竹一族の記憶

夕凪ヨウ

文字の大きさ
96 / 127
母の御魂は四つ辻に眠る 〜竹一族の記憶(五)〜

しおりを挟む
 奏子と出会った当時、一樹たち3人はまだ幼かった。自分の家がどんな場所なのかも、まだ理解していない年頃だ。
 出会った日、私は奏子を旅館ではなく直接自宅へ招き、自宅で仕事をしていた律子に彼女を紹介した。
「お帰りなさい。その方は?」
「奏子さんという。外で三味線を弾いていたんだが、驚くほど上手でな。ほら、最近宴会の弾き手が病気で退職しただろう? 新しい人にどうかと思って」
「まあ、それはありがたい話だけど・・・・そんなにお上手なの? 歴史ある旅館だから、随分審査が厳しいでしょう。お義父とう様がお許しにならないと」
「ああ。だから取り敢えず演奏を聞いてもらおうと思うんだ。律子も一緒にどうだ?」
 今思えば強引な提案だった。律子はともかく、当時まだ当主として君臨していた父・清二せいじを呼び出すなど、普通はないことだ。


「随分と唐突だな、零士」
 父は名前の通り次男で、本来なら当主になる人ではなかった。それには諸々理由があるんだが、一先ず置いて、話の続きをしよう。
「ええ。ですが早く決めてしまう方がいいでしょう。お花見の時期は、宴会をされるお客様が多いですから」
 まるで他人のようだと、よく言われる関係性だった。律子は慣れたものだったが、奏子は少し戸惑いつつも頭を下げるに留めた。 
「まあ、細かいことはいい。取り敢えず何か弾いてみろ」
 一族の中の誰もが、父の前では緊張して口も聞けないのが普通だった。しかし、奏子は物怖じせずに頷き、見事に一曲を引いた。何度聴いても、変わらない美しい音だった。
「・・・・いいだろう。演者として雇おう。稽古のために我が家の空いている間を貸し出せ。細かいことはお前に一任する」
 父が演奏をどう思ったのかは知らない。だが、採用したということは、気に入ったということだろうと、私は解釈した。
「ありがとうございます。行こう、2人とも」
 こうして、驚くほどスムーズに奏子は柳宿で雇われることになった。彼女の演者としての腕は確かで、お客での評判も良く、一躍演者たちの顔になったくらいだ。・・・・幸せな時間だったし、彼女にもそう思っていてほしいよ。


 だが、きっとこれが間違いだった。私が奏子を連れ帰らなければ、この後の苦しみは、きっと起こらなかったのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

怪談

馬骨
ホラー
怪談です。 長編、中編、短編。 実話、創作。 様々です。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

近づいてはならぬ、敬して去るべし

句ノ休(くのやすめ)
ホラー
山中、もしあなたがそれに出会ったら…… 近づいてはいけない。 敬して去るべし。   山を降りろ。   六年勤めた会社を辞めた。お荷物だとはわかっていたし、むしろ清々しくもあった。 28歳のコウイチには、仕事より大切なものがあった。 田舎歩きだ。そこ大事なのが学生のときにかじった民俗学だ。廃集落、古い祠、忘れられた神々——それを訪ねることは、彼のたった一つの愉しみだった。   大学時代、民俗学の講義で准教授はこう言った。「神々は神ではない」。人が畏れ、従い、忖度したものがかみになる。その言葉がコウイチを変えた。 会社の営業で関東のあちこちを歩きまわった。コウイチは仕事よりも土地の古老の話に耳を傾けることに熱中した。   ふと見つけた資料にコウイチは目を奪われた。 「名付け得ぬ神」。 東京の西、檜原村の奥深く、コボレザワという場所にその祭祀を担った一族がいたという。山奥には祠があるらしい。だがもう六十年も前に無人になってしまっているようだ。   コウイチは訪ねることにする。 道中、奇妙な老人に出会う。一人目は気のいい古書店主。二人目は何かを知りながら口を閉ざす資料館の老人。そして三人目は——   雪深い山の中でコウイチはついに祠を見つけた。巨大な岩を背にした祠は古び、壊れていたが、まだ人が来ている痕跡があった。 不穏な気配にコウイチは振り向くが、なにもない。 あれ? 鳥の声が、まったくない。

都市伝説レポート

君山洋太朗
ホラー
零細出版社「怪奇文庫」が発行するオカルト専門誌『現代怪異録』のコーナー「都市伝説レポート」。弊社の野々宮記者が全国各地の都市伝説をご紹介します。本コーナーに掲載される内容は、すべて事実に基づいた取材によるものです。しかしながら、その解釈や真偽の判断は、最終的に読者の皆様にゆだねられています。真実は時に、私たちの想像を超えるところにあるのかもしれません。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/3/8:『ほうもんしゃ』の章を追加。2026/3/15の朝頃より公開開始予定。 2026/3/7:『こんびに』の章を追加。2026/3/14の朝頃より公開開始予定。 2026/3/6:『えれべーたー』の章を追加。2026/3/13の朝頃より公開開始予定。 2026/3/5:『まよなかのあしおと』の章を追加。2026/3/12の朝頃より公開開始予定。 2026/3/4:『ぎいぎいさま』の章を追加。2026/3/11の朝頃より公開開始予定。 2026/3/3:『やま』の章を追加。2026/3/10の朝頃より公開開始予定。 2026/3/2:『いおん』の章を追加。2026/3/9の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...