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母の御魂は四つ辻に眠る 〜竹一族の記憶(五)〜
四
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頭が痛い。鼓動が、脈が早い。目頭が熱い。
ーー私の子供じゃない。
うん、知ってるよ。10年前・・・・8歳の歳のお盆に、親戚が漏らした言葉を聞いた時から、知ってるよ。だけど考えないようにしてきたんだ。口に出さないようにしてきたんだ。
だって、考えたり口に出したりしたら、その事実を実感して、動けなくなるから。この家にいちゃダメだって、強く思うから。
「四音!」
私の呼びかけには応じず、四音は走り去った。普段なら音もなく開閉する襖を、無理にこじ開けるようにして、長い廊下を駆けて行った。だが、私たちは追いかけることすらできなかった。
「ーー誰かいないか! 四音を、」
「もう追跡の手は出したよ」
遮るように言ったのは賢三だった。いつのまにか開きっぱなしの襖の側に立っていた息子に、私たちは弾かれたように振り返る。
「・・・・聞いていたのね」
「聞こえたんだよ。夏だからあちこち開けてるし」
賢三は私たちの青ざめた様子を気にすることなく部屋に入り、静かに襖を閉めた。おもむろに投げかけられた視線は、律子と似ても似つかない。
「2人が嫌なら僕が話す。潮時でしょ」
「やめろ!」 「やめて!」
「嫌だよ。この前のこと話したよね? 兄さんと行ったあの依頼、分家によって仕組まれたものだったって。特に何事もなく依頼はこなしたけど、奴らの思い通りになってたら、四音が家にいられたと思う? 思わないよね?
父さんと母さんはさ、そんな奴らに四音へ過去を話してほしいの? 奴らは自分に都合のいいことしか話さない。本当のことなんて言わない。ただ、父さんと母さんだけが被害者で、あの人は徹底して加害者だ。下卑た言葉を使って平気で罵倒する。罵っている人の子供が、目の前にいようと関係なく。そしてその結果、四音はこれまでよりも傷つくんだ。ーー本当に、それでいいと思ってるの?」
思っていない。思うわけがない。なぜなら彼女は、加害者などではないからだ。全て自分が悪いことにしてくれと言われても、私はそんなことができなかった。誰よりも優しく人を想う彼女に、全てを押し付けることなんてできなかった。
「今ここで決めて。2人の口から四音に話すか、話さないか。前者を選ぶなら家族揃って話を聞く。後者を選ぶなら僕から話す。どうする? 決めて。今すぐに」
私たちはしばらく何も言えなかった。昔から堂々とした子だったが、今はさらに磨きがかかったーーいや、迷うことをしなくなった。
やがて、俯いていた律子が、ポツリと漏らした。
「どうしてなの。賢三・・・・あなたはどうして、そこまで言えるの。何の迷いもなく、あの子を愛せるの。ねえ、どうして?」
「理由なんて1つしかないよ。四音は、僕のたった1人の弟だからだ。末っ子だった僕の元に来てくれた、大切な弟だからだ。それ以外の理由なんて、これまでも、これからも、存在しないよ」
その言葉を聞いて、私は思わず笑みを漏らした。我が子が強くなっていたことに、遅すぎる今、気付かされた。
ーー私の子供じゃない。
うん、知ってるよ。10年前・・・・8歳の歳のお盆に、親戚が漏らした言葉を聞いた時から、知ってるよ。だけど考えないようにしてきたんだ。口に出さないようにしてきたんだ。
だって、考えたり口に出したりしたら、その事実を実感して、動けなくなるから。この家にいちゃダメだって、強く思うから。
「四音!」
私の呼びかけには応じず、四音は走り去った。普段なら音もなく開閉する襖を、無理にこじ開けるようにして、長い廊下を駆けて行った。だが、私たちは追いかけることすらできなかった。
「ーー誰かいないか! 四音を、」
「もう追跡の手は出したよ」
遮るように言ったのは賢三だった。いつのまにか開きっぱなしの襖の側に立っていた息子に、私たちは弾かれたように振り返る。
「・・・・聞いていたのね」
「聞こえたんだよ。夏だからあちこち開けてるし」
賢三は私たちの青ざめた様子を気にすることなく部屋に入り、静かに襖を閉めた。おもむろに投げかけられた視線は、律子と似ても似つかない。
「2人が嫌なら僕が話す。潮時でしょ」
「やめろ!」 「やめて!」
「嫌だよ。この前のこと話したよね? 兄さんと行ったあの依頼、分家によって仕組まれたものだったって。特に何事もなく依頼はこなしたけど、奴らの思い通りになってたら、四音が家にいられたと思う? 思わないよね?
父さんと母さんはさ、そんな奴らに四音へ過去を話してほしいの? 奴らは自分に都合のいいことしか話さない。本当のことなんて言わない。ただ、父さんと母さんだけが被害者で、あの人は徹底して加害者だ。下卑た言葉を使って平気で罵倒する。罵っている人の子供が、目の前にいようと関係なく。そしてその結果、四音はこれまでよりも傷つくんだ。ーー本当に、それでいいと思ってるの?」
思っていない。思うわけがない。なぜなら彼女は、加害者などではないからだ。全て自分が悪いことにしてくれと言われても、私はそんなことができなかった。誰よりも優しく人を想う彼女に、全てを押し付けることなんてできなかった。
「今ここで決めて。2人の口から四音に話すか、話さないか。前者を選ぶなら家族揃って話を聞く。後者を選ぶなら僕から話す。どうする? 決めて。今すぐに」
私たちはしばらく何も言えなかった。昔から堂々とした子だったが、今はさらに磨きがかかったーーいや、迷うことをしなくなった。
やがて、俯いていた律子が、ポツリと漏らした。
「どうしてなの。賢三・・・・あなたはどうして、そこまで言えるの。何の迷いもなく、あの子を愛せるの。ねえ、どうして?」
「理由なんて1つしかないよ。四音は、僕のたった1人の弟だからだ。末っ子だった僕の元に来てくれた、大切な弟だからだ。それ以外の理由なんて、これまでも、これからも、存在しないよ」
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