竹一族の記憶

夕凪ヨウ

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償い煙は3本と少し 〜竹一族の記憶(六)〜

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 去年までは及び腰だった集まりだが、今年は違う。
 生みの母さんのことを聞いて、数週間が経過した。夏が深まり、蝉の鳴き声が増え、気がつけばお盆になっていた。
 お盆になると、うちには竹一族の分家が集う。1年間の働きを労うというのが第一だが、ぶっちゃけ好きなだけ酒を飲みたいがための集まりなんじゃないかと思う。ただ、表向きとはいえ、旅館である以上そちらも疎かにはできないので、俺たち家族は多忙を極める。特に、父さんと母さんは休む間がない。
「おい、あれ四音か? 何か去年までとは・・・・」
「身長が伸びただけじゃないの?」
「いや違うだろう。憑き物が落ちたような顔をしている」
 分家が俺の顔色を見て感情を動かすのは常だったので、生みの母のことを聞いて、すっきりした顔をしているのはわかるらしい。だけど、俺は何も話さなかった。お酌なんてしなくていいと姉さんに言われているので、十蔵さんの手伝いをしつつ(番頭さんと呼ぶのは仕事中だけにした)過ごした。
「今年もお疲れ様でございます、ご当主様」
 父さんは仰々しい挨拶が嫌いらしくーー自分より年上の人間が、平気で頭を下げることに抵抗があるのだろうーーこの集まりには前向きじゃない。何より、死んだ自分の父を思い出すのに複雑な気持ちを抱いている。
 父方の祖父・清二は俺が2歳の時に死んだ。だからこそ、元々他人のような相手だったが、過去を聞いて余計にそう感じた。だけど、別に恨んでいるわけじゃない。死んだ人を恨んだところで、何か変わるわけでもないし。
「そうだ四音、今年はを披露したらどうだ?」
 一樹兄さんの提案に、分家は首を傾げた。意味がわかるのは、俺たち家族だけだ。
 いつから始まったかは忘れたが、俺はお盆の集まりで笛を吹くのが当たり前になっていた。もちろん、除霊の笛ではなく普通の笛だ。基本的にどんな楽器だろうが、1度見て聴けば弾けることを不思議に思っていたが、今思えば母さんの血なのだろう。
 それはそれとして、一樹兄さんの言葉の意味は、母さんの形見の三味線を弾いてみたらどうだ、ということだ。あの日の後、父さんは手入れしつつもしまっていた三味線を俺に渡した。せっかくだから弾けるようになりたくて、秋子さんに教えてもらっている。音の出し方がわからず首を捻っていたら、当たり前のように教えてくれたから驚いた。
「それ良いな。取ってくるよ」
 三味線を下げた俺を見て分家の全員が息を呑んでいた。母さんの話は悪い意味で誰もが知っていたため、当然の反応だ。揃って父さんを見るが、何も言わないので、彼らも何も言えない。
 俺は教えられた通りの角度に構え、糸巻きの強度を確認した後、おもむろに撥を弾いた。その瞬間、少し騒がしかった部屋の空気が静まり返る。咀嚼音や喉を鳴らす音すら消え、三味線の響きだけが屋敷中に伝導した。ひと月ほどの練習と考えれば、悪くはないのではないかと思う。
 一曲を弾き終えて頭を下げると、割れるような拍手が響いた。普段の扱いは良いとは言えないことを考えると、音楽とは偉大なものだと思う。
「ありがとう、一樹兄さん。いい練習になったよ」
「それなら良かった。上手だったぞ」
 家族が褒めてくれるのは嬉しかった。だけど、その輪の中にいない人をーー賢三兄さんを思い出して、少し顔が曇る。理由はよくわからないけれど、賢三兄さんは集まりに顔を出さない。おまけに、家にもいない。
「母さん。賢三兄さんは、また烏天狗一族の里に?」
「ええ。多分、これからも変わらないと思うわ。四音も大学生になって家を離れるかもしれないから、いてほしいとは言ったんだけどね・・・・」
「・・・・そっか。ま、色々あるよな」
 賢三兄さんにも練習の成果を聴いてほしかったと思いつつ、俺は三味線をしまいに向かった。
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