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7つ館に罪禍は宿る 〜竹一族の記憶(四)〜
五
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獣も人も、館の外にはいなかった。そして、数人の警察官や宿泊者たちにも、足音は聞こえていなかった。聞こえているのは、俺と賢三、鋼の3人だけだった。
「1人や2人じゃない・・・・複数だ。もしかして数十人か?」
俺は一先ず2人と合流し、足音を聞きながらそう尋ねた。賢三はすぐさま頷いて答える。
「それ以上だと思うよ。だけど、足音が揃いすぎている。まるで軍隊の行進だ」
賢三と鋼と合流して耳を澄ませていると、足音は少しずつ館に近づいていた。明らかに大人数の足音だったが、姿は影も形もない。しかし、空耳にしてはできすぎていた。
「・・・・足音だけで気配は感じません。恐らく、本当に音だけを出しています。器用なものですよ」
「鋼が言うなら間違いなさそうだな。だが、一体何のための足音だ? 関わるなという脅しか・・・・」
その時、視線の先を何かがよぎった。鳥かと思ったが、あまりに大きい。よく見ると、人の形をしていた。
「人間じゃないね。少し様子をーー」
僕が発言を終えるより前に、兄さんは人影の足元に矢を打ち込んでいた。案の定、人影は身を翻して走り去る。その後ろ姿は、明らかに現代の人間ではなかった。ハッとして息を呑んでいると、兄さんは窓枠を乗り越えて山に駆け出していた。
「ちょっと兄さん! 鋼、追って!」
鋼は返事も惜しいと思ったのか、流れるように窓から飛び出し、兄さんの後を追った。こちらの方は、2人で何とかなるだろう。僕がやるべきことは、
「どうかされましたか? 大きな声が聞こえましたが・・・・。おや? お兄さんは?」
ああ、やっぱり全員が駆けつけてきた。全く面倒臭い。足音が聞こえていない人間に対して、納得できる言い訳を考えなくちゃならないなんて。
相変わらず、一樹様は考えるより先に体が動かれる。追いたくなる気持ちはわかるが、相手のことが何もわからないうちから深入りするのは危険以外の何者でもない。
「一樹様! お待ちください!」
「追えば何かに行き着くかもしれないだろ」
「そうですが急に飛び出すなど! 正体もわからないのですよ?」
「それを確かめるために追っているのさ。安心しろ。線引きはする」
この猪突猛進ぶり・・・・。賢三様とは似ても似つかない。しかし、こんな動きをしていても、一樹様が受けたご依頼は何だかんだと全てが丸く治る。不思議なものだ。
「・・・・いつのまにか足音が消えているな。今聞こえている音は、話し声か?」
「そのようですね。しかし、山中にいるのは数人の警察官のみ。“何か”の声でしょう」
私たちは木々に当たらないよう山中を駆けた。やがて、人影がより一層木々が茂っているところに飛び込み、一樹様は迷うことなく追いかける。私も後に続いた。
その時だった。
「その先に行ったらダメでやんす!」
咄嗟に一樹様の腕を掴んだ瞬間、眼前の景色が捻じ曲がって変化した。先ほどまでと変わらぬ山中だと思っていた場所は、断崖絶壁だった。私は思わず目を見開き、一樹様も驚愕の息を漏らしていた。
私は直前に聞こえた声を思い出し、振り返った。
「しばらく姿を見ないと思ったら・・・・ここにいたのか。響」
背後にいたのは、柴犬の成犬ほどの大きさをした、焦茶色の犬のような生き物ーー多くの人間が耳にしたことがあるだろう、山彦だった。
「1人や2人じゃない・・・・複数だ。もしかして数十人か?」
俺は一先ず2人と合流し、足音を聞きながらそう尋ねた。賢三はすぐさま頷いて答える。
「それ以上だと思うよ。だけど、足音が揃いすぎている。まるで軍隊の行進だ」
賢三と鋼と合流して耳を澄ませていると、足音は少しずつ館に近づいていた。明らかに大人数の足音だったが、姿は影も形もない。しかし、空耳にしてはできすぎていた。
「・・・・足音だけで気配は感じません。恐らく、本当に音だけを出しています。器用なものですよ」
「鋼が言うなら間違いなさそうだな。だが、一体何のための足音だ? 関わるなという脅しか・・・・」
その時、視線の先を何かがよぎった。鳥かと思ったが、あまりに大きい。よく見ると、人の形をしていた。
「人間じゃないね。少し様子をーー」
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「ちょっと兄さん! 鋼、追って!」
鋼は返事も惜しいと思ったのか、流れるように窓から飛び出し、兄さんの後を追った。こちらの方は、2人で何とかなるだろう。僕がやるべきことは、
「どうかされましたか? 大きな声が聞こえましたが・・・・。おや? お兄さんは?」
ああ、やっぱり全員が駆けつけてきた。全く面倒臭い。足音が聞こえていない人間に対して、納得できる言い訳を考えなくちゃならないなんて。
相変わらず、一樹様は考えるより先に体が動かれる。追いたくなる気持ちはわかるが、相手のことが何もわからないうちから深入りするのは危険以外の何者でもない。
「一樹様! お待ちください!」
「追えば何かに行き着くかもしれないだろ」
「そうですが急に飛び出すなど! 正体もわからないのですよ?」
「それを確かめるために追っているのさ。安心しろ。線引きはする」
この猪突猛進ぶり・・・・。賢三様とは似ても似つかない。しかし、こんな動きをしていても、一樹様が受けたご依頼は何だかんだと全てが丸く治る。不思議なものだ。
「・・・・いつのまにか足音が消えているな。今聞こえている音は、話し声か?」
「そのようですね。しかし、山中にいるのは数人の警察官のみ。“何か”の声でしょう」
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私は直前に聞こえた声を思い出し、振り返った。
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