竹一族の記憶

夕凪ヨウ

文字の大きさ
54 / 127
42首目に潜む待ち人 〜竹一族の記憶(三)〜

しおりを挟む
 目を覚ました時、1番に飛び込んできたのは、泣きそうな顔をした四音の顔だった。幼い頃から変わっていない姿に、どこか安堵する。
「姉さん・・・・! 良かった、うなされてたし、一晩中ーー」
 その言葉に思わず眉を動かした。私は寝言を言うタイプじゃない。となると、この子がのは、私の声じゃない。
 私はおもむろに上体を起こし、心配する四音を宥めながら口を開く。
「夢、というべきかわからないけれど、幽霊は私に話しかけていたわ。初めは“見つけた”の繰り返しからで、どうやら、私を探している誰かと勘違いしているみたいだった」
「俺も同じようなことが聴こえたよ。姉さんの部屋に行きたかったんだけど、体は動かない上に、声も出せなくて」
 その言葉に思わず動きを止め、私「金縛り?」と尋ねた。四音は曖昧な頷きを返して答える。
「そういう言い方もできるけど、少し違う。何の痕跡もないから疑うだろうけど、一晩中、水の中に沈められているみたいな息苦しさがあったんだ。あ、もしかしたら海かも。ちょっと潮の香りがしたし・・・・」
 次の瞬間、私は思わず四音の両肩を掴んだ。彼の首に、ロープで絞められたような青痣が見えたからだ。本人には見えないだろうけれど、凝視すると水滴が詰まっているように見える。
 本当に勢いよく掴んだので、力は強かったと思うけれど、爪が食い込んでいるんじゃないか、なんていう心配はできなかった。
「体に異常はないの?」
 四音の瞳が揺れた。言いたいことはわかった。自分の心配をしてくれと言いたいのだろう。本当に優しい子。でも、私はあなたの方が心配なのよ。
「だ、大丈夫だよ。幽霊も、虚仮脅しっていうか、牽制、みたいな感じでやっただけだと思うから。殺すつもりなら、そんなんじゃ済まないよ。強力な霊だろうしさ」
「・・・・そうね。取り敢えず朝食にしましょう。話はそれからだわ」


 バイキング形式の朝食は、食べ合わせを考えなくていいちぐはぐさが好きだ。ただ、俺も姉さんも和のものを多くとってしまうのは、普段の食事のせいだろう。どのみち、美味いから何でもいいんだけれど。
「話を整理すると」
 席について食事を始めた瞬間、姉さんが口火を切った。周囲に他の宿泊客がいるが、だからこそ俺たちの会話に聞き耳を立てる者はいない。
「幽霊の男は、何かしらの誓いを立てた相手を末の松山で待っていて、恐らく幽霊の男が先に来た。だけど、相手の死を知り、絶望した後に幽霊の男も死んで、未練から地縛霊となり留まっている」
「そんな感じだな。で、誓いとやらが叶わなかった場合、海に落ちて心中する考えだった。それが叶わなかったから留まっていて、あまつさえ、姉さんのことを、誓いを立てた相手と勘違いしている」
「そういうこと。だけど、あなたもわかるでしょう? 私たちに、はあり得ないってこと」
 俺は頷いた。そうでなくては、俺たち一族の存在が揺れてしまう。男が勘違いをしていることは明白だった。
「幽霊の男は顔の下半分しか見えなかったけど、整った顔立ちの男だと思うわ。だから正直、相手に振られるなんてことは想像しにくい。所謂、身分違いの恋が浮かぶわね」
「それが妥当だよな。でも、男の装束は貴族だったんだろ? となると、自分の家と対立していた一族か、貴族より上の誰かか」
 後者は調べることが憚られる。だが、想像するしかない状況だった。
「貴族の服装は長い間、大きく変化していない。時代の特定は困難を極めるわ。ただ、あの和歌を知っていたのなら、詠まれた時より後の生まれか、その和歌に詠まれた当人か」
「そんなこと調べてわかるか?」
 姉さんは首を横に振った。そりゃそうだ。あの和歌が掲載されている和歌集にだって、そんなことまで書かれていない。歌人当人の日記なんかがあればいいが、そんなものが発見されればニュースになっていて然るべきで、姉さんが知らないはずはない。
「取り敢えず近隣住民に聞き込みをして、過去に同じ幽霊を見た人物や、昨夜の私たちが聴いたのと同じ声を聴いたことはなかったかを探る必要がある。引っ越した人物を洗うのは不可能に近いから、できる範囲にはなるけれど」
「そうだな。もし同じ声を聴いた誰かがいたり、知り合いだったりするなら、幽霊の男が探している人物がどういった人間なのか、少しは見えてくるはずだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

怪談

馬骨
ホラー
怪談です。 長編、中編、短編。 実話、創作。 様々です。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

近づいてはならぬ、敬して去るべし

句ノ休(くのやすめ)
ホラー
山中、もしあなたがそれに出会ったら…… 近づいてはいけない。 敬して去るべし。   山を降りろ。   六年勤めた会社を辞めた。お荷物だとはわかっていたし、むしろ清々しくもあった。 28歳のコウイチには、仕事より大切なものがあった。 田舎歩きだ。そこ大事なのが学生のときにかじった民俗学だ。廃集落、古い祠、忘れられた神々——それを訪ねることは、彼のたった一つの愉しみだった。   大学時代、民俗学の講義で准教授はこう言った。「神々は神ではない」。人が畏れ、従い、忖度したものがかみになる。その言葉がコウイチを変えた。 会社の営業で関東のあちこちを歩きまわった。コウイチは仕事よりも土地の古老の話に耳を傾けることに熱中した。   ふと見つけた資料にコウイチは目を奪われた。 「名付け得ぬ神」。 東京の西、檜原村の奥深く、コボレザワという場所にその祭祀を担った一族がいたという。山奥には祠があるらしい。だがもう六十年も前に無人になってしまっているようだ。   コウイチは訪ねることにする。 道中、奇妙な老人に出会う。一人目は気のいい古書店主。二人目は何かを知りながら口を閉ざす資料館の老人。そして三人目は——   雪深い山の中でコウイチはついに祠を見つけた。巨大な岩を背にした祠は古び、壊れていたが、まだ人が来ている痕跡があった。 不穏な気配にコウイチは振り向くが、なにもない。 あれ? 鳥の声が、まったくない。

都市伝説レポート

君山洋太朗
ホラー
零細出版社「怪奇文庫」が発行するオカルト専門誌『現代怪異録』のコーナー「都市伝説レポート」。弊社の野々宮記者が全国各地の都市伝説をご紹介します。本コーナーに掲載される内容は、すべて事実に基づいた取材によるものです。しかしながら、その解釈や真偽の判断は、最終的に読者の皆様にゆだねられています。真実は時に、私たちの想像を超えるところにあるのかもしれません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

「モブ子で結構。クラスでパシリにしていたあなたより、フォロワーが100万人多いので、趣味の合わない方とはお話ししない主義なので」

まさき
ライト文芸
静はイヤホンをつけ、眼鏡を外した。 「ごめんなさい——趣味の合わない方とはお話ししない主義なの」 ——これは、モブ子と呼ばれた少女が、誰にも媚びなかった夏の話。 学校では地味で目立たない女子高生・葛城静。分厚い眼鏡、冴えない服装、クラスのリア充グループには「モブ子」と呼ばれ、パシリにされる日々。「ブスに夏休みは似合わないよね」——そんな言葉を笑顔で浴びせてくる同級生たちは、知らない。 彼女が、フォロワー100万人を誇る超人気ストリーマー「シズネ」だということを。 夏休み。秘密の別荘プールから配信した100万人記念ライブが大バズり。特定班の動きは早く、やがて「シズネ=あのモブ子」という事実がXのトレンドを席巻した。 翌朝の教室。昨日まで見下していた同級生たちが、一斉に満面の笑みを向けてくる——。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/3/8:『ほうもんしゃ』の章を追加。2026/3/15の朝頃より公開開始予定。 2026/3/7:『こんびに』の章を追加。2026/3/14の朝頃より公開開始予定。 2026/3/6:『えれべーたー』の章を追加。2026/3/13の朝頃より公開開始予定。 2026/3/5:『まよなかのあしおと』の章を追加。2026/3/12の朝頃より公開開始予定。 2026/3/4:『ぎいぎいさま』の章を追加。2026/3/11の朝頃より公開開始予定。 2026/3/3:『やま』の章を追加。2026/3/10の朝頃より公開開始予定。 2026/3/2:『いおん』の章を追加。2026/3/9の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...