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母の御魂は四つ辻に眠る 〜竹一族の記憶(五)〜
二
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「お帰りなさい、四音。暑かったでしょう。迎えを頼んでも良かったのよ?」
玄関で出迎えたのは母様だった。珍しく仕事が休みらしく、自宅の掃除をしていたらしい。
「・・・・ただいま」
違う。あの声は、母様の声じゃない。もちろん、母様は昔は俺を四郎と呼んだけれど、名前が変わってからは1度も呼んでいない。一族の全てを理解している母様は、兄たちが相手でも同じ態度をとったはずだ。
「四音? どうしたの? 気分でも悪い?」
母様の手が額に当てられる。冷たくて気持ちがいい。ああ、違う。そうじゃない。どこか気の乗らない返事をしたから、心配させているんだ。
「大丈夫だよ。ありがとう、母様」
「そう? あ、後でアイスを持って行ってもらうわね。今日はチョコバニラ味だから」
「マジ? やった。一呼吸ついたら食べるよ。
・・・・なあ、母様。今日・・・・父さんって遅い?」
「零士さん? いいえ、お盆に体力を残しておくために早く帰るって言っていたわ。何か話したいことがあるの?」
「うん。父さんだけじゃなく、母様にも聞いてほしい。大事な、ことだから」
俺はかなりの決意を持って、家族揃っての夕食を終えた後、父さんと母様の部屋に行った。兄たちは不思議そうに見ていたが、進路の話だろうと思ったのか、特に何も言わずに各々の部屋に戻って行った。
「急にごめん、父さん。疲れてるだろうに」
「謝ることはない。大事な話なんだろう? 進路のことか? まあ、そろそろ詳しく聞く時期ではあるが・・・・」
やっぱり、父さんと母様も進路の話だと思っている。無理もないか。受験生の俺が言う大事な話なんて、1番に思いつくのはそれだ。
「今日、図書館からの帰り道、道を1本間違えて四つ辻に入ったんだ。ほら、少し古びた住宅のある、あそこ」
すぐに合点が行ったらしく、2人は同時に頷いた。本題は、ここからだ。
「その時にさ、俺の名前を呼ぶ声が聞こえたんだ。しかも、今の名前じゃなくて、前の名前で」
「・・・・つまり、“四郎”と呼びかけられたということか?」
「うん。空耳だと思ったし、今更俺をその名前で呼ぶ人なんていないから、誰か別の人が呼んでいるんだろうと思ったんだ。だけど、周囲には俺以外人はいなくて、他の人を呼んでいるとしたら、声が近すぎた。それで、すぐに人ならざるものの声だってわかった」
2人の表情が引き締まった。除霊師として、祓うべき対象の話を聞く顔だ。
「悪意は感じなかった。聴こえる声に揺らぎもない。悪さをする“何か”じゃないと思う。ただ、俺の昔の名前を呼んだことが、どうしても気になってさ」
「確かに不思議な話ね。分家の方々も四音と呼ぶし、私たちだって同じだわ。あなたの記憶を見たのかしら?」
「そうとも考えたんだけど、母様や姉さんの声じゃなかったんだよ。あ、声は女性の声だったんだけど、俺の知らない声だったんだ」
聞いた声を記憶しているなんて、普通なら笑い話だ。だけど、俺の生粋の耳の良さは2人も認めている。俺が言うならそうなのだろうと、相槌を打って信じてくれた。
だからこそ、少し心が痛む。俺がこれから話すことは、2人の心を乱すことだ。
「もし惑わせたいなら、そんなことしたって意味ないだろ? だから俺、こう考えたんだ。俺を呼んだ“何か”は、俺の昔の名前しか知らないんだって」
「・・・・どういうことだ」
父さんの声がわずかに揺れた。もう気がつくなんて、流石に勘が良すぎる。俺は膝の上に置いた拳を握りしめ、できる限り堂々とした声で言った。
「俺を呼んだのは、俺の生みの母親じゃないかって話だよ」
作り物のように歪む父さんと母様の顔を見た時、言わなきゃよかった、の一言が頭を掠めた。
玄関で出迎えたのは母様だった。珍しく仕事が休みらしく、自宅の掃除をしていたらしい。
「・・・・ただいま」
違う。あの声は、母様の声じゃない。もちろん、母様は昔は俺を四郎と呼んだけれど、名前が変わってからは1度も呼んでいない。一族の全てを理解している母様は、兄たちが相手でも同じ態度をとったはずだ。
「四音? どうしたの? 気分でも悪い?」
母様の手が額に当てられる。冷たくて気持ちがいい。ああ、違う。そうじゃない。どこか気の乗らない返事をしたから、心配させているんだ。
「大丈夫だよ。ありがとう、母様」
「そう? あ、後でアイスを持って行ってもらうわね。今日はチョコバニラ味だから」
「マジ? やった。一呼吸ついたら食べるよ。
・・・・なあ、母様。今日・・・・父さんって遅い?」
「零士さん? いいえ、お盆に体力を残しておくために早く帰るって言っていたわ。何か話したいことがあるの?」
「うん。父さんだけじゃなく、母様にも聞いてほしい。大事な、ことだから」
俺はかなりの決意を持って、家族揃っての夕食を終えた後、父さんと母様の部屋に行った。兄たちは不思議そうに見ていたが、進路の話だろうと思ったのか、特に何も言わずに各々の部屋に戻って行った。
「急にごめん、父さん。疲れてるだろうに」
「謝ることはない。大事な話なんだろう? 進路のことか? まあ、そろそろ詳しく聞く時期ではあるが・・・・」
やっぱり、父さんと母様も進路の話だと思っている。無理もないか。受験生の俺が言う大事な話なんて、1番に思いつくのはそれだ。
「今日、図書館からの帰り道、道を1本間違えて四つ辻に入ったんだ。ほら、少し古びた住宅のある、あそこ」
すぐに合点が行ったらしく、2人は同時に頷いた。本題は、ここからだ。
「その時にさ、俺の名前を呼ぶ声が聞こえたんだ。しかも、今の名前じゃなくて、前の名前で」
「・・・・つまり、“四郎”と呼びかけられたということか?」
「うん。空耳だと思ったし、今更俺をその名前で呼ぶ人なんていないから、誰か別の人が呼んでいるんだろうと思ったんだ。だけど、周囲には俺以外人はいなくて、他の人を呼んでいるとしたら、声が近すぎた。それで、すぐに人ならざるものの声だってわかった」
2人の表情が引き締まった。除霊師として、祓うべき対象の話を聞く顔だ。
「悪意は感じなかった。聴こえる声に揺らぎもない。悪さをする“何か”じゃないと思う。ただ、俺の昔の名前を呼んだことが、どうしても気になってさ」
「確かに不思議な話ね。分家の方々も四音と呼ぶし、私たちだって同じだわ。あなたの記憶を見たのかしら?」
「そうとも考えたんだけど、母様や姉さんの声じゃなかったんだよ。あ、声は女性の声だったんだけど、俺の知らない声だったんだ」
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だからこそ、少し心が痛む。俺がこれから話すことは、2人の心を乱すことだ。
「もし惑わせたいなら、そんなことしたって意味ないだろ? だから俺、こう考えたんだ。俺を呼んだ“何か”は、俺の昔の名前しか知らないんだって」
「・・・・どういうことだ」
父さんの声がわずかに揺れた。もう気がつくなんて、流石に勘が良すぎる。俺は膝の上に置いた拳を握りしめ、できる限り堂々とした声で言った。
「俺を呼んだのは、俺の生みの母親じゃないかって話だよ」
作り物のように歪む父さんと母様の顔を見た時、言わなきゃよかった、の一言が頭を掠めた。
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