竹一族の記憶

夕凪ヨウ

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償い煙は3本と少し 〜竹一族の記憶(六)〜

十三

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「思い出したら腹が立ってきたな」
 そんなことをつぶやきながら、賢三様は煙を吐き出した。煙管きせるを持つ姿が、なぜここまで様になるのか、よくわからない。私と父は同じように煙を吐き出しながら、その一言に苦笑いを浮かべた。
「しかし、毎年思い出されているのでしょう?」
 尋ねると賢三様は頷いた。
「嫌でも話題に出るからね。不可思議な死だったことは知られているし、予言も僕を指していると全員理解している。
 ただ、事件のように見える現場をのが、僕であると確信を持っているのは父さんと兄さんだけだ」
 一樹様が真相に気が付かれたのは、清二様の三回忌。祖父の死に疑問を持って調べたところ、本当のことを知って酷く混乱されていた。泣きそうな顔で私たちに詰め寄り、答えられずにいる中で賢三様が頷いたものだから、混乱を通り越して落ち着かれていた。
 結果とは言え、現在の一樹様を作る一部となったのは間違いない。
「綺麗な満月だ。姉さんなら和歌の一首でも詠むかも。鋼たちは?」
「あくまで人間の文化ですからね。個人的にのめり込む者はおりますが」
 父の答えに賢三様は笑った。それが珍しいことであると、理解されているからだ。人間よりも遥かに長い時を生きる妖怪にとって、移りゆく人間の文化など気に留めるものではない。実際、私も父も興味はない。知識として入れているだけだ。
「少し眠くなってきたな。泊まっていい?」
 その問いに、私たちはまたしても苦笑いを浮かべた。私は思わず声を上げる。
「それも毎年聞かれますが、泊まらなかった年はありませんよね?」
「お盆の間は帰る気が起きないから。それに・・・・こっちの方がよく眠れる」
 そう言うなり、賢三様は煙管の灰を落として囲炉裏に近づき、その場に横になった。私たちの顔を見ないようにして。


 16年前、清二様が亡くなった日から、賢三様は眠らなくなった。正確には、眠れなくなったのだ。その理由を後悔と呼ぶのが普通だろうが、賢三様ご自身も私たちも、そうではないとわかっている。
 清二様亡き後、零士様が当主となったが、入れ替わりの時期というのは分家が騒ぐ。
 次期当主である一樹様の婚約者、唯一の娘である美桜様の婿、先代当主と同じ力を持つ賢三様への期待と疑惑、四音様(当時は四郎様だったが)の今後など、あらゆる問題が降りかかった。
 諂う姿を見るのは日常茶飯事、濁った言葉を流れるように吐く。そんな環境下で、賢三様は分家を牽制することを選んだ。兄姉、弟に大して無礼な言動をした者たちを逃さず脅迫にも似た忠告をし、余計なことをさせないように策を巡らせ続けるーー。つまりは、休むことなく頭を動かし続け、凄まじいストレスを抱えることになった。気を張り詰めすぎているが故に、眠れなくなったのだ。
「・・・・寝息を立てられている。灯りを消そう」
 父の言葉で我に返り、私は蝋燭を消した。鈴虫に似た鳴き声があちこちから聞こえるが、決して煩くはなく、心地が良い。
「清二様の49日の後、賢三様が言われたことを覚えているか?」
 小声で、父がそんなことを尋ねた。私はおもむろに頷いた。
「もちろんです。忘れるはずがありませんよ」


 ーー鋼、黒鉄。皮肉なことに、僕は清二と同じ力を持っている。だからこそ、あんな人間になりたくないし、なる気もない。でも、ならないとは限らない。だから、もし僕が清二と同じようになったら見捨てて。
 ーー見捨てる?
 ーー方法は任せるよ。とにかく、そうなったら見捨ててほしい。もしかしたら、凄惨な最期っていうのも、そういうことかもしれないし。


「7歳の覚悟とは思えなかった。あの瞬間、私はーー鋼、お前の主人は賢三様しかいないと思った。勝手な妄想かもしれないが、今よりも大人になった賢三様の側に、お前が立っている未来を見たんだ」
「父上・・・・」
 思わずつぶやくと、父は苦笑いを浮かべた。わかりにくいが、着実に年を重ねている。
「だからこそ、私はお前に甘いのかもな」
 私は何度も修行に出され、しごかれた子供時代を思い浮かべてため息をついた。
「中々緩い裁定ですね」
 互いに笑いを漏らしながら、私たちは盃を突き合わせた。
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