竹一族の記憶

夕凪ヨウ

文字の大きさ
97 / 127
母の御魂は四つ辻に眠る 〜竹一族の記憶(五)〜

しおりを挟む
 奏子さんは覚えてほしいと言った曲は驚くほど早く覚えて、家に何もせずにいるのも申し訳ないからと、家事まで進んでやってくれたわ。家の間取りもすぐに頭に入れて、歩数で各部屋までの距離を計算していたらしいけど、そうとは思えないくらい、1ヶ月も経つ頃には俊敏に動いていたわ。
「ごめんなさい、奏子さん。子供たちの面倒まで見てもらって」
「とんでもありません、律子さん。私は子供が好きですし、この子たちが私の演奏を聴きたいと言ってくれるのも嬉しくて」
 一樹たちは多忙な私と零士さんに代わって面倒を見てくれる奏子さんに懐いていて、本当の家族のような距離感だったわ。お義父様がお許しにならなかったけど、こっそり一緒に食事を摂ったりもしていたの。
「ねえ! そうこさんは、ずっとここにいるんだよね?」
 そう無邪気に何度も尋ねていたのは美桜だったわ。家族の中で女性が私しかいなかったから、突然現れた優しい人に甘えたくなるのは当然ね。
 ただ、奏子さんがずっといる保証はなかったわ。もちろん、生活は以前より安定したと感謝を述べられたことは何度もあったけれど、全盲の彼女をよく思わない従業員は少なからずいたし、分家の方々は特に厳しい目を向けていた。彼女が本家にいられるのは、零士さんとお義父様が許しているから。でも、お義父様は横暴だと言われることも多かったから、いつ追い出されてもおかしくはなかったの。
 だけど、奏子さんは決して、子供たちを不安にさせるようなことを言わなかった。
「もちろんよ、二葉ふたばちゃん。あなたがもっと大きくなったら、三味線を教える約束だもの」
 話していなかったけれど、まだ幼かった一樹たちは、改名前の名前だったわ。一朗、二葉、三郎・・・・と呼ばれていた。ややこしいかなるから、今の名前で話すけれど。
「うん! 約束だよ!」
 美桜には当時から舞を教えていたから、それを彩る三味線に興味を示すのは当然だったわ。私も興味の範囲が広がるのは良いことだと思っていたから、そんな日が来るのを楽しみにしていたの。


「失礼致します。三郎様、ご当主様がお呼びです」
「・・・・わかった。じゃあ、お兄ちゃん、お姉ちゃん、また後で」
 あなたも聞いたことはあるわよね。賢三の力は、お義父様からの遺伝だってこと。当時、お義父様は自分と同じ力を持つ賢三に目をかけていて、何かと妖怪に関する勉強や力の鍛錬のために呼び出していたの。3歳の子供ができることなんて、たかが知れているはずなんだけど、お義父様は厳しかったわ。
「漢字が違う。何度同じことを言わせるんだ、三郎。轆轤首の字は数字じゃないぞ」
「ごめんなさい・・・・」
「全く、しっかりしろ。お前は私と同じ力を持っている。それはつまり、いずれ私と同じことをするということだ」
「同じこと・・・・? それって、当主になるってこと? それはお兄ちゃんの役目じゃないの?」
 このやり取りは後に賢三から聞いたことだけど、本当に驚いたわ。そんなことまで考えられていたなんて、知らなかったから。
「別に長子が当主になるわけではない。より強い力を持つ者が当主になる。私もそうだった。だから、お前もそうなるんだ。兄の存在など乗り越えてな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

怪談

馬骨
ホラー
怪談です。 長編、中編、短編。 実話、創作。 様々です。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

近づいてはならぬ、敬して去るべし

句ノ休(くのやすめ)
ホラー
山中、もしあなたがそれに出会ったら…… 近づいてはいけない。 敬して去るべし。   山を降りろ。   六年勤めた会社を辞めた。お荷物だとはわかっていたし、むしろ清々しくもあった。 28歳のコウイチには、仕事より大切なものがあった。 田舎歩きだ。そこ大事なのが学生のときにかじった民俗学だ。廃集落、古い祠、忘れられた神々——それを訪ねることは、彼のたった一つの愉しみだった。   大学時代、民俗学の講義で准教授はこう言った。「神々は神ではない」。人が畏れ、従い、忖度したものがかみになる。その言葉がコウイチを変えた。 会社の営業で関東のあちこちを歩きまわった。コウイチは仕事よりも土地の古老の話に耳を傾けることに熱中した。   ふと見つけた資料にコウイチは目を奪われた。 「名付け得ぬ神」。 東京の西、檜原村の奥深く、コボレザワという場所にその祭祀を担った一族がいたという。山奥には祠があるらしい。だがもう六十年も前に無人になってしまっているようだ。   コウイチは訪ねることにする。 道中、奇妙な老人に出会う。一人目は気のいい古書店主。二人目は何かを知りながら口を閉ざす資料館の老人。そして三人目は——   雪深い山の中でコウイチはついに祠を見つけた。巨大な岩を背にした祠は古び、壊れていたが、まだ人が来ている痕跡があった。 不穏な気配にコウイチは振り向くが、なにもない。 あれ? 鳥の声が、まったくない。

都市伝説レポート

君山洋太朗
ホラー
零細出版社「怪奇文庫」が発行するオカルト専門誌『現代怪異録』のコーナー「都市伝説レポート」。弊社の野々宮記者が全国各地の都市伝説をご紹介します。本コーナーに掲載される内容は、すべて事実に基づいた取材によるものです。しかしながら、その解釈や真偽の判断は、最終的に読者の皆様にゆだねられています。真実は時に、私たちの想像を超えるところにあるのかもしれません。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/3/8:『ほうもんしゃ』の章を追加。2026/3/15の朝頃より公開開始予定。 2026/3/7:『こんびに』の章を追加。2026/3/14の朝頃より公開開始予定。 2026/3/6:『えれべーたー』の章を追加。2026/3/13の朝頃より公開開始予定。 2026/3/5:『まよなかのあしおと』の章を追加。2026/3/12の朝頃より公開開始予定。 2026/3/4:『ぎいぎいさま』の章を追加。2026/3/11の朝頃より公開開始予定。 2026/3/3:『やま』の章を追加。2026/3/10の朝頃より公開開始予定。 2026/3/2:『いおん』の章を追加。2026/3/9の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

境界の音

迷い人
ホラー
大学二年の榊真樹は、臨床心理学科教授の紹介で映像関連企業のインターンに入る。 慣れないオフィスでの雑務に追われる日々、営業の高木歩だけは、真樹の不安を切り捨てない人だった。 距離の近い声、触れそうで触れない手、名前の呼び方ひとつで揺れる心。 惹かれてはいけない、と分かっているのに、真樹の身体はその優しさを覚えてしまう。 けれど、穏やかな時間に混じって、海の気配が増えていく。 波の音はないのに聞こえ、足音がひとつ多い気がして、見られている感覚だけが残る。安心を与える腕ほど、境界を曖昧にする――そんな違和感を抱えたまま、真樹は高木の出張に同行し、香川・琴平へ向かう。

処理中です...