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母の御魂は四つ辻に眠る 〜竹一族の記憶(五)〜
十一
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私たちは全てを奏子に話した。除霊師であることが事実だと説明するのは難しかったが、彼女は幼い頃から声を聞いたり気配を感じたりしたらしく、そのせいで周囲との軋轢が生まれたこともあったと言った。
「不思議に思ったことは何度もありましたけど・・・・そういうことだったんですね。季節外れの冷気を感じたり、気味が悪いと囁かれたりした理由が、ようやくわかりました」
「・・・・黙っていて申し訳なかった。だが、私の我儘で雇った君に、余計な負担を背負わせたくはなかったんだ。こんな形で話してしまうなら、初めから明かしておけばよかった」
「そんな。零士さんが謝ることなんて何もありません。それに、私は少し嬉しいんです」
「嬉しい?」
混乱していた私には、奏子の心情がよくわからなかった。だが、彼女は普段通りの笑顔を絶やさず言った。
「私だけじゃないんだって、こんな身近にいるんだって・・・・それがわかって嬉しいんです。不謹慎かもしれませんが、何だか安心したんです。だから謝らないでください。ようやく昔の疑問に決着がついたところですから」
偽りも躊躇いもなく、笑顔を浮かべてそう言った奏子に、私は心底安堵したんだ。負担を増やさずに済んだ、彼女には必要なことだったんだと、そう思った。・・・・そんな考えが、甘いとも知らずに。
奏子に全てを話した翌日、私は父に呼び出され、信じがたい言葉を吐かれた。
「あの女との間に子供を作れ」
「・・・・は? な、何を言って・・・・子供? 私は結婚しているんですよ? すでに3人の子供がいて、律子は4人目を妊娠している。当然、知っていますよね。それなのに何を」
馬鹿なことを、と言う前に言葉が返ってきた。
「我々に必要なのは力だ。権力はもちろんだが、何より除霊師としての力がいる。そしてそれは、種類が多いに越したことはない」
“種類”。その一言を聞いて頭が痛くなったよ。生まれる子供をどう思っているのか、その一言で嫌でも理解できた。
「そうだとしても、なぜ私なのです。奏子に一族の子供を産ませたいのなら、分家の誰かと奏子本人と話し合って結婚させるのが筋でしょう。なぜ私が、そんな真似を」
「分家の屑共との間に産ませたところで、どうせ碌な子供は産まれん。“零の力”を継いでいるお前の子供でなければ意味がない」
「いい加減にしてください! そんな人道に反すること、できるわけがないでしょう! そもそも、奏子は全盲の己の身を鑑みて子供を産む気はないと話していた。我が子が同じになってほしくないからと・・・・恋愛すらしてこなかったとすら言っていたんですよ? それなのに、彼女の意思すらも無視して、そんなこと・・・・!」
「では追い出せ」
まともに話し合う気など、父には初めからなかった。ただ、己の思うままに全てを動かしたいだけだ。だからこそ、そんな残酷は言葉を吐けたんだろう。
「子供を作るのが嫌だと言うなら、今すぐあの女を追い出せ。
もちろん、我が一族のことを知った以上、記憶は弄るがな。まあ、私はその手の力を使ったことはないから、無事に弄れるかどうかは、わからないが」
「記憶・・・・。そんな・・そんなことをすれば、今後の人生にも」
「影響は出るだろうな。
それにしても・・・・酷い男じゃないか。零士? 子供さえ産めば一族で守護してやると言うのに、それを拒否するなんて。狂人になりかねない状態で放り出して生きていけと言うなんて、随分な仕打ちだよ」
何を選ぶことが正しいのか。私には、それが全くわからなかった。
「不思議に思ったことは何度もありましたけど・・・・そういうことだったんですね。季節外れの冷気を感じたり、気味が悪いと囁かれたりした理由が、ようやくわかりました」
「・・・・黙っていて申し訳なかった。だが、私の我儘で雇った君に、余計な負担を背負わせたくはなかったんだ。こんな形で話してしまうなら、初めから明かしておけばよかった」
「そんな。零士さんが謝ることなんて何もありません。それに、私は少し嬉しいんです」
「嬉しい?」
混乱していた私には、奏子の心情がよくわからなかった。だが、彼女は普段通りの笑顔を絶やさず言った。
「私だけじゃないんだって、こんな身近にいるんだって・・・・それがわかって嬉しいんです。不謹慎かもしれませんが、何だか安心したんです。だから謝らないでください。ようやく昔の疑問に決着がついたところですから」
偽りも躊躇いもなく、笑顔を浮かべてそう言った奏子に、私は心底安堵したんだ。負担を増やさずに済んだ、彼女には必要なことだったんだと、そう思った。・・・・そんな考えが、甘いとも知らずに。
奏子に全てを話した翌日、私は父に呼び出され、信じがたい言葉を吐かれた。
「あの女との間に子供を作れ」
「・・・・は? な、何を言って・・・・子供? 私は結婚しているんですよ? すでに3人の子供がいて、律子は4人目を妊娠している。当然、知っていますよね。それなのに何を」
馬鹿なことを、と言う前に言葉が返ってきた。
「我々に必要なのは力だ。権力はもちろんだが、何より除霊師としての力がいる。そしてそれは、種類が多いに越したことはない」
“種類”。その一言を聞いて頭が痛くなったよ。生まれる子供をどう思っているのか、その一言で嫌でも理解できた。
「そうだとしても、なぜ私なのです。奏子に一族の子供を産ませたいのなら、分家の誰かと奏子本人と話し合って結婚させるのが筋でしょう。なぜ私が、そんな真似を」
「分家の屑共との間に産ませたところで、どうせ碌な子供は産まれん。“零の力”を継いでいるお前の子供でなければ意味がない」
「いい加減にしてください! そんな人道に反すること、できるわけがないでしょう! そもそも、奏子は全盲の己の身を鑑みて子供を産む気はないと話していた。我が子が同じになってほしくないからと・・・・恋愛すらしてこなかったとすら言っていたんですよ? それなのに、彼女の意思すらも無視して、そんなこと・・・・!」
「では追い出せ」
まともに話し合う気など、父には初めからなかった。ただ、己の思うままに全てを動かしたいだけだ。だからこそ、そんな残酷は言葉を吐けたんだろう。
「子供を作るのが嫌だと言うなら、今すぐあの女を追い出せ。
もちろん、我が一族のことを知った以上、記憶は弄るがな。まあ、私はその手の力を使ったことはないから、無事に弄れるかどうかは、わからないが」
「記憶・・・・。そんな・・そんなことをすれば、今後の人生にも」
「影響は出るだろうな。
それにしても・・・・酷い男じゃないか。零士? 子供さえ産めば一族で守護してやると言うのに、それを拒否するなんて。狂人になりかねない状態で放り出して生きていけと言うなんて、随分な仕打ちだよ」
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