竹一族の記憶

夕凪ヨウ

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7つ館に罪禍は宿る 〜竹一族の記憶(四)〜

十五

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 助走もなく茂みから駆け出した響の姿は、確実に犬に似た何かであるのに、とてつもなく神聖な生物を目にしている気がした。彼は驚くほどの速さで莫大な数に膨らんだ亡者の魂へ向かって駆け続け、やがて魂は彼に気がついて逃げ出す。
「兄さん、耳塞いで」
 賢三に言われて咄嗟に両耳を塞ぐと、響が大きく息を吸い込むのが見えた。何だ? と思った次の瞬間ーー


 何を口にしたのかわからないほど、とてつもなく大きな叫び声が山中に響き渡った。俺は思わずギョッとしたが、何より驚いたのは亡者の魂だ。彼らは一部動きを止め、一部は慄いたのか逃げようと動く。
「一樹様、お札を」
 鋼に呼びかけられ、ほぼ無意識のうちにお札を放っていた。便利なもので、何も命じずとも魂の方へ真っ直ぐに飛んでいく。速さは先ほどの響の走りよりも、やや速い。
 逃げ出す魂の前へ飛んでいったお札は、間髪入れずに触手のような、蜘蛛の巣のような檻を展開し、魂の行方を阻んだ。ほぼ同時に、膨大な数の枝葉が現れ、檻を補強し、また捕まろうとしない魂を無理矢理拘束した。
「行って!」
 賢三の声が聞こえた瞬間、俺と鋼は弾かれたように飛び出した。


 無数の矢と迷いのない刀が煌めく様は、美しさすら感じる光景だった。躊躇いも仕損じることもなく、2人は魂を祓い続ける。すでに30秒は経過しているけれど、もう3分の2は祓えている。やっぱり、兄さんには敵わない。
「残り15秒」
 確認のためにつぶやいた声は、感覚を研ぎ澄ましている2人にも聞こえたらしい。より攻撃に鋭さが増し、兄さんも遂に弓矢を日本刀へと変える。刀の動きに従って魂は祓われ、跡形も残さなかった。本当に見事なものだ。
「5・・4・・3・・2・・1・・・・」
 ゼロ、の一言を発したと同時に、檻と枝葉が弾け飛んだ。直後、どこからともなく現れた巨大な青白い魂が、予想通りと言うべきか、僕に向かって突進してくる。
「賢三!」
 そんなに無理して駆けつける必要なんてないよ、兄さん。だって、これは想定内のことだから。
「初仕事だ。欠片も残さず狩っていいよ。・・・・一世かずよ


 その名を聞いた瞬間、私は前を走る一樹様の肩を掴んで引き留めた。驚いて振り返ろうとした一樹様だが、それより前に、4枚のトランプカードがーー正確には、死神と悪魔が2体ずつ現れた。彼らは向かってくる巨大な魂よりも遥かに大きく、死神は鎌を、悪魔は牙と爪を使い、跡形もなく魂を狩った。あまりに一瞬のことで、私たちはしばし、何が起こったのかを理解できなかった。
 ただ、静まり返った山にけたたましいほど蝉の鳴き声が響き始めた時、平穏が訪れたのだと理解した。
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