」
「放っとけ。吉平、見つからなかったからいいが、勝手に行くな。今の人間社会に私たちが見える者は1割にも満たないが、注意は必要だ。わかったら、勝手な行動はするんじゃない」
吉平は素直にごめんなさい、と言いながら頭を下げた。ろくろさんは「あたしの時とえらい違いだ」と愚痴を言いながら鋼さんの腕の中にぼくたちを乗せる。
「何か頼むことがあるかもしれない」
「言うと思ったよ。面倒ごとは勘弁しておくれよ。あたしは顔なんて変えられないんだからね」
「わかってる。邪魔して悪かった」
再び宙に飛び出しながら、ぼくたちはろくろさんに手を振った。
外国の城を見ているようだった。
真白い外壁、黒の巨大な門、神殿のように横に伸びた建物、巨大な噴水と庭園。別宅とは比べものにならないほど大きな本宅は、何だか目がちかちかした。
「2階の右端って話だけどよ、どの棟の2階だよ」
「それは言ってくれなかったよね・・・・。白い壺を探してみようか」
その時、買い物にでも行くのか、燕尾服を着た初老の男と若い男が出ていくのが見えた。ぼくと吉平は顔を見合わせ、続けて鋼さんを見る。
鋼さんは答えに渋っていたが、やがて大きなため息をつく。
「・・・・危険だと思ったらすぐに出て来ると約束しろ。特に吉平」
釘を刺された吉平はふて腐りながらも頷き、鋼さんから1枚の木の葉を受け取った。人気のない場所に降り立ったぼくたちは、木の葉を頭に乗せて目を閉じ、音を出しながら手を合わせた。
次に目を開けた時、ぼくたちは今し方出て行った人間たちと、全く同じ姿になっていた。
先ほどまでのお淑やかさはどこへやら。ろくろ首ーー妖怪の間ではろくろ、もしくは、ろくと呼ばれているーーはぞんざいな口調でそう言った。この性格は、相変わらずだ。
「それよりこっちの質問に答えな。あんたたちは何してんだい。まだガキのくせに、一丁前に東京に来るだなんて」
「賢三様のお手伝いです」
ぼくが答えると、ろくろさんは賢三、と復唱した。ややあって、竹一族か、とつぶやく。
「息の長い一族だねえ。昔は妖怪だの怪異だのと罵られて石を投げられていたってのに、今じゃ人間の便利屋かい」
昔が何年前のことなのかは、尋ねない方がいいだろう。以前聞いて烈火の如く怒られた。
「変化の波に偶然乗れただけだって、賢三様はおっしゃってました」
「波ーーか。確かにそうだろうね。あたしみたいに、当たり前のように人間に見られる妖怪は、波に乗らなきゃ滅びちまう。
まあ、あたしのことはいい。手伝いってことは、依頼を受けたってことだろう。嗅ぎ回ってるのは社長の浅間だね?」
頷いて説明しようとすると、吉平が止めた。ぼくは別に良いじゃないかと言ってろくろさんに向き直り、依頼の内容をここへ来た経緯を説明する。
「なるほどねえ。如何にも人間が怯えそうなことだ。で、その呪い・・・・臭いを辿ってここへ来たってことか。自宅へは?」
「まだです。先に会社に来たんですけど、ここでゲームなんてするはずないとは思ってて。ろくろさんは、いつからここで仕事を?」
「今年の4月からだから、まだ2ヶ月ちょいだね。浅間は女に目がないから、難なく通ったよ。ただ、家に仕事を持ち帰っていたから、行ったことはある。お客と遊ぶ部屋は2階の右端だ。扉の斜め前に白い壺が置いてあるから、目印になるさ」
「ありがとうございます」
慌てて頭を下げると、吉平は部屋を見渡していた。無理やり背中に乗って下げさせ、窓を開けてほしいと頼む。ろくろさんが窓を開けると、ほぼ同時に鋼さんが現れた。
「ろくろ? お前、今度はこんなところにいたのか」
「まあね。あんたは相変わらずお山で修行かい? 熱心だこと」
「放っとけ。吉平、見つからなかったからいいが、勝手に行くな。今の人間社会に私たちが見える者は1割にも満たないが、注意は必要だ。わかったら、勝手な行動はするんじゃない」
吉平は素直にごめんなさい、と言いながら頭を下げた。ろくろさんは「あたしの時とえらい違いだ」と愚痴を言いながら鋼さんの腕の中にぼくたちを乗せる。
「何か頼むことがあるかもしれない」
「言うと思ったよ。面倒ごとは勘弁しておくれよ。あたしは顔なんて変えられないんだからね」
「わかってる。邪魔して悪かった」
再び宙に飛び出しながら、ぼくたちはろくろさんに手を振った。
外国の城を見ているようだった。
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「2階の右端って話だけどよ、どの棟の2階だよ」
「それは言ってくれなかったよね・・・・。白い壺を探してみようか」
その時、買い物にでも行くのか、燕尾服を着た初老の男と若い男が出ていくのが見えた。ぼくと吉平は顔を見合わせ、続けて鋼さんを見る。
鋼さんは答えに渋っていたが、やがて大きなため息をつく。
「・・・・危険だと思ったらすぐに出て来ると約束しろ。特に吉平」
釘を刺された吉平はふて腐りながらも頷き、鋼さんから1枚の木の葉を受け取った。人気のない場所に降り立ったぼくたちは、木の葉を頭に乗せて目を閉じ、音を出しながら手を合わせた。
次に目を開けた時、ぼくたちは今し方出て行った人間たちと、全く同じ姿になっていた。
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