竹一族の記憶

夕凪ヨウ

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母の御魂は四つ辻に眠る 〜竹一族の記憶(五)〜

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 私たちと彼女が出会ったのは、四音が生まれる2年前のことだ。




 あの日は、世間がお花見に浮かれている真っ最中だった。どこを見ても満開の桜が咲き誇り、国内外問わず多くの人々が旅館に出入りしていたな。
 そして私は、音に導かれて彼女と出会った。
「何か聞こえますね。楽器の音のようですが・・・・」
 普段通り仕事をしていた私と十蔵はーーお前も知っての通り、柳宿の番頭をしていて、私とは従兄弟に当たる笹塚十蔵のことだーー遠くから近づいてくる音につられて外に出た。そして、歩かずともわかる人だかりの中央に、彼女はいた。
「いいぞ、姉ちゃん!」
「もっと聴かせてくれ!」
「リクエストいい?」
 通りがかりの人々も、旅館を後にした人々も、一様に足を止めて聴き入っていた。私たちは、そこまで大勢の人を虜にする音を奏でる誰かの顔を見たくなり、自然と足が進んだ。
「若旦那に十蔵さん。お2人も聞こえましたか」
「ああ。一体、誰が弾いているんだ? うちも余興で弾くことはあるが、ここまでの音を出せる者はいないはず」
「あちらの女性ですよ」
 従業員の示した方向に、彼女は立っていた。肩から三味線を下げ、慣れた手つきで弦をかき鳴らしている。それは、腹に響くほどの大きな音でありながら、とてつもなく美しかった。ただ、何より目を引いたのは、整った彼女の顔と、閉じたままの両目だった。
 彼女は長袖の紺のワンピースをたなびかせ、白いスニーカーを履いていた。その姿が、三味線という和と合っていないように見えたが、音があまりに美しく、気にならなかった。
「・・・・あら。また、新しい方がいらっしゃいましたね。しかも、2人」
 陽だまりにいるような暖かい声は、聞いていて心地が良かった。だが何より、彼女が大勢の人間がいる中で、私たちの来訪に気がついたことに驚きを隠せなかった。
「わかるのか?」
 思わず尋ねた私に、彼女はどこか子供のように無邪気な笑顔を浮かべた。
「私は目が見えない分、他の感覚を研ぎ澄ませていますから。中でも耳が良いので、足音や声さえ覚えれば、すぐに人が増えたことがわかるんです」
「すごいな・・・・。あの、名前は? 私は零士。竹零士という」
 零士さん、と彼女は復唱した。何かを刻みつけるような声だった。
「奏子です。奏でる子と書きます。色々事情があって、三味線の弾き語りで生計を立てているんです」
 苗字を名乗らず、三味線の弾き語りで生活をするーー。過酷であるはずなのに、それを微塵も感じさせない奏子。
 この出会いが互いを大きく変えることになるなんて、あの瞬間は思いもしなかった。
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