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42首目に潜む待ち人 〜竹一族の記憶(三)〜
十
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眠らないよう大きな声で注意することは、図書館ではできない。
幸いなことに、末の松山の近くには図書館があった。資料の閲覧だけなら問題なくできるので、私と四音はすぐさま足を運び、関連のありそうな資料を片っ端から黙読している。ただ、あまり興味のない分野だからか、四音は先ほどから船を漕いでいた。
「こら、四音」
「え? あ・・・・ごめん、姉さん。同じような解説何度も見たから」
「気持ちはわかるけど、踏ん張って頂戴。必要か不必要かで言ったら、正直後者かもしれないけど、念のためだから」
「わかってる。ちょっとお手洗い行って来るよ」
揃って膨大な資料を黙読している私たちは、側から見れば異様だろう。だけど、そんな些細なことは気にしていられない。地縛霊は放っておくべきものではないし、余計な勘違いがついて回るのも迷惑。とっとと終わらせるに限るわ。
「・・・・やっぱりないか」
消え入るような声でつぶやいた。正直残念だけど、無理もないことだわ。手にしている情報が少ない上に、推測にしか辿りつかないことが多すぎる。容姿のことなんて過去の資料に細かく載っているわけないし、性格なんて数えられる記述から推測するしかない。博打にも近いわね。
「お待たせ。何かあった?」
先ほどよりもすっきりした顔をした四音が尋ねてきたけれど、私は静かに被りを振った。四音も何となくわかっていたのか、曖昧に頷いて私の右に腰掛ける。
「たださ、あの和歌のことは考えるべきじゃね? 末の松山で何かしらの誓いを立てた人を待つって、明らかにあの和歌の影響受けてるじゃん。俺としては、あの和歌が世に出た後、幽霊の男は大人になったと思うんだよな」
「あの和歌に準えて、誰かと誓いを立てたということ?」
「そうじゃなきゃわざわざ口ずさむか?」
四音の言葉は理に適っているように感じた。私は頭の中の知識の箱を開き、必要な情報をつぶやく。
「作者の清原元輔の生年は908年で没年が990年。かの有名な清少納言の父親でもある人物で、平安中期の大歌人でもあった。かの和歌が入っている『後拾遺和歌集』は、白河天皇の側近だった藤原通俊が1075年に命を受けて、最終的に1087年に完成したから・・・・平安後期ということになるわね。まあ、それ以前に和歌が知られていた可能性は大いにあるけれど」
「・・・・何で一歌人や一和歌集の情報、そんなスラスラ出てくるんだよ・・・・。怖・・・・」
「本気で怖がっている声を出さなくたっていいじゃない。とにかく、公の和歌集に取り上げられるまでは間があった。四音の推測通りなら、幽霊の男は、この頃には生まれていて大人になりつつあったのかもしれないわ」
四音は頷いた。私も、自分で口にしていて納得はできる。だけど、それがどこの誰かなんてわかるはずもない。当時の貴族の役職等が記された書物を見ることはできるだろうけれど、どんな人物だったのか、なんて記録が残っている可能性は著しく低い。やっぱり、ここで足止めかしら。
「平安後期ってことはさ、いわゆる源平合戦あたり?」
「年代だけならもう少し後だけど、認識としては正しいわ。武士が活躍し始める時代であることは間違いないから」
そう口にした後、私と四音は顔を見合わせた。武士の登場と、それによる貴族との対立や協力ーー。初めに考えた“身分違いの恋”が、再度私たちの前に姿を現していた。
幸いなことに、末の松山の近くには図書館があった。資料の閲覧だけなら問題なくできるので、私と四音はすぐさま足を運び、関連のありそうな資料を片っ端から黙読している。ただ、あまり興味のない分野だからか、四音は先ほどから船を漕いでいた。
「こら、四音」
「え? あ・・・・ごめん、姉さん。同じような解説何度も見たから」
「気持ちはわかるけど、踏ん張って頂戴。必要か不必要かで言ったら、正直後者かもしれないけど、念のためだから」
「わかってる。ちょっとお手洗い行って来るよ」
揃って膨大な資料を黙読している私たちは、側から見れば異様だろう。だけど、そんな些細なことは気にしていられない。地縛霊は放っておくべきものではないし、余計な勘違いがついて回るのも迷惑。とっとと終わらせるに限るわ。
「・・・・やっぱりないか」
消え入るような声でつぶやいた。正直残念だけど、無理もないことだわ。手にしている情報が少ない上に、推測にしか辿りつかないことが多すぎる。容姿のことなんて過去の資料に細かく載っているわけないし、性格なんて数えられる記述から推測するしかない。博打にも近いわね。
「お待たせ。何かあった?」
先ほどよりもすっきりした顔をした四音が尋ねてきたけれど、私は静かに被りを振った。四音も何となくわかっていたのか、曖昧に頷いて私の右に腰掛ける。
「たださ、あの和歌のことは考えるべきじゃね? 末の松山で何かしらの誓いを立てた人を待つって、明らかにあの和歌の影響受けてるじゃん。俺としては、あの和歌が世に出た後、幽霊の男は大人になったと思うんだよな」
「あの和歌に準えて、誰かと誓いを立てたということ?」
「そうじゃなきゃわざわざ口ずさむか?」
四音の言葉は理に適っているように感じた。私は頭の中の知識の箱を開き、必要な情報をつぶやく。
「作者の清原元輔の生年は908年で没年が990年。かの有名な清少納言の父親でもある人物で、平安中期の大歌人でもあった。かの和歌が入っている『後拾遺和歌集』は、白河天皇の側近だった藤原通俊が1075年に命を受けて、最終的に1087年に完成したから・・・・平安後期ということになるわね。まあ、それ以前に和歌が知られていた可能性は大いにあるけれど」
「・・・・何で一歌人や一和歌集の情報、そんなスラスラ出てくるんだよ・・・・。怖・・・・」
「本気で怖がっている声を出さなくたっていいじゃない。とにかく、公の和歌集に取り上げられるまでは間があった。四音の推測通りなら、幽霊の男は、この頃には生まれていて大人になりつつあったのかもしれないわ」
四音は頷いた。私も、自分で口にしていて納得はできる。だけど、それがどこの誰かなんてわかるはずもない。当時の貴族の役職等が記された書物を見ることはできるだろうけれど、どんな人物だったのか、なんて記録が残っている可能性は著しく低い。やっぱり、ここで足止めかしら。
「平安後期ってことはさ、いわゆる源平合戦あたり?」
「年代だけならもう少し後だけど、認識としては正しいわ。武士が活躍し始める時代であることは間違いないから」
そう口にした後、私と四音は顔を見合わせた。武士の登場と、それによる貴族との対立や協力ーー。初めに考えた“身分違いの恋”が、再度私たちの前に姿を現していた。
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