竹一族の記憶

夕凪ヨウ

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償い煙は3本と少し 〜竹一族の記憶(六)〜

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 長だけの出迎えは常のことで、こちらの意思を尊重してくれる姿勢が変わらず好ましい。
 秋が訪れている里は、美しい紅葉が並んでいる。春と秋しかないこの場所は、不思議だが居心地が良く、人間の里のような権力争いもない。ただでさえ数を減らしている以上、余計ないさかいは必要ないということだ。やはり、人間の寿命を遥かに超える者たちは、悟りでも開いているかのようだと思う。
「毎年ありがとうございます、賢三様。しかし、お屋敷で一族の皆様が集まっていらっしゃるでしょう。よろしいのですか?」
「いいんだよ、黒鉄。僕は昔からあの集まりが嫌いだし、先祖を思い出して感傷にふける気も起きない。そんなことをしているくらいなら、君たちの仲間を弔うさ」
 そう言って歩き始める賢三様は、和の喪服に身を包んでいる。これも毎年のことだ。弔いはあっても、お盆と呼ばれる習慣のない我々にとっては新鮮だったが、もう慣れてしまった。15年ほどしか経っていないはずだから、我々にとっては驚くほど短い時間だ。
「鋼は若衆たちと宴会を?」
「はい。今頃はついの舞を行っているでしょうから、到着する頃には合流するかと」
「そう。他のみんなとは明日以降に話すよ。思い出話は、いくら聞いても飽きない」
 そんなことを言いながら田畑を抜け、私たちは丘の麓にたどり着いた。
 麓には無数の墓がある。丘の頂上に立てた奏子様のものよりも簡素だが、名とお供え物は同じだ。賢三様は1つ1つの墓に手を合わせ、長い祈りを捧げている。私も同じことをするが、念のため、賢三様が終わるまで待っている。
「父上、賢三様、お待たせしました」
「やあ、鋼。宴会は盛り上がった?」
「はい。皆、酒と賑わいが好きですから」
 鋼は笑いながら進み出て、僕たちと同じように手を合わせた。ただ、彼ら一族は神や仏を信じているわけではない。いや、存在自体は認めているけれど、妖怪である自分が深い信心を抱くことを躊躇している。昔と違って軽口は叩けるようになったのに、根っからの真面目さは変わらない。


 お参りとお墓の掃除を済ませて、僕たちは黒鉄の家へ行った。枝葉や藁で作られてはいるが、他の家よりは一回りほど大きい。宴会は外で行うのが基本なので、家の中は静かなものだった。
「今年は彼女から、こちらを貰いまして」
 そう言いながら鋼が取り出したのは、真白い陶器の酒瓶だった。表面には、雪の結晶の絵が散りばめられている。それだけで送り主がわかった。
「いいものができたんだね。有り難く頂こうか」
 手酌で飲むのはいつものことだ。2人・・・・いや、烏天狗一族は、揃って僕を主人と慕ってくれる。それは嬉しいことだけれど、僕はできる限り近い距離で接したい。そうしなければならない、ではなく、そうしたいのだ。だからこそ、彼らが敬称をつけて僕のことを呼んでいても、気軽に里へ来ては他愛もない話をすることも多い。特にお盆の時期は、僕はこちらに入り浸っている。
「2人には改めて礼を言うよ」
「え?」
「いや、元々、里に入るのは妖怪と縁を結ぶ力を持つ、僕のような一族の人間だけだったでしょ? お墓参りとは言え、君たちを視ることかできない四音を入れてくれたことには感謝しているんだ。おかげで、あの子は前を向けた。・・・・ありがとう」
「そのような・・・・。選んだのは四音様ご自身です。何より、賢三様のお力なくては叶わなかったこと」
「私も父上と同じ気持ちでございます。賢三様がいたからこそ、四音様は立派にお育ちになったのです」
 僕は思わず苦笑いを浮かべた。出産まで面倒を見て、遺言に従って奏子さんを埋葬し、未来の約束を四音と交わしたーー彼らの方が、よほど力になっている気がしてならなかった。
「気持ちはありがたく受け取っておくよ。だけど、僕は今でも後悔しているんた。あの丘の麓に眠る者たちを、救う手立てはなかったのかと」
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