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7つ館に罪禍は宿る 〜竹一族の記憶(四)〜
十八
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「随分と余計なことをしてくれましたね。おかげで2人の人間が死にましたよ」
氷よりも冷たい声が降りかかる。だが、口を塞がれて呼吸もままならない。細いはずなのに、どこにこんな力があるというのか。
「まあ、あなたもご存知の通り、僕は人間よりも人間でない者に肩入れするタチですから、そこまで人間の死に重きは置いていません。何よりの問題は、余計なことを企んだあなたの腹の内だ」
口を掴んだ手に力が入った。頬の骨が軋む音がする。わずかに眉を顰めたが、力は緩まるどころか増していく。
「あなたの企みが上手く行った場合、私と兄さんは死ぬことになる。そうなると、次の当主は誰になるか? これは間違いなく姉さんです。あの人のリーダーシップを超える一族の者など存在しない以上、当主の座は姉さんにするしかない。
ですが、当主の夫の座は違う。一族の当主は男であれ女であれ跡継ぎを儲ける必要があるから、結婚は絶対だ。そして、その相手は、父さんのような例外を除いて分家の人間から選ばれるのが慣例・・・・。もちろんあなたの家も当て嵌まります。都合のいいことに、姉さんと同じ歳の息子までいますから、第一の候補に上がるでしょう」
言い終えると同時にもう片方の手が伸びーーこの時、ようやく右手で口を掴まれていたとわかったーー蛇のように首へ巻きついた。その瞬間、自分の息を呑む音が、やけに大きく響く。
「あなたの息子は昔から姉さんに懸想している。策に乗らせるのは容易なことだ。そして、結婚して姉さんが子供を産み、その子が父さんの力を受け継いでいれば、あなたは次期当主の祖父になれる」
小馬鹿にするような笑い声が漏れた。嘲りと怒気に満ちた表情が深みを増す。
「歴史の中で数多繰り返されてきたことと、全く同じことを企むとは。正直言ってお笑い草です。
ですが、1つ忘れてはいませんか? その方法は、企む者によほどの実力と度胸と覚悟がなければならない。何があっても己の心に従って突き進み、あらゆる欲と願いを叶え、決して過去を振り向かないーーそんな人間でなければならない。
あなたにはその全てがない。私たち兄弟の実力を見誤り、妖怪のことを知った気になり、挙げ句の果てに私を招き入れた。何もかもが失策だ。策士にはなれませんね」
口と首、両方の手に力が込められた。いよいよ暴れそうになるが、なぜかできない。金縛りにでもあっているのかと思い、部屋が異様に寒いことに思考が戻った。まさか、と感じた瞬間、再び言葉が降りかかる。
「あなたも懲りない人ですね。私は以前、ご丁寧に忠告したはずですが?」
忠告? まさか、あの時のことか? だが、あれは。
「あなたでなくとも関係ない。あれは、私の家族以外の全員に言ったことです。蚊帳の外なわけないでしょう」
心を見抜いたかのような発言。この男、本当に昔から変わらない。
「これは警告です。仏の顔も三度まで、という言葉はご存知でしょう。以前が1度目、これが2度目。もし、再び同じようなことが起こったら・・・・」
その瞬間、私を押さえる男の背後に無数の影が現れた。大きな鳥、犬のような何か、雪のように白い着物を着た女、頭頂部に皿を持つ生物、成人男性よりも大きい毛むくじゃらの何かーー。その正体を考えるのさえ、恐ろしかった。
肺腑の冷えを感じた瞬間、口と手に巻きついていた手が離れた。ようやく息を吐き出し、咳き込むように浅い呼吸を繰り返す。
「返事は?」
ほぼ無意識のうちに頷いていた。男は私が何度か頷くのを見て立ち上がり、汚らしいとばかりに真新しく見える着物を払い、無数の影と共に部屋を後にした。
「面倒ごとに付き合わせて悪かったね、みんな」
車に乗り込む前にそう言ったけれど、誰1人として嫌な顔はしていなかった。いい縁に恵まれたなあ。
すると、1番近くに立っていた鋼が口を開く。
「よろしいのですか? お望みとあれば今すぐにでも・・・・」
「いいんだ。殺す価値すらない人間を殺したって、君の負担が増えるだけさ。それに、本当に殺しちゃったら父さんたちに迷惑がかかる。やるなら、あの時のように最低限だ」
「あれが最低限かは怪しいですが、まあ、そうかもしれませんね。ーー真っ直ぐ帰られますか?」
「うん。鋼たちも帰っていいよ。わざわざありがとう。用があれば、また呼ぶから」
言い終えて鋼が頷いた瞬間、みんなは各々姿と気配を消した。中庭に停めさせてもらった車に到着すると、運転手が素早く後部座席の扉を開けた。
「旅館の方に行かれますか? それとも、ご自宅に?」
「家に戻るよ。流石に疲れた」
車窓の景色を眺めるだけで、決して振り返ることはしなかった。
氷よりも冷たい声が降りかかる。だが、口を塞がれて呼吸もままならない。細いはずなのに、どこにこんな力があるというのか。
「まあ、あなたもご存知の通り、僕は人間よりも人間でない者に肩入れするタチですから、そこまで人間の死に重きは置いていません。何よりの問題は、余計なことを企んだあなたの腹の内だ」
口を掴んだ手に力が入った。頬の骨が軋む音がする。わずかに眉を顰めたが、力は緩まるどころか増していく。
「あなたの企みが上手く行った場合、私と兄さんは死ぬことになる。そうなると、次の当主は誰になるか? これは間違いなく姉さんです。あの人のリーダーシップを超える一族の者など存在しない以上、当主の座は姉さんにするしかない。
ですが、当主の夫の座は違う。一族の当主は男であれ女であれ跡継ぎを儲ける必要があるから、結婚は絶対だ。そして、その相手は、父さんのような例外を除いて分家の人間から選ばれるのが慣例・・・・。もちろんあなたの家も当て嵌まります。都合のいいことに、姉さんと同じ歳の息子までいますから、第一の候補に上がるでしょう」
言い終えると同時にもう片方の手が伸びーーこの時、ようやく右手で口を掴まれていたとわかったーー蛇のように首へ巻きついた。その瞬間、自分の息を呑む音が、やけに大きく響く。
「あなたの息子は昔から姉さんに懸想している。策に乗らせるのは容易なことだ。そして、結婚して姉さんが子供を産み、その子が父さんの力を受け継いでいれば、あなたは次期当主の祖父になれる」
小馬鹿にするような笑い声が漏れた。嘲りと怒気に満ちた表情が深みを増す。
「歴史の中で数多繰り返されてきたことと、全く同じことを企むとは。正直言ってお笑い草です。
ですが、1つ忘れてはいませんか? その方法は、企む者によほどの実力と度胸と覚悟がなければならない。何があっても己の心に従って突き進み、あらゆる欲と願いを叶え、決して過去を振り向かないーーそんな人間でなければならない。
あなたにはその全てがない。私たち兄弟の実力を見誤り、妖怪のことを知った気になり、挙げ句の果てに私を招き入れた。何もかもが失策だ。策士にはなれませんね」
口と首、両方の手に力が込められた。いよいよ暴れそうになるが、なぜかできない。金縛りにでもあっているのかと思い、部屋が異様に寒いことに思考が戻った。まさか、と感じた瞬間、再び言葉が降りかかる。
「あなたも懲りない人ですね。私は以前、ご丁寧に忠告したはずですが?」
忠告? まさか、あの時のことか? だが、あれは。
「あなたでなくとも関係ない。あれは、私の家族以外の全員に言ったことです。蚊帳の外なわけないでしょう」
心を見抜いたかのような発言。この男、本当に昔から変わらない。
「これは警告です。仏の顔も三度まで、という言葉はご存知でしょう。以前が1度目、これが2度目。もし、再び同じようなことが起こったら・・・・」
その瞬間、私を押さえる男の背後に無数の影が現れた。大きな鳥、犬のような何か、雪のように白い着物を着た女、頭頂部に皿を持つ生物、成人男性よりも大きい毛むくじゃらの何かーー。その正体を考えるのさえ、恐ろしかった。
肺腑の冷えを感じた瞬間、口と手に巻きついていた手が離れた。ようやく息を吐き出し、咳き込むように浅い呼吸を繰り返す。
「返事は?」
ほぼ無意識のうちに頷いていた。男は私が何度か頷くのを見て立ち上がり、汚らしいとばかりに真新しく見える着物を払い、無数の影と共に部屋を後にした。
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「あれが最低限かは怪しいですが、まあ、そうかもしれませんね。ーー真っ直ぐ帰られますか?」
「うん。鋼たちも帰っていいよ。わざわざありがとう。用があれば、また呼ぶから」
言い終えて鋼が頷いた瞬間、みんなは各々姿と気配を消した。中庭に停めさせてもらった車に到着すると、運転手が素早く後部座席の扉を開けた。
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